押しても駄目なら

風が吹けば、と共に非線型現象の第二例でしょう。

敗戦日記 渡辺一夫著 博文館新社 ¥3,500-

2006-08-30 16:43:51 | 気になる本
1945年3月11日から8月15日まで。大変抑えたインテリの日記。ちょっと勉強しないとパラパラとは読めない。しかし、ぱっと読んで、判る箇所もある。
例えば、「生きねばならぬ、事の赤裸々な姿を見きわめるために」

しかし、自民党次期総裁候補の憲法改正の議論、自衛隊を国会審議なしに海外派遣出来るように、・・・のバタバタ取り決め、提案を見聞きすると、この日記が60年余り前に書かれたのか?と恐ろしくなる。

松井教授の東大駒場講義録 松井孝典著 集英社新書 ¥735-

2006-08-26 12:00:42 | 気になる本
副題はー地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探るーである。多くの大学では入学の時点で進路は決められるが、東京大学では駒場における二年間の教養課程では大まかなグループ分けが行われるだけで、細かい進路は主として本郷における専門課程に進む時に振り分けられる。従って、駒場における講義には進路決定を役に立つような講義が行われる場合がある。これもそうした講義の一つで、専門課程、理学部では更に大学院課程へ進むことを明確にしている。

読んでみると大変面白い。高価な本でないので是非購入して、一読をお勧めする。
内容は副題の通りであるが、もう少し説明すると、一万年前から46億年(太陽・太陽系の年齢)にわたる地球の歴史の最新の研究成果の解説・説明・解釈である。
私が面白いと思った個所をつまみ食い的に書き留めてみよう。

○地球の生物圏はどの位もつか?答えを先に言うと五億年だそうな。生物圏と言う言葉の意味は光合成による生物とそれに支えられている生物とが相互作用して生きている世界が存在することを指すとしています。そうした生物圏は炭酸ガスの存在が根幹にあり、空気中の炭酸ガスの量が増えると温室効果に依り、気温が上がり、海からの水蒸気量が増え、雨が多く降り、雨が炭酸ガスを溶かし込んで重炭酸イオンとなり、岩石を溶かして炭酸カルシウムとして海底に降り積もる。貝とかサンゴ、サンゴ礁もそう。だから、大気中の炭酸ガスは減る。しかし。こうした海底に堆積した炭酸カルシウムはプレート運動で大陸の下へ潜り、火山活動で炭酸ガスとして大気中に再放出される。これは松井先生の唱えた炭酸ガスのフィードバックループ説である。五億年は太陽の明るさが僅かであるが、ある一定の割合で減少しており、それを考慮するとフィードバックループがあっても、五億年で炭酸ガスが減少して、光合成が成り立たなくなるらしい。

○この次に人間圏の話があり、その中におばあさん仮説がある。おばあさんの骨が出てくるのは現生人類だけで、類人猿、ネアンデルタール人などにはないそうです。おじいさんの骨はこれらの世界にはあるそうです。そのことを捉えて松井先生は現世人類が栄えているのにはおばあさんの役割があるのだろう、と想像し、おばあさんのお産婆さん的役割、子育ての指導、手助けなどが大切なのだろう、と唱えています。この説明を読んだのか読まなかったのか、石原慎太郎氏はトンデモナイ誤解をされて、この本が、その事で有名になったことがあったとか。

ジャレド・ダイヤモンドの文明崩壊は一万年程度の歴史の話だが、併せて読むと面白い。他にも沢山著者独自のアイデアが展開されている。

◎ちょっと気になったことだが、松井教授は度々生徒に質問はないのか?ないと、今日の私の話は全部判ったと思われるよ、私はそう理解するよ、と挑発している。私は地方旧帝大で大学院の講義をした経験があるが、ある時期から学生が質問しなくなった。私の記憶ではそれは偏差値教育を受けてきた学年辺りだった。偏差値教育はいまでは当たり前のようだが、その弊害については余り知られていない、議論されていないようだ。私の独断の偏見では、毎週のようにテストが繰り返され、お前の偏差値はこのくらい、と知らされる。だから、進学出来る高校はこの辺、と告げられる。これで殆んどの生徒はやる気を失くす。それが第一。その次には下手な質問しているより、単語の一つでも覚えて、偏差値を良くする事が大切、と言う思考法が植えつけられる。今やこうした教育を受けて、先生になった方々が生徒を教えているのだ。あるいはもう三代目かも知れない。
こうした環境では何が学問的に大切か、何が判って、何が判らないのか、なんてまどろっこしい思考は育てられないのかも知れない。

和歌文学の基礎知識 谷知子 角川選書

2006-08-21 22:51:39 | 気になる本
表題の通りの内容を31項目について解説、1.和歌の始発、2.長歌・反歌、3.枕言葉、4.序詞、5.掛詞、6.縁語、・・・、30.和歌と宗教、31.江戸の和歌 等などである。
 選書というサイズがあるのかどうか知らないが、新書より一回り大きく、200頁余りの容量で、例題が100首ほど、引用和歌が同じほどあり、楽しく解説を理解し、味わう事が出来る。余裕があれば手元に一冊あると随時楽しめそうである。

