このノリの良さ、メロディの明快さ、私のとってのタビー・ヘイズは、この「DOWN IN THE VILLAGE」なのだ。
タビー・ヘイズはイギリスを代表するテナーマンだが、この曲ではヴィブラフォンを叩いている。こうしたスタイルも彼が築きあげた一つの演奏形態で、当時としてはかなり珍しかったのではないかと思う。
彼が演奏するのは典型的なハードバップだ。しかしそこはさすがに紳士の国イギリス。本場アメリカのそれとはひと味違い、ブリティッシュ風に味付けされた洗練されたハードバップになっている。
ここでビギナー向けに「ハードバップ」とは何かということを簡単にご紹介しよう。
...とか何とか言いつつもきちんと説明できるかどうか自信はない。もし間違いに気づいた人がいたら遠慮せずにご指摘いただきたい。
ハードバップは1940年代にチャーリー・パーカーらが一大旋風を巻き起こした「ビバップ」から生まれた。「ビバップ」の演奏スタイルは非常に単純なルールでできている。演奏者は最初に曲のテーマを演奏しさえすれば、それから先はコード進行に沿って自由気ままにアドリヴを展開できるというものだ。但しこれがヒートアップしすぎた原因だ。アドリヴはやたらと複雑化したり長くなり過ぎたりと、ある意味野放図状態になってしまったのだ。
そこで出せる音を制限したり、「1コーラス」と呼ばれる1つのまとまりを作って、その中でアドリヴを展開させることで、コード演奏に秩序を持たせようとしたのが「ハードバップ」である。
但し「ビバップ」も「ハードバップ」も明確な境目がない。「ハード」と冠が付いているからさぞかし荒々しい音楽と思われがちだが、これが意外にも整然としておりきまじめな印象も受けることがある。呼び方にごまかされてはダメだ。
ハードバップはまたブルースを基調とするメロディアスな音楽だと定義する向きもある。要するに洗練された黒人音楽という一面も持ち合わせているのだ。
そこでタビー・ヘイズの話に戻す。彼の演奏するハードバップは、本場アメリカの音を踏襲しながらも白人の持つモーダルな感覚がプラスされている。しかもややジャズファンク的な要素もあり、そこが現代のクラブ系ファンにも人気のある秘密だ。
彼は38才という若さで亡くなった。どうやら心臓に持病があったらしい。
これだけ熱い演奏をした人だからそれも頷ける。
彼の最大の功績は、ブリティッシュジャズを頭でっかちなインテリジャズににしなかったことなのだ。