部活日誌

部活動(ひとり文楽部)の記録など

二段目  「芝六忠義の段」

2010-04-30 | 文楽
●二段目

【芝六忠義の段】

ここは咲大夫・燕三さん。

さて、いよいよ芝六一家に事件が起こります。

なんと、芝六家の門口の木戸が壊れた!

・・・じゃなくて。 
それは単なる大道具のアクシデント。見ないフリをするべきところでした。


実は鎌足の家臣であったが現在勘当され猟師に成り下がっていた芝六は、なんと、サリーちゃんのパパのような髪型です。

・・・じゃなくて。
主君のために鹿を殺しましたが、鹿殺しは大罪。死刑です。
その父の罪を、なんと息子三作が「おれがやりました」と被り、しかも母親に、
「父親が悲しんで泣かぬよう、奉公にやったとでも言ってください」
と言いながら自ら捕われていく、ときたもんだ。

どうよ、この13歳男子の健気さ! そこらの求馬とかいう男とは大違い。
簑紫郎さんがそんな健気さをていねいにていねいに演じていて、かわいそうにという気持ちがいや増します。

当然母親お雉は「こんな子を持った親、と ひけらかしたい稀な子」と嘆き悲しみます。
いや、まったくその通り! ひけらかすべきだよおっかさん。
簑二郎さんのお雉にうなづきながらもらい泣きする私。もう「『女ののど自慢』を見ながら泣くおばさん」みたいなもんです。
咲大夫さん、上手いなあ。

そんな芝六には二人の息子がいます。長男三作、次男杉松。実は三作は妻・お雉の連れ子だったんですねー。
この「実は」「実は」という後出しじゃんけん的展開はもうお約束ですのでさらっと流す。

この段、結局は何の罪もない次男の杉松が実の父親・芝六の手にかかって死にます。
疑い深い鎌足・求馬親子の「芝六、もしかして裏切ってんじゃないの?」という疑いを晴らすためだけに、芝六は自分の実の子・杉松の命を捧げるという展開。
まあ、そこに至る前になさぬ仲の三作を思いやっての、芝六なりの苦悩あってのことだけど。

その辺の詳しい事情は、ぜひ劇場でご覧あれ! (公演終わってます)


実は(また出たっ)捕らえられた三作は死刑にならずに、最後に鎌足公と
じゃーーーん!
と生きて戻って来るんですねー

えっ。  そ、そりゃよかった・・・ 
よかったけども。

じゃあ、お雉と私がさっき流した涙はいったい!? 


まあいい。


しかし、求馬さんよ。貴ー様ー、この期に及んでまだ芝六を疑うか。
あんた、ついさっき万歳で芝六に窮地を救ってもらったばっかりでしょう!

求馬という男、まったくもって好かん。
まあ、かっこいいということは認めよう。そして、和生さんが遣ってるから勘弁しておくけども。


最後にじゃーーーんと登場する鎌足役はなんと簑助さん。
簑助鎌足、大きくて立派。登場しただけで、スポットライトが当たってるわけでもないのにそこだけ一段明るくなる不思議。これぞ簑助マジック。

結局、蘇我蝦夷子が盗んだ三種の神器のうち勾玉と鏡が見つかり、その鏡の力で天皇の眼も見えるようになり、三作の刑は赦され、入水したとされていた釆女とも再会し、芝六の勘当も解け。
哀れはひとり犠牲となった杉松・・・

と、敷かれていた伏線に石子詰、十三鐘の伝承を絡めて、よくもまあ、うまいことまとめられたお話です。

詳しくは皆さん、ぜひ劇場でご覧あれ!
(だからとっくに終わってますって)


二段目  「掛乞の段」 「万歳の段」

2010-04-29 | 文楽
上演の順番とは違いますが、ここでは狂言の順番通りで行きます。でないと、ただでさえ常からもやもやした頭が余計こんがらがる故。


●二段目

【掛乞の段】

ここと、次の『万歳の段』、すごくいいです。私はとても好きなところ。
この二つの段での芝六一家の温かさがあるからこそ、後の悲劇がより悲しくなるんですねー

『猿沢池』で求馬が打った小芝居によって、天皇御一行はなんと、猟師芝六のあばら屋に匿われてたんですね。
天皇は目が見えていないので御所だと信じているんですが、それをみんなでうまくごまかすわけです。
そんなばかな、なんだけど、「そんなばかな」はもうお約束、さらっと流すに限る。


芝六の家で妻のお雉と天皇のお付の女中たちが仲良く米粒を選っているところに、芝六親子が奈良の町で着物を買って帰ってくるんだけど、そこからがほんっとにいい!

