Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

秋の塔

2008-10-17 | 徒然雑記
 雨上がり、切れ切れに散った雲の後ろには、碧い空が高い。
避雷針のように、あるいは芽生えてすぐの若芽のように伸びる相輪のまわりを、二羽の鳶が大きな円を描いて舞っている。地上からはゆるゆるとしか見えないその速度ですら、彼らの羽に冷え始めた夕暮れの風を大きくはらませ、彼らの耳にはぴゅうぴゅうと甲高い音を鳴り響かせているに相違ない。

 彼らは、相輪がまるで糸巻き棒であるかのように、くるくる、くるくるとその高さを変えながら回り続けていた。
繰り返される軌道はそのまま祈りに置き換えられるようで、いつか数千拝に届く頃に、相輪はその風に煽られてゆるりと回転を始めるに決まっている。



くるくると次第に速度を上げながら回転する相輪は、風鐸をちりちりとかまびすしく鳴らしながら、日暮れとともに今日という日の終わりを告げるのだ。

そうしてその音が鳴り止むころには、日が高くなった時刻の朝顔がするのと同じような仕草で、五重の屋根もその翼を静かに畳みはじめる。
先ほどまで威勢よく舞っていた鳶をどろっとした深い夕闇の中から見つけ出すことは多分できない。

力強く開いた屋根を閉じて躍動感を失った夕暮れの五重塔は、まるでひとつの墓標のように薄暗い僅かな斜陽を背景にして真っ黒な四角へと姿を変じる。
闇に呑まれる大きな墓標がふたたび翼を開く夜明けまで、お堂の痕跡ばかりを遺す寺領の片隅で五重塔はひとときの眠りに滑り落ちる。








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