 新たに楽しんだ和歌を順不同で書留めておこう。

〇霞立つ長き春日を子どもらと手まりつきつつこの日暮らしつ 良寛 31.江戸の和歌
〇桜花散りかひくもれ老いらくの来むといふなる道まがふがに 在原業平 10.祝賀の歌
著者の解釈を書いておくと(桜花よ、散り乱れて目の前を暗くしてくれ。老いがやって来るという道がわからなくなるように)
 この二首は以前なら判らなかっただろうな、と感じた。こうした歌が判る様になると言う事は私も歳をとったということなのだろう。
〇花誘ふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものは我が身なりけり 西園寺公経 10.祝賀の歌/引用 
 この歌も老いをうたったもの、時代は下っているが、業平よりは素直な歌で難しくない。
〇花の色はうつりにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに 小野小町 5.掛詞
 この「世にふるながめせしまに」はぼんやり時間を過ごしてしまった、と解釈されている。短い時間の経過を指しているようである。

 この本でちょっと驚かされた歌は次の一首。
〇とけて寝ぬ寝覚めさびしき冬の夜に結ばほれつる夢の短さ 『源氏物語』朝顔・光源氏 19.和歌と物語
 意味は(安らかに眠ることができず、寝覚めてしまうが、それが何とも寂しい冬の夜、見届けられない夢の短さよ)というものだが、夢枕に亡き藤壷が立って、「あなたとの恋愛のせいで成仏できないでいる」と恨みごとを言い、光源氏は狂おしく取り乱す。傍らに寝ていた紫の上がその異変に気づき、「一体何事か」と声を掛け、光源氏は目覚めるが、ただ涙を流すのみ。暫くの沈黙の後、光源氏の詠んだ歌がこれ。凄いですね。この歌は独り言だそうです。そうですよね、「夢の短さ」は藤壺に言いたいのでしょう。この時源氏の心は藤壺に向いているのでしょうね。それをさらりの歌にしてしまう、紫式部の凄さです。

 最後に、藤原俊成、藤原定家について著者は充分な紹介をしている、と思う。歌合には判者と呼ばれる審判がいますが、俊成は六百番歌合で判者として判詞を書き、後世に伝えられる歌論にも匹敵するものを残しているそうです。定家についても優れた和歌と業績が示されています。

「小泉時代」とこれから外交・安保 藤原帰一 朝日新聞2006/8/10

2006-08-13 08:38:34 | 気になる記事
朝日新聞の表記の記事・藤原帰一インタビュー はなかなか中身の濃いものだと思う。冒頭に「一言でいうと『小泉外交』はなかった」とあり、「彼は内政の政治家。日米関係を強くしたと言われる。」対米重視の中曽根首相と比べると「中曽根首相は中国とも良好な関係を築いた。日本の国益のために、米国を『外交の道具』としてどう使うか考えた」
「だが、小泉首相にとって、米国は『内政の道具だ』」が藤原教授のご意見。なるほど、これは面白い、上手い表現だ。さらに、「小泉首相の内政の話は広がりがあるが、外交の優先順位は低く、場当たり的だ」と決め付けられている。しかし、藤原先生は外交がご専門で内政、政治は専門からやや外れるから、そう感じられるのも知れない。
〇日米関係
藤原教授によれば、極東地域での米国の核抑止力には頼るが、他の地域では経済協力を使って独自外交でいうとう基本姿勢であった。しかし、小泉首相は経済協力は落とし、米国との軍事協力を極東に限らず広げた。これらの点で歴史的な転換が起きていると理解している。
そもそも「日米同盟、日米安保に基づく問題は、中国、台湾、北朝鮮であって、その外での平和構築などは、どちらかといえば米国はあまり手を出したがらない領域だった。だが、9.11後に米国は地域介入に積極的になった。そこで日米同盟を支えるために、極東以外にどこまで関与するかという問題が出てきた。小泉首相の回答は『やります』と非常に明確だった」
「日米同盟をつなぎ留めるためいに米国の要請を受け入れた方がいい、湾岸戦争のときの海部首相の二の舞はできない、というのならわかる。だが、小泉首相はそれ以上。どのような場面でも、日米が軍事的に緊密に連携すれば、それだけで日本の国益になると考えている。」これは理解できないと藤原教授。
〇アジア関係
東南アジア諸国連合(ASEAN)連携を、債権国としても、強める事が必要。例えば、直接投資の規制緩和、労働市場の開放(これには慎重であるべし)などを藤原先生は上げている。こうしてASEANとの関係を強化する一方、このパイプを利用して中国を牽制する力に使うべきである、がその基本的な考え。北朝鮮との問題、関係についても突っ込んだ言及あり。

米国との同盟の今後については藤原教授はかなり悲観的である。極東外での幅広い強力を約束し、たくさんカードを切りすぎた。どの国も兵隊を出したくないレバノンなどに米国から自衛隊派遣の要請を受けたらどうするのだろうか?と疑問を投げかけている。ポスト小泉の首相に対してだろうか・・・。

