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月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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メラク・39

2015-01-14 07:02:32 | 詩集・瑠璃の籠

キリストの幽霊のように
水を踏み 海の彼方から歩いてくる者がいる
黄昏のマントを引きずり
何かを知らせる
ガラスの笛を吹きながら

黒いテーブルの上で
カード遊びをしていた子供が
ふと何かに気がついて
持ち札を放り出す
突然 遊んでいるのが
つまらなくなったのだ

床の上に落ちていた
小さな絵本から
薄紅の翅をした妖精が逃げて行く
まるで魂が肉体から逃げて行くように
あらゆる本の中から
美しい妖精が逃げて行く

子供は本を開いてみたが
なんだか おもしろくない
それは好きでたまらなくて
わがままを言って買ってもらった
大切な本だったのに

誰かが 何かをした
そんな気がすると
窓を開けて空を見れば
黄昏は静かに海に沈み
菫色の夜が開き始めている

かすかに ガラスの笛の音がする
誰かが 開いてはならない
秘密の扉を開いたのだ
だからもう 二度と
あの絵本の世界には
戻れない

何をすればいいの
どこにいけばいいの
風に問うても答えてはくれない

いい子になると 約束ができるのなら
わたしが 教えてあげましょう

もうとっくに通り過ぎていった
静かな笛の楽隊を
かすかな音を頼りに
追いかけていきなさい
子供たちよ

もうこの世界には
本当におもしろいものは
何もないんですよ



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