部活日誌

部活動(ひとり文楽部)の記録など

夏休み公演・第2部 夏祭浪花鑑

2010-08-03 | 文楽
夏休み公演も千秋楽でしたね。
暑い中、お疲れ様でした。今回も楽しい舞台をありがとう、です。


【夏祭浪花鑑】

 「住吉鳥居前の段」
 「内本町道具屋の段」
 「釣船三婦内の段」
 「長町裏の段」 
 「田島町団七内の段」



団七が床屋から

 「俺でゑす」 

と出てくるところで、まず、わたくし、心を掴まれました。

 「オレでぇす」  (じゃ~~ん)

あの衝撃、いまだ脳裡から離れません。何度も再生してしまいます。

 「オレでぇす」  (じゃ~~ん)

家に帰る時も、この頃は「ただいま」の代りに

 「オレでぇす」  (じゃ~~ん)

です。たいがいしつこい方です。


それから、住吉さんでお梶達が待っている「昆布屋」というのは茶店の名前か何か?
三婦さんが 昆布屋、昆布屋って言ってるけど、どんな店なんだろう。
塩昆布でもお茶受けに出す、とか? こな昆、うめ昆もありますか?
…と、どうでもいいところが気になり、最初っからつまづきっぱなしです。

もっと大事なところを思い出さねば。


まず、「三婦内」での簑助さんのお辰。 
どんな身のこなしもいちいち「お辰っぽさ」と言いますか、気風のよさと色気に惚れ惚れです。
住大夫もいつもながら、三婦の器の大きさやお辰の男気など、情景と人物像がくっきり見えてくるさすがの語りで、ああ、今回も来てよかった、と思わせられました。
アトの希大夫・龍爾さんが思いがけず骨太で頼もしかったのには驚きました。


それにしても磯様って男は・・・
 「据え膳とふぐ汁を食わぬは男ではない」
などと開き直ってる場合か!

あれだけしょーもないのにモテるってことは、いい男なだけじゃなく、女に物凄くマメなのであろう、と一緒に見ていた友人が後でしみじみ言っていました。 
まっこと同感ですたい。

そして、おつぎさん。
甲斐甲斐しく魚など焼いたりしてますが、
 
 「ひと仲直りの汗を 一度にかいておかんせ。」

などと、琴浦に磯様とのダイレクトな“大人の”仲直り方法をさらっと勧めていて、見た目と違って言うことはさすがの姐御、三婦夫人だけあります。



「長町裏」は松香大夫・義平治、千歳大夫・団七。
ここ、私の期待通り、松香さんの義平治は ムカっとくる憎たらしさ、というより、
腹の内にイライラの溜る憎たらしさとでも言いますか (この違い、わかってもらえるでしょうか)
玉女さんの現わす義平治とも合っていたように思いました。
千歳さんも大熱演。

さすが勘十郎さんの団七は大きく立派で、最後の義平治殺しの鬼気迫るシーンは思わず息を止めてしまう。
しーーんと見ていて、井戸で水を汲んで身体を流し始めるあたりから、内心

 「洗わんでもいいから、急いで逃げないと!」

と思うのですが、清めの儀式のように何度も何度も水を浴びます。
そして、おもむろに手拭いで 

「きゅっ きゅっ きゅっ」

・・・背中、拭き始めたっ。

「いいから、背中はっ! 拭いてる場合じゃないってば」

という私の心の叫びも伝わらず。
あそこの落ち着きっぷりに、団七の陥ってしまった狂気の淵を垣間見た気がしました。

・・・それとも単に几帳面な性格だったか、団七九郎兵衛。




「団七内」は徳兵衛や三婦が団七を思いやる様子や屋根上の捕り物の緊迫感を咲大夫・燕三さんで。

玉也さんの徳兵衛、いい男でしたねー。 団七と対照的に真っ白。
刺青もなく、加賀の隣の越中も、白。 
「加賀の隣の越中」って、ねぇ。 ぷぷっ


私は「団七内」でうっかり意識を失う瞬間があったのが返す返すも無念だったのですが、同行してくれた友人は寝ることもなく

「面白かった!」

と言ってくれたので救われました。


見終わって帰る道々、あんまり暑いので

 「この暑さ・・・ 団七もあまりの暑さに我慢もきかんかったんやなぁ。」

 「あんな舅、今だったら間違いなく『O手小町』に投稿されてるね。
  『ありえない!舅のひどい仕打ち』とか、『義父を疎ましく思う私はひどい婿?』
  とか言ってトピ立てられるわ。
  団七もO手小町があれば、殺さなくても済んだかもしれないのにねぇ」

などと、団七にひとしきり同情しつつ汗ダラダラで歩いたのでした。