Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

ダム記。

2008-06-05 | 異国憧憬
 人工物を見て、自然の風景を見るのと至極近しい感覚を抱いたのはとても久しぶりか、あるいは初めてかもしれない。
もう先月の話だが、黒部ダムと高瀬ダムを見てきた。

 黒部ダムは堤高の他、堤体積もアーチ式の中では国内第一位のダムである。ウイングのついた美しいアーチは、巨大でありながら繊細な機能美を感じさせる。5月の中旬、遠くの峰々は昨夜降ったばかりという新鮮な雪を戴き、雨上がりの陽光を眩しく反射させていた。テレビでも写真でも幾度となく目にした黒部ダムではあるが、写真はそのスケールを伝えることができないということを、身を持って知った。「物足りないのでは?」と思われるくらいに近くに見えた展望台は思いのほか高いところにあるし、近くまで降りてしまったら自分がダムの一部に取り込まれるかたちとなって、ダムの形状すらわからなくなる(富士登山の途中に、見慣れたあの富士山の形が消えてしまうようなものだ)。

 山をえぐってトンネルを掘り、自然の川を堰き止めて作られた巨大なダム湖。それは人間の力で自然を加工することに他ならない。それなのに、ダムとダム湖、およびその背景の山々には対立や相反性が全く感じられず、雄大な風景を構成する要素として互いの存在があるようであった。

 ついでというわけではないが、事前情報もないまま高瀬ダムへと足を伸ばした。
ロックフィルダムでは日本第1位の高さを誇る高瀬ダム。高瀬川の最上流にあり、東京電力の管理用道路を使用しなければ辿り着くことができない。よって、このダムに行くには、麓にある高瀬川テプコ館の見学ツアーに参加するか、公認タクシー、もしくは徒歩という選択しかない。ダムへの愛も知識もない人であっても、わけもなくマニアな気分にさせられること請け合いのダムである。

 この「ロックフィル」の規模が、想像を超えていた。毎日何往復も溜まった土砂を運び続けるという色とりどりのダンプカーの車列がつづら折りの道路を登っていく。ジグザグ隊列のダンプは見上げればミニカーのようにしか見えず、その理由は積み上げられたひとつひとつの岩の異様な大きさゆえだ。二人がかりで両手を広げてようやく届くかと思われる岩の幅。それが170m以上の高さになるとどうなるか、その絵が想像できる人はそれほど多くいないと思う。

 作業員以外の観光客がいない朝の高瀬ダムは、人とダンプカーの働く音を除いてはほんとうに静かで、迫りくる山に囲まれていた。毎日溜まる土砂とのいたちごっこにさも当然という態度で対応する人間と、そんなこと知らないよというマイペースな山の群れ。

自然と人との和やかなルーティンワークが今日もそこで営まれている。
ダムの底になにがあったかなんてもはや忘れてしまったかのように。




最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
黒部 (なおや)
2008-06-08 01:04:42
いつかは行ってみたいんだよね。
返信する
オススメだよ! (マユ)
2008-06-11 21:15:30
>なおや

やっぱり、初夏がおすすめだね~
車なら、それほど不便なく行けるんじゃない?
遠くの山々の雪が残っているから、GWあけて5月中旬までがベストだね。新緑の雑木林が、ちょっとずつ色目の異なるいっぱいの緑でパッチワークされてて、ほんとにきれい。

黒部に行ったら、ぜったい高瀬も寄るんだよ~

返信する
5月中旬 (なおや)
2008-06-12 02:49:29
過ぎてるじゃん。
返信する