相子大夫が笑わせながらもしみじみとさせてくれました。

芝六が、「こんな狭い家の中で長いものを着て引きづったら、裾踏んで転けさっしゃろ」
と、宮中のお召し物のまま芝六の家にいる大納言と女中に庶民の着物を渡して着替えさせます。
みんなにこにこ楽しげに着替えるんだけど、どてらを着た大納言に
「根っから似合わぬご装束」
「矢背のげらを見るような  (※「矢背のげらって何?)
 名も変えて、“だいな ごんべえ”さま」」

ぶーーっ、“だいな ごんべえ”さま、って・・・ か、かわいいボケだ!

大納言、この段では終始いい味出してます。
借金取りとのやりとりもほのぼの。 
そしてそんな大納言たちにお腹は空いてないか気を配り、しつこい借金取りも投げ飛ばす芝六は、本当にいい男。

相子さん・清丈'さんコンビがこのほのぼのした段にぴったり合ってました。
相子さん・清丈'さんコンビがこのほのぼのした段にぴったり合ってました。

二回言ってみました。大事なことは先生、二度言います。



【万歳の段】

いいですか。この段で私は決定的に「求馬め~!」と求馬を嫌いになりますよ。

芝六のあばら家を御殿の中と信じている天皇が、求馬に
「楽人どもを召出し、寿の管弦を始めよ」
と管弦をご所望されると、求馬、「ははぁ、今すぐに!」と調子のいいことを言うんだけど、さあ、困った。こんなところに楽人もいるわけもなし。
芝六に「どうしよー、なんかいい智恵ない?」と泣きつくんだ、これが。

芝六は、しょうがないなー、「私、べれべれ万歳を覚えています。」
と、息子三作に舞わせて自分は昔覚えた万歳を披露してやる羽目に。

求馬! おーまーえーはーー!

天皇ご一行を芝六の家に連れて押しかけてくるだけでなく、そんなことまで芝六頼みかっ。
おまえがせめて唄え!踊れ!

しかも、鹿殺しまで芝六に言いつけやがって・・・

お前はひとつでも何かを実行したのか、と問い詰めたい。
くるくるよく回る頭で
「さすがのオレ、顔だけじゃなく頭も冴えちゃって~、もうほーんとオレって名プロデューサー、って感じ?」
みたいにほくそ笑んでるんちゃうん!?
まあ、和生さんが遣ってるから勘弁してやってるけども。

それに引き換え芝六親子の清清しさよ。簑紫郎さんの三作の舞はとても綺麗で、見ていて目頭が熱くなりました。
母の気持ちとはこういうことね。 って、うちには犬しかいないけど。

とにかく、浄瑠璃にある「土に生ひても穢れなき」とは、断然、芝六親子のことでありましょう、と私は声を大にして言いたいのであります。


二段目  「猿沢池の段」 「鹿殺しの段」

2010-04-28 | 文楽
えー、すみません。
ところどころ「デタラメ言いやがって」という部分があると思います、そこんとこ最初に謝っておきます。
「ばーかばーか」とご寛容御願い仕りますれば。


●二段目

【猿沢池の段】

あわれ盲目となっている天智天皇は寵愛する采女が猿沢池に身を投げたと聞いて、恋しい君を想い猿沢の池に立ち寄ります。

采女=鎌足の娘=求馬の妹  ・・・ってことでOK? ここら辺、こんがらがーる

ここで求馬こと淡海が登場。和生さんの求馬、さすがに色気がありますねー(はぁと)
立ち姿のなんとすっとしてることよ。

が、この求馬。 ここからどんどん、
「ちょっといい男だからって、ちょっと智恵が回るからって、あんた調子にのってるんちゃうん?」
と腹が立っていきます。
なによ、仕事で失敗して帝から謹慎処分にさせられてたくせに。「くせに」ってこともないけど。

そんなところへ注進が。大悪人・入鹿が宮中に乱入し猛威を奮っているとのこと。
嘆く盲目の帝を安心させようと、「御所は無事のようです、さあ戻りましょう」と求馬が誘導していく先は・・・

いわゆる「小芝居」をするわけですな、求馬。 まったく、くるくるよく回る頭だことっ。ちっ





【鹿殺しの段】


文字通り、鹿を殺します。




・・・ってそれだけかい!と思われますでしょうが、場面はそれだけです。深い訳あっての鹿殺しなんだけど。


鹿役は文哉さんだそうです。
鹿を射止めたのは芝六(清十郎さん)と、三作(蓑紫郎さん)親子。

正直、清十郎さんの猟師役って全然想像つきませんでした。
私の中の清十郎さんのイメージは、清楚な良家の子女役を優雅に遣う、って感じ。
なので、「小首かしげたり、恥ずかしげにうつむいたり、内股で歩く芝六猟師」が脳裏に・・・

