部活日誌

部活動(ひとり文楽部)の記録など

2014年4月公演◆菅原伝授手習鑑 (二段目-2)

2014-04-30 | 文楽
【杖折檻の段】

文字どおり、覚寿が娘ふたりを杖で ちやう/\/\、 と打擲する段。
びしびしびし、でも、ガシガシガシ、でもなく、ちょうちょうちょう。
そこ、どうでもいいですね

気の毒なのは庇って巻き添え食った立田前ですよ。ほんと、立田はかわいそう。
夫の宿祢太郎に「無楊貴妃」だの、「お次の前」だの言われ、挙句殺されるという。
作者はいったい立田前になんの恨みがあったんでしょうか。

苅屋姫の実母である覚寿は育ての父となる菅丞相への義理に背く娘のふしだらを「ちょうちょうちょう」と咎めなくては、家の主として筋が通りません。

しかし、それを障子の中から菅丞相が止めると、

「生みの親の打擲は、養ひ親へ立つる義理。
 養ひ親の慈悲心は、生みの親へ立つる義理。
 あまき詞も打擲も、子に迷ふたる親心」

と本心を吐露しながら泣き伏すのですねー

和生さんの覚寿はさすが、気丈さ、強さ、品格というものがひしひしと伝わってきました。
が、ここらへんの母としての心情は、呂勢さんの語りで増幅されたように思います。
私には、覚寿が気強いだけでなく、呂勢さんによって、哀れなひとりの老母に思えてなりませんでした。
ま、老母、つってもおそらく50くらいじゃないんですかね。
いや、下手したら40代?
老母・・・
同世代・・・
老母・・・ 

と一瞬頭真っ白になりかけましたが、「六十路に余って白髪頭」とありました。
じゃ、苅屋をいくつで産んだんだって話ですけど。


この段で唯一残念だったのは、菅丞相の木像ですよ。
丞相さまが3度も彫り直して魂込めた木像ですよ?
それがあなた、襖を開けてじゃーーーんと出てきたのが、アレだ。

なんか違う・・・

作った人には申し訳ないですが、あれじゃ丞相様の身代わりにならんと思うわーあかんわー



【東天紅の段】

土師兵衛と宿祢太郎の親子が菅丞相暗殺の悪だくみをしているところを立ち聞く立田前。

「南無三宝一大事、先へ廻つて母様へお知らせ申して。
 イヤさうしては、イヤ、言はいでは又こちらが、言ふてはあちらがこちらが」

と迷ってる場合か!なんですが、立田いい人だからさ。
いい人だから自分の説得で思いとどまってくれると信じちゃってるんですね。
いい人って言うか、世間知らず?
まあ、あんな赤っ面の夫でも愛してたのかもしれないし。

そんな立田をなんと、夫の宿祢太郎は刺殺して池に投げ込むんだから恐ろしや。

宿祢太郎のこと、私はなんとなく単におバカで考えなしの男だから妻殺しも親の言いなりなんだ、と思ってましたけど。
とどめを刺す時には一瞬躊躇しているようにも思いましたけど。

それが、父親が挟箱の蓋に鶏を乗せ、池に流した時のあのバカ笑い!
玉志さんの遣う太郎と、咲甫さんの狂ったような笑い声に、背筋が心底ぞっとしました。

「こいつ、狂ってる・・・」

って。

「そりやこそ鳴いたは東天紅」
「アリヤまた歌ふは東天紅」

て、ほんと薄ら怖いってば。

そして、とどめは咲甫さんの


 だめを



だめを・・・?

