「差不多」的オジ生活

中国語の「差不多」という言葉。「だいたいそんなとこだよ」「ま、いいじゃん」と肩の力が抜けるようで好き。

「相剋の森」

2006-01-05 | 
今年最初の本の感想は、熊谷達也さんの「相剋の森」です。

熊谷さんといえば、大正期のマタギの青年の波乱の人生を描いた、直木賞の「邂逅の森」がすばらしい作品。昨年のブログ開始前に読んでいたので紹介文を書いていないのですが、昨年最も印象に残る小説でした。狩猟の場面などは息がつけないほどの描写。人間という存在が自然の一部であると同時に、時に自然とむき出しで対峙しなければならない存在であることがひしひしと感じられます。重厚ながら一気に読める作品でした。

今回の「相剋の森」は「邂逅の森」の現代版。「自然との共存」と単純にいうが、その実態をどこまでしっかり認識して言葉を口にしているのか。最初は「現在、クマを食用に穫ることなんて反対」と考えていた一人の女性ライターの目を通しながら、やはりマタギを中心に描いていきます。

最近の「駆除か保護か」議論などはとても勉強になるのですが、残念ながら、「邂逅」に比べると軽い感じがするのと、挿入される恋愛話などがあまり効果的にならずかえって文章を散漫にしまっている印象が残りました。「自然との共生」という問題を考える上での課題整理テキストとしては有用です。「邂逅」を読まずにいたらまずまずの水準と思ったかもしれません。

期待度が高かった分、ちょっと残念といったところでしょうか。ただ間違いなく「熊がかわいそう」なんていうおためごかし、都会人の妄想・身勝手がいかにくだらない言い分であるかが徹底して描かれていますので、「自然保護派」には必読の書でしょう。