部活日誌

部活動(ひとり文楽部)の記録など

新版歌祭文

2010-05-17 | 文楽
さあ、今日も意味のないことを熱く語ります。
 

【野崎村の段】

久作どんはいい人だなぁ。

久松のために久松の奉公先へ山芋を届けようとしたり、なけなしのお金を出してあげたり。
奥さんの連れ子であるおみつを可愛がり、久松と添わせてやろうと気にかけてあげたり。
何よりもおみつが(大根切るのはちょいと下手くそだが)働き者の孝行娘に育っていることが、久作のいい人・いい親ぶりを証明していますよね。

なのに、おみつと来たらそんなできた父親・久作どんの、よりによって頭に灸を据えるとは。
「アッツー! おみつ、どうするぞい、そこは頭じゃがな!頭に千里があるかいやい」
と、久作どん、恩を仇でかえされる、の巻。

玉女さんの久作、いい人でした。
爺語りは綱・住・文字久さん3人ともよかった。特に住さんの爺・婆は効きますね。
目の見えない母親におみつの出家を悟られまいと、
「暗き盲目にそれぞとも 知らず喜ぶ母親の、
 心を察し誰々も 『泣き声せじ』と喰いしばる
 4人の涙 八つの袖 」
のところなどでは、やっぱりじ~~~ん。
4人が泣き声立てないように喰いしばってるので、私も負けじと涙をこらえました。
冷静になってみれば、オレがこらえてどうする、なんですが。

簑助おみつ、かわいいねぇ。考えようによっちゃ、
「あなた達を思って私は身を引きます・・・ええ、こうして髪も下ろしましたしねぇ・・・」
と、情念系怖ろしさもないではないおみつですが、健気で可愛らしくなるのはさすが簑助さん、恋する娘さんは盤石ですな。



【油屋の段】

野崎村とはうって変って大阪の商家の賑やかさ。
ここは小助とだはの勘六が主役みたいなもんですね。
それはそうと、「だはの勘六」って、いつも裸だから「だは」と異名がついた、とのことだけど、その「だは」ってもしかして「はだか」の業界用語みたいなもん?
 「ルービーをみーのーしてろーげーろーげー」
みたいな。 そこ、相当気になるところ。

玉也さんの勘六は生き生きしていて、少々おバカながらも愛すべきキャラがしっかり。
勘十郎さんの小助は終始おいしいところを持っていきますね。
しまいには顔にこんもりご飯ものっけてるし。

一度、咲大夫さんの唾を頭に浴びるような位置で大音量で聞いてたんですが、よくまああのテンポでセリフ噛んだり声が裏返ったりしないもんだなーと。
それが当たり前なのかもしれませんが、あの熱演、客席も咲大夫さんの語りに巻き込まれ、自然と拍手が湧いていました。
隣で燕三さんが時々ニコニコしているのも目撃しましたが、燕三さんも咲さんの語りで笑ってたんでしょうか? 
それとも今夜の夕飯のことでも考えて・・・

しかし残念ながら私はこの段、笑えたけどホロリと来るには至らず。
だって、勘六の裸の胸にある突起・・・所謂ちくびですね。それがどうしてもおかしくて。
ああ、そんなところばっかりに気を取られる己が憎い!





【蔵場の段】


若いもんってヤツは、親や大人の言うことなんてなーんにも聞く気がないもんだ。


と、一言でまとめてみましたが、このお話、結果はそうなってしまいました。

お染久松は、あんなにおみつの父親・久作(いい人)がこんこんと言い聞かせても、
お染の母・お勝(後家)が衝撃の告白(若い男と懇ろになってうっかり妊娠しちゃったよ)までして言いくるめても、
結局は死んじゃった。

考えてみれば、おみつもお染・久松もみんな10代の若者。
特に久松のような10代男子つったら、エロいことで頭いっぱいだったり、盗んだバイクで走り出したり、校舎の窓割ってまわったりしてもおかしくないお年頃。
現に、だはの勘六なんかはそういうクチですね。荒れた10代、ってやつ。
え?そんなのは80年代あたりまで?
今の若者はそんなことしない?
すみません、金八世代なもんでつい・・・

とにかく。
早まるなーー! と大人が止める間もなく先走ってしまうのは、まさに若気の至り。
そんな若さ故の愚かさを誰が笑えましょうぞ。

まあ、もしお染久松が結婚したとしても、一生「オレ達の幸せはおみつの犠牲のうえで成り立ってる」と思えば、それまた辛い話だしね。

人生、死んじゃった方が生きていくより楽に思える時もある。

が、ちょっと待て、若人よ。“わかと”じゃないよ、わこうどよ。

生きてればそのうち、
「あー、あの時あんなに思いつめてあんな男と結婚しなくてほっっんとよかった!」
と、思い出すたびに安堵したり、

「あの女、今頃どうしてるかなー。オレにはできなかったけど、どこかで誰かに幸せにしてもらってくれよ・・・オレの永遠の恋人よ・・・」
と見当違いの郷愁にひたったりもできるようになると言うもの。

特にお染、久松さん。あんた達、あと5分、いや、30秒、死ぬのを待ってさえいれば、人生まったく違ったものになったのですよ!
若者にとってその5分がこらえられないのかもしれないが(いやらしい意味じゃなくてね)、あなた方の未来にはどんだけ時間が残されてると思ってるの!
おみつのお母さんを見なさい!生きたくても、娘の嫁入り姿が見たくても、病魔に侵されあとわずかの命ですよっ!

若者よ、生き急ぐことなかれ!


・・・・・・


私は誰に向かって熱く説教をしているのでしょう・・・
相手、死んじゃってますし。
というか、そもそも架空のお話だし。
しかも人形。

誰かなんとかしてください、この暴走列車。