そ、それで終わらせるんだ、ここは・・・


言い切られて、まったくもって、後味の悪い段なのでありました。
「だめを!」でなんとなくうなだれてしまうという。


(・・・ウソ。 
 え? ニヤニヤ… だめを、の続きはなんで始まるんだ、次の段は?
 とちょっとおもろかった)




2014年4月公演◆菅原伝授手習鑑 (二段目ー1)

2014-04-29 | 文楽
【道行詞甘替】 【安井汐待の段】


「杖折檻」の前に、今回は飛ばされてますけど道行と安井汐待があります。
ついでなんでちょっとばかり。

この道行詞の甘い辛い?甘じょっぱい?みないなところでは、斎世親王と苅屋姫のふたりを見つけた桜丸が飴売りに扮して
「飴の荷箱の片々に、御ふた方を入れ参らせ」
覚寿の家目指して担いで行くわけですが、顔に似合わず力持ちなのねーとびっくりしますよね。
人をふたりも担いで行くってあなた。
沼津の平作だったら一歩たりとも動けませんね。
桜丸、優男に見えて実はマッチョな西島秀俊タイプでしょうか。
もしくはライアン・コズリングとか?
そうだったら、八重、相当羨ましい。

で、飴買いに来たお客から菅丞相が筑紫に流されることになり安井で汐待ちをしていると聞き、
なんてこった、こーりゃたいへんだ!となるわけだ。

辿り着いた安井では菅丞相の左遷は自分たちふたりのことが引き金と知り、
桜丸も、仲立ちした身にとって
「辛さ苦しさ桜丸、骨にも身にも沁み渡り」
と自分の軽はずみを激しく悔いるのであります。

そしてここがあると輝国のいいもんぶりがよりわかるんですけどねー
「表を立てて心は情け、」
と事の筋を立てつつも菅丞相を土師の里へ寄れるよう計らったり。
姉の立田の前も「東天紅」であっさり夫に殺されてしまうばっかりではなく、一家の嫁として娘として姉として、至って常識的なとこもあるってちらっとわかるし。

輝国の提案どおり、丞相、苅屋は覚寿の元へ、親王は法王の御所へと別れゆく~



2014年4月公演◆菅原伝授手習鑑 (初段ー3)

2014-04-28 | 文楽
【築地の段】


「筆法伝授」で源蔵戸浪夫婦が泣く泣く菅丞相の屋敷を立ち去るやいなや、梅王が
「丞相様が、娘苅屋と斉世親王の政略結婚を企み謀反を起こそうとしているかどで流罪を申し渡された」
と慌ててやって来ます。
桜丸と八重がうっかり調子こいて取り持ったカップルですね。
もちろん菅丞相にとっては冤罪。
しかし丞相様は上つ君の仰せなら受け入れ背くことならぬと、言い訳もせず。
ここを時期ところっと時平に寝返った希世をやっつけようとする梅王を止めます。

ぐぬぅ、希世の間抜け面め。
あんたさっき源蔵に背負わされた机はどうした。
取って取って~ って誰かに頼んで取ってもらったのかこのすっとこどっこい

さ、そこで!
我らが(我ら?)源蔵夫婦登場ですよ!

梅王と違って、源蔵夫婦はあんなに腹の底から願っていた勘当を菅丞相から解いてもらうことは叶わなかった。
要するに、赤の他人。
思い切りぶっ飛ばしても丞相様に咎の及ぶところでもない。

ここでの眼目はすばり!
戸浪にも差添え渡し、共に闘うところですよね。
「女房諸共抜き放し」ですよ、源蔵と当たり前のように共に立ち回りを演ずる戸浪。

この場面でいよいよ戸浪の立ち位置がくっきり浮かび上がって来るわけです。
源蔵とのオフィスラブがバレて退職に追い込まれましたが、元は同じ職場で働くキャリアウーマンです。
決して源蔵につき従うだけの嫁ではないのです。
だからこそ寺子屋で源蔵は、妻の戸浪に自分の計画をすべて話し、協力を求めるのではないでしょうか。

…てな話はこの前 5月公演初日の帰りにみんなとも熱く語り合ったんですけども。
戸浪はキャリアウーマンであった、
源蔵とは夫婦でありながらも同志である、
対等な立場として生きている、
だから源蔵も躊躇せず戸波を抱き上げて築地の上から菅秀才様を助けだせたんだ、
戸浪!
どっちかってえとシンパシー!


