阿武山(あぶさん)と栗本軒貞国の狂歌とサンフレ昔話

コロナ禍は去りぬいやまだ言ひ合ふを
ホッホッ笑ふアオバズクかも

by小林じゃ

狂歌家の風(40) 精霊のたんこ

2022-08-04 20:25:47 | 栗本軒貞国
栗本軒貞国詠「狂歌家の風」1801年刊、今日は秋の部より一首、


         盆月

  三五夜はあれとけふしも聖霊のたんこて愛る盆の月かけ


来月は十五夜の団子だけれども今日は「精霊の団子」で旧七月のお盆の月を愛でるという歌である。十五夜もあるけど・・・という歌は狂歌家の風にはもう一首あり、この歌のほんの五首前、夏の部に入っている。ついでに紹介しておこう。


        夏月

  中秋の兎はあれとそれよりも蚊がもちを搗夏の夜の月


蚊が餅をつく、というのは蚊の動きをとらえた面白い言い回しだ。中秋の兎はあれど、とあり、月のウサギは十五夜にしか餅をつかないような詠み方になっている。そういう共通理解があったのか気になるところではあるが、話を最初のお盆の歌に戻そう。

広島では十五夜には白みそ仕立ての団子汁でお祝いすると以前に書いた。しかし、浄土真宗安芸門徒の勢力が強かった広島ではお盆の行事はあまり出てこない。墓掃除をしてお墓に安芸門徒独特の灯篭を立てるけれども、浄土真宗では自宅にご先祖様をお迎えはしない。私の住む広島市安佐北区は、隣町の可部に福王寺どいう真言宗のお寺があるけれど(可部には高野山の荘園があった)、それ以外はすべて浄土真宗のお寺という状況であり、お盆に聖霊の団子というのは聞いたことがない。貞国も御真向や二河の譬えの歌があり、また師匠の貞佐も仏護寺の辞世で知られるように西本願寺派の安芸門徒であった。貞佐の師匠で柳門の祖である貞柳は、大阪御堂の前で菓子屋を営んでいた。こちらは東本願寺派で、前にも引用した魂祭の歌、


    隣家魂祭あると聞て我等は東本願寺門徒なれは

  御宗旨はたふとけれともとてもなら盆に一度は戻りたいもの



(ブログ主蔵「貞柳翁狂歌全集類題」22丁ウ・23丁オ)


阿弥陀様に導かれて極楽浄土に旅立った後は、真宗の門徒は子孫が暮らす家には帰りたくても帰れないのである。御宗旨は尊いけれども盆に一度は戻りたい、「とてもなら」が効いている貞柳らしい味のある一首である。続きの歌で中元の祝儀として鯖、晒、素麺が出てくるのは注目しておきたいところだ。盂蘭盆の前の題、七夕のお供えにも鯖と素麺は登場していて、お盆限定ではなくてこの季節のお供え物だったのだろう。一つ前の歌では、


       隣家他宗にて玉祭するを見て

  ちきりおきし弥陀如来をはうたかひてあはれ盆にも鯖すはりけり


とあって、魂祭をしない貞柳にとっては、鯖は七夕限定のお供え物だったのかもしれない。しかし、お盆にも鯖を供えるなんてと言っておいて、盆に一度は帰りたいものと続けて詠んでいるのが中々面白いところだ。

何回も言ってるが、話を戻そう。とすれば貞国は、他宗の家で団子を食べたのか、それとも安芸門徒でもお盆に団子を作ったのか。安芸門徒の風習については、正月のおたんや、盆の灯篭などはたくさん出てくるのだけど、団子は見当たらない。一方貞国は酔ってへべれけの歌もあるが、餅や団子の歌も多い。江戸時代の狂歌では上戸は酒、下戸は餅という対比で詠まれることが多いのだけど、貞国は両方いける口だったようだ。他宗であってもお盆に団子を作っている家があれば、「弥陀如来をば疑ひて」などとは言わずに御馳走になっていたのかもしれない。

私事ながら、この八月は去年亡くなった父の初盆ということになる。今住んでいる安佐北区の家は母の実家であって仏間には浄土真宗の仏壇がある。父方の日蓮宗のお盆はそれこそ初めての経験で、小さな仏壇と盆灯篭を客間に据えて、聖霊棚というものに挑戦してみたいと思う。そこでネットで日蓮宗の聖霊棚の例を調べてみた。すると、そこにある画像は笹の葉が飾ってあり、また素麺がお供えしてあって、ぱっと見七夕である。上記の貞柳の歌の例のように、旧七月のお供えとなるとこうなるのだろう。笹の葉さらさら、も七夕限定ではなくて、この時期のお飾りだったのだろう。そして、胡瓜の馬に茄子の牛、これも作ってみたいものだ。狂歌でも、狂歌棟上集にそのあたりの歌があった。


           魂祭

  手向けたる三輪素麵やなき魂のしるしにたつる杉のませ垣

  茄子は牛胡瓜は馬になる世ぞと不孝を悔いて魂祭せり

  すが菰にあらぬ真菰の魂棚は七ふに團子三布は御佛

  精進はしらぬいきみの玉くしげふた親持ていはふさし鯖


どうも私ははしゃぎ過ぎであって、「不孝を悔いて魂祭」しなければいけないのだろう。そして、聖霊棚の七割方は団子であると、ここにも貞国のように団子好きの方がいらっしゃったようだ。    


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