以前デンマークの友人宅にホームステイさせていただいた話をした。
彼はデンマークのグラフィックデザイナーで、歳は私より一回り上だ。
彼の趣味はアーリージャズとヨットで、デンマークの短い夏を毎年楽しみにしながら心静かに暮らしている人である。
彼はデンマークの建築家ヨーン・ウッツォンが手がけた集合住宅に住んでいる。ウッツォンといえばあの有名なシドニーのオペラハウスを設計した人だ。たぶんオーストラリアで最もポピュラーな建築物だから誰でも知っているはずである。
私が彼の家を訪ねてみたいと思ったのは、そんなウッツォンの集合住宅を見たかったからである。
驚いたのは集合住宅といっても、きっちりプライベートが確保されていて、どこから見ても一軒家にしか思えない造りになっていたことである。しかも平屋造りで緑が多いため、表通りからはそこに住宅があることすらわからないようにできていた。
そういえばデンマークが誇るルイジアナ近代美術館にも近かったので行ってみたが、邸宅を改築して美術館にしているせいか、通りからは全くその姿が見えないようにできていた。ここいらへんが景観に対するものの価値観の違いだ。日本の何倍も進んでいる。
彼の家は真ん中に庭があってそれを取り囲むような間取りになっていたが、居間にはいつもオールドジャズがかかっていた。
私は最近の北欧ジャズが好きだといったら、彼は笑いながら「それじゃあ、古いのも好きになってもらおう」とこのスヴェン・アスムッセンを聴かせてくれた。
このアルバムは1935年頃から40年代までの演奏を集めたものだったが、そこで聴いたときは少しも古さを感じなかった。
時間と空間の観念が根本的に私たちと違うのだ。
そのへんのことを彼に話すと、「それじゃあ、このCDを日本に持って行って聴いてみるといい、新しい発見があるかもしれない」と思わぬプレゼントをいただいた。
帰ってきて聴いてみた。部屋の中に「On the sunny side of the street」が静かに流れていく。
アーリージャズの魅力を初めて理解できたような気がした。