って、あんた達、今見てきた5月公演の話をしたらどうだ、菅原じゃなく。
挙句の果てに更に伊賀越の話にまで遡っちゃって。
とも思うんですけどもね、今となれば。


菅秀才を救い出して背負う戸浪と、邪魔をする荒島主税を討とうと争う源蔵。
夫婦共同で主君のために、もしや一番の働きをしているのではなかろうか。
だからこそ、段切りを
「忠義、忠義を書き伝ゆる、筆の伝授は寺子屋が、
 一芸一能名も高き、人の手本となりにけり」
と結ぶのではないでしょうか!!!

か!!! 

か!!!



そんな勢い(とわたくしの熱苦しい想い)のある場を、睦さん、清志郎さんのふたりがまことにぴったりと現してくれて、またしてもわたくしは物語にのめり込むことができたのでした。

そして筆法伝授、築地とアホみたいに使った集中力のおかげで、この後がどんどん怪しくなっていくのであります。

まだ初段ですよ、どうすんだこの後。








2014年4月公演◆菅原伝授手習鑑 (初段ー2)

2014-04-27 | 文楽
【筆法伝授】

さ、楽しみにしていた筆法伝授ですよ!

「好きこそ物の上手とは、芸能修業教への金言」とか演者の方々にとってももっすごい大事な事さらっと言ってますしねー

源蔵LOVE、源蔵応援し隊・隊長 兼 腹弱部長または腰痛部長としてはここ、大事。
しかも、前半は 靖・希が交代で、という期待の布陣!
私は希大夫・寛太郎ペアしか聞かれませんでしたけども。
ひじょーーによかったですね、寛太郎さんはもう言うことなしとして、希さん。
女形の身分の違いもよくわかったし、御台様の彼方此方を思いやる心がしみじみと伝わりました。
それにしても希世、ほんといらんこと言う。
ここは左中弁希世という、ま、源蔵のライバルというか、源蔵は相手してないけど勝手にライバル心を燃やしているおめでたいキャラがうろちょろしてる。
けど、希世、どーでもいい。いやどーでもよくはない、勝野のこと「あぶらこい」とか言うてるけど、
ま、そんなヤツはおいといて。

後に寺子屋で苦しみながら人の子を殺めることの必然性というか、しょうがないよね、と思えるための大事な布石の場です。

だめだ、ダラダラとあらすじを書いてしまいそうになりますがそこはぐっとこらえて。

津駒・寛治師匠の後半。うわーーん、よかったよぉ、源蔵も戸浪も御台さまも。
和生さんの源蔵ももうこりゃ鉄板です。
源蔵といえばわしゃ和生以外考えられん!ですよおっさんですよもう。

職を追われて田舎で寺子屋をやっている源蔵夫婦、久々に丞相様にお目にかかるというので損料屋から裃を借りてきて、その印の紙きれ肩衣にくっつけたまんま御台さまにご挨拶、はっと気づいて慌てて取る戸浪。
オ、オホヽヽヽ、アヽおはもじ、
って…  (T_T)ダァァァっ
え。
ここで涙出るっておかしいですけ?
だってさー、和生さんの源蔵がまた、「源蔵が身の嬉しさ怖さ」というとおりなんだもん。
丞相お目見えで、緊張して
「五体の汗は布子を通し、肩衣絞るばかりなり」
津駒さんの源蔵もまさにそのものなんだもん。
大体借り物の肩衣ですよ!そんな絞るほど脂汗かいてどうすんの、返す時!
クリーニング屋とかないんよ!ファブリーズだってないのに!


・・・すみませんもういい加減にしときます。

結局、伝授の一巻は賜ったものの、勘当は解けず。
菅丞相の後姿を「行くに行かれず伸び上がり」「見やり見送る御後影」
「御簾にさへられ衝立の邪魔になるのも天罰と」
しまいにゃ、「五体を投げ伏し男泣き」ですよ!
その上、戸浪が悔みは夫の百倍、ですよ!!