「危険な人物」ーダカーポ・2006/8/16号

2006-08-12 16:36:32 | 気になる記事
2005年9月11日の衆議院議員選挙で衝撃的な勝利を得た小泉内閣であった。小泉現象とかテレビの罠などと言われ、どうしてそうなのか、をあれこれ解きほぐす試みがされた。例えば、香山リカ:テレビの罠:ちくま新書。当時の資料を駆使して、あれこれの解釈を試みているが、私には説得力が感じられなかった。
このダカーポの記事には井上章一、宮台真司などの新しい解釈、理解が示されています。要約して引用すると、「小泉純一郎に象徴されるように、日本では今まではありえなかったタイプの人物が各業界を代表し、<代表するかのように、>「キーパーソンさ」されている。「もの言う株主」の村上世彰しかり、ライブドア株を96億円で購入したUSENの宇野康秀しかり、メジャーから日本プロ野球に復帰した新庄剛志しかり。」と言う。そうかな?と思うが、もう少し言い分を聞いて見よう。
「では、そうした人物が台頭してきた理由は、一体どこにあるのだろうか。「長い間日本は共同体に埋没したり、他者に同調したりというコミュニケーションを前提とした民主主義でした。それが機能しなくなっている。ようやく自分で決定するスタイルの社会になりつつあります」そう回折するのは、社会学者で種と大学東京准助教授の宮台真司さん。」ふーん、これはかなり説得力がある。もう少しお説を、要約して、拝聴しよう。
「<こうした試みを政治の世界で大胆に実行したのが>小泉首相。従来の集票システムに頼らず選挙に勝った。それどころか、従来型の政治家を“抵抗勢力”と切り捨てた。昨年の衆議院選で刺客を送り込むなどと、以前は考えられなかった手法です。<しかし、これはサッチャーがすでにやっていた!>でも、今、こういう状況は目立ってきていますが、30年くらい前から日本は徐々に変わってきていると思います」と宮台真司さんは仰る。
人文学者の井上章一さんも宮台真司さんと同意見だそうだ。
「町の有力者や業界団体を抑えれば票が集まる時代が終わりつつある。そこに現れたのが小泉純一郎という人です」と井上さん。「小泉首相は党内での支持基盤が弱いから、医師会や郵便局長に圧力をかけても、選挙で票は集まらない。だから、大衆に直接アピールするしかない。」そうか、小泉劇場のポイントはここにあるのだ。「・・・とはいうものの、亀井静香も野中広務も小泉があそこまで自民党の既成のワクをはみでるとは思わなかったでしょう」と笑う井上さん。
編集部のまとめだと思うが、こうした既成概念の壊れつつある社会では、つまり今日の日本での「危険な人物」は1.支持基盤が弱い 2.専門分野での実力にたけている 3.複数分野で活躍する事が出来る 4.常に自分の価値基準で物事を決定している 5.人に嫌われても平気 なのだそうだ。

靖国問題も小泉首相にとってはこうした視点からしか捉えていないのだろう。
香山リカの著書はもう一度このことを念頭に読み直して見よう。

ジャスティン・ガトリン(米)のドーピング(禁止薬物使用)違反

2006-08-01 23:38:22 | 気になる記事
アテネオリンピックの100m金メダリストのJ.ガトリンのドーピングが問題になっている。朝日ネットによるとコーチのトレバー・グラハムも資格停止の処分を受ける可能性があると言う。グラハムはこれまでにティム・モンゴメリ(ドーピングでメダル剥奪)、マリオン・ジョーンズ(ドーピングに関して限りなく灰色)などのコーチをしてきた。日本人であれば倫理も地に落ちたと言われそうだが、これは金の問題だろう。金が稼げるのだろう、だから懲りずにドーピングに手を染めるのだろう。

文明崩壊

2006-08-01 23:28:46 | 気になる本
文明崩壊/滅亡と存続の命運を分けるもの ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一訳 草思社 上(¥2000)下()を読んだ。
最近の科学的な成果、放射性同位元素による年代測定、年輪年代法、超微量分析などなどを駆使して資料に基づき過去を暴いた上に客観的な推論を構築する。彼は文明の崩壊を招くのは五つの要因があると言う。1.人々が意図せずに環境に与える損傷。2.気候変動。3.近隣の敵対集団。4.近隣の友好集団。5.さまざまな問題にたいする個別社会の対応。この最後の項目が面白い。個別社会が問題をどのように解決しようとしたか、そもそも解決しようとしたか?などを考えなければならない、が彼の視点。
いずれにしてもスパンの長い話で図書館の貸出期間中に読みきって理解するのは困難である。しかし、面白い。
日本の政治家に読んでもらいたいとふと思った。彼は次に、今現在、人類の成人病、特に日本人の成人病、を主題にした本を構想中、執筆中とどこやらの雑誌のインタヴューに答えていた。