が、当然そんな私の妄想はまったくもっていらぬ心配、甚だ失礼申し訳もございませぬっ!
でした。

射った鹿をよっこらせっと肩に担ぐ様だけで、いかにも男・猟師芝六。 
芝六殿、まさに男の中の男でござったよ。

芝六の人形はたいそう軽くて、人形が軽いと立役はかえって難しいんだそうですね。どっしり感を出すにはやはり重い方がいいと。
ここ以降、そんな苦労があるとも思えぬ程涼しい顔で、ちゃんと「芝六芝六した芝六」でしたよね。
そして三作は「三作三作した三作」。


えー、一応言っておきますがこれ、最上級に褒めてます。


妹背山婦女庭訓 初段

2010-04-27 | 文楽
●初段 

【小松原の段】

久我之助と雛鳥が出会います。
そして出会うなり、ちゅー、か!(してるんですよね?)
相変わらずの素早い展開、そのようなふしだらを婦女庭訓では許しているのでしょうか!
昨今、「ルールズ」では「男にはもったいつけとけ」みたいなことを言ってるはず。
寿命が短い時代、いい男を見かけたらとっととやることやって夫婦になっちまえ、ってことでしょうか。

ここは腰元の小菊が活躍しますね。(考えようによっては「いらんこと」なんだが)
ふたりの仲を取り持つばかりか、ふたりを覗き見していた宮越玄蕃(雛鳥にご執心)の耳に、
「吹き矢筒の囁き竹でお返事聞かしましょう」
と、竹の筒を当てさせておいて、返事のかわりにふっと吹矢を吹く。
玄蕃、「あいたーーーっ!」  
・・・そりゃ痛いさ。耳に吹矢刺さってんだから。

サラっとおっそろしいことをするねぇ、小菊ちゃん。 





【蝦夷子館の段】

この物語の大悪人である蘇我入鹿の父親・蝦夷子の屋敷。(もちろん親も悪。)
ここでは入鹿の奥方・めどの方が可哀想ですね。
舅・蝦夷子に殺されます。
夫・入鹿は最低の悪い奴、そんな夫の野望のせいで舅に切り殺されるなんて。
が、「入鹿さまのワルなところがたまらないわ」ってんなら、そりゃ、男見る目がなさ過ぎだから同情の余地なしだけど。

そして、大悪人・入鹿の策略でその父親・蝦夷子も切腹させられます。

ここではもう一人、めどの方の父親(入鹿の舅ね)の中納言行主もあっさり殺されます。
殺すのはご存知大悪人・入鹿。
「馬鹿者の舅・行主、血祭りに手にかけたった!」
と、殺したうえにバカ者呼ばわりだ!

とにかく、入鹿という男は「いるか」なんてかわいい名前のくせに、
「俺の野望を邪魔するヤツははみんな死ね!」
という大悪人である、ということがこの段でこれでもかと明らかに。

私が拝見した時、入鹿役は文司さん。堂々とした悪人っぷり、立派でした。



最強でかしゃった

2010-04-26 | 文楽
掃除、洗濯、買い物、犬の世話・・・
それら全部オットに押しつけて、行ってきました大阪・文楽劇場。母さん(=オット)、行かせてくれてありがとう。でかしゃった!
お土産のきんつばでここはひとつ、勘弁してください。


さて、『妹背山婦女庭訓』

なんといっても「山」の段に、ただただ感激。

特に千秋楽は妹山側の床近くだったので、綱大夫の定高には鼻水が出るほど思い切り泣かされました。

あの「でかしゃった攻撃」は反則だ。
ただでさえ「でかしゃった」に弱い私なのに、綱さん文雀さんで「でかしゃった」が始まったらもう、泣くなと言われてもそりゃ無理難題。
そして住大夫大判事の苦悩と情の滲む浄瑠璃・・・

終わった後には感動で頭が痛くなったくらい。


「山」以外も、特に「芝六」は予想していた以上に面白く、まったく捨て所のないよくできた狂言だなー、と感心しました。“お前ごときに感心されるいわれはないわ!”ですが。


せっかくのこの感動を忘れないよう、感想をおいおいと書いていきたいと思ってます。

・・・が、そうこうしてる内に5月公演が始まってしまいそう、それまでにはなんとか!