はっ。また興奮してしまいました… 

なんかねー、本当にこの場は津駒さん、寛治師匠で聞かれてよかったと思いました。
和生さんも簑二郎さんも、御台所も勝野も… みんなみんなよかった。
おかげで私はのめり込みました、源蔵夫婦に。
そして後の寺子屋に思いを馳せることができました。

って、寺子屋まだまだ当分先の話だけどなー


(この調子では来年まで菅原のこと書いてるかもしれません。まだ初段。)








2014年4月公演◆菅原伝授手習鑑 (初段ー1)

2014-04-26 | 文楽
 国立文楽劇場開場30周年記念
 七世竹本住大夫引退公演
 通し狂言 

【菅原伝授手習鑑】


◆第1部 

 初 段   大内の段
        加茂堤の段
        筆法伝授の段
        築地の段
 
 二段目  杖折檻の段
        東天紅の段
        丞相名残の段

◆第2部 

 三段目  車曳の段
        茶筅酒の段
        喧嘩の段
        訴訟の段
        桜丸切腹の段

 四段目  天拝山の段
        寺入りの段
        寺子屋の段


   【配役表】


行て参じました。
2日連続、朝から晩まで劇場で座りっぱ。
そして帰った晩に熱出して連休をぐったり過ごす羽目になりました。
バカだ。我ながら。

でも、また菅原の通しを演るよ、と言われたら、同じこと繰り返すと思います。
この通し狂言が一番観たかったものだからです。
松王の孤独と源蔵のやり切れなさをこれでもかっ!と見せつけられたかったからです。
そして腹の底から泣きたかったからです。

さて、そんな期待とともに長い一日が始まります。


【大序】

「蒼々たる姑射(こや)の松、化して芍薬の美人と顕はれ、
 珊々たる羅浮山の梅、夢に清麗の佳人となる」

って、ああ、始まるぞとワクワクしますねー、

そしてこの大内で既に

 「謀叛の兆しぞ恐ろしき」

ですよ。時平は悪者。謀反起こすねこいつ、ってさっさと明らかになってます。
のちに白太夫にも言われますけども、時平はワルだってことなんて、みーーんな知ってる。
なのに何を今更、って。
その通りです。物語の初っ端でもうそれ、見え見え。
丞相さま。キレるのが遅いんですよ。

でも、ここでキレられたら始まった話もすぐ終わっちゃうので、いたしかたあるまい。

御簾内ではフレッシュな若手太夫三味線が入れ替わり立ち代わりでした。
やっぱり靖・希さんはもうずいぶんと先へ行っている感でしたね。



【加茂堤】

幕が開くと松王と梅王が肘枕で寝転んでいるところから始まります。なんかカワイイ。
「顔と心は変はつても着る物は三人一緒、」て、もういい大人なのに三つ子はお揃いを着るんですねー、やっぱりカワイイ。

そして梅・松・桜の三つ子の性格がやはりこの段で既に表れてますね。
「アヽぐどぐどと長談義説く人よ」と言われる梅王は理屈っぽい常識屋。
松王は腹に溜まっていることがあってちょっと屈折。
桜丸は一番のイケメンでちょっと軽い。「女房ども、たまらぬ、たまらぬっ」とか言ってるし。
アホだねー
そんな桜丸の嫁・八重もちょっと軽い。軽はずみ。
そんな軽はずみなふたりの起こした行動から、この物語は大きく転がっていくのですねー
忠臣蔵で言えば勘平お軽の役割ですかね。

そしてそんな軽い桜丸担当・三輪さん。
なんか三輪さんというと際どいシモネタ担当が多くないですか?
三輪さんだからこその品の良さで最低線が保たれてる気がしますが、なかなかのセリフですよね。

「させほせ、させほせ」って桜丸に代わって牛を曳く八重ですが、一所懸命牛を曳いてるからなんとなく健気に見えますけど、やっぱりどっかおかしいよね、この2人。おっちょこちょい。
そんな2人だけに後に待ち受けている悲劇がより辛いという、作者の策略にまんまとはまるわけですが。



ダメだ、この調子で書いてたら、いったいいつ終わるんだって話ですよ。

続きはまたぼちぼちと。