可愛らしさの代名詞みたいな人だ。
おそらく多くのジャズファンがそう思っているに違いない。
6枚の作品を残して1960年に自殺したビヴァリー・ケニー。
このアルバムは、そんな彼女がデビューする前に録られたデモ録音(1954年頃)を音源としている。
トニー・タンブレロのピアノをバックに、淡々と話しかけてくるように歌っているのが印象的だ。
これを聴いていてつくづく思うのだが、彼女の魅力は、何だかとても身近な人に感じられるところだと思う。
この感覚をどう表現していいか悩むのだが、多くのジャズヴォーカリストは、一般人の生活とはかけ離れた世界にいるのに比べて、彼女は極々近い友人や恋人のような存在に思えてくるのである。
特に5曲目の「Can't Get Out Of This Mood」の歌い出しでミスをし、ハハッと笑って歌い直すシーンは何度聴いても愛らしく、まるでその瞬間、彼女と見つめ合えたような気にさせられるからたまらない。
ファンならずとも男なら誰でもノックアウトされること間違いなしだ。
この作品はご覧の通り、ジャケットもなかなかおしゃれである。
ビヴァリーらしさが上手く出ており、これだけでも欲しくなるアルバムだ。
すでに発売されている6枚の作品のジャケットはというと、どれもこれもいただけないものが多い。
一番出来のいい「Born To Be Blue」にしても、ソファーにもたれかかった姿はゴージャズ過ぎてどうも彼女らしくない。
彼女はこのアルバムのように普段着姿がいいのだ。
要するに飾らない、構えない姿が、彼女の魅力だということなのである。
翌年に発売されたもう一つの未発表音源盤「Lonely And Bule」のジャケットもなかなかよかったが、私はこちらの「Snuggled On Your Shoulder」が気に入っている。
この写真一枚で、彼女の全てがわかるといってもいいような気がしているのだ。
そんな風に見ていると、女性に限らず、私たちは大切な人の仕草やポーズをしっかり一枚の写真に残しておくべきだと思う。
きれいかどうかなどということは関係ない。どれだけ自然な形でその人を表現できるかが重要なのだ。
ビヴァリー・ケニーの場合は、この一枚があって幸せだ。
このモロクロームのジャケットは彼女の作品中で最も自然体のものだと言えます。
彼女は自分への評価をかなり気にしていたと何かの解説で見たことがありますが、この世界の厳しさは今以上だったのかなと思ったりします。
有名無名を問わずこの時期の男性・女性歌手の膨大な量の音源が今も再発されているという事実が当時のレベルの高さの
証明かと思います。
盛りを過ぎたジャズメンが、晩年になって日本人のバックアップで返り咲くといったこともしばしば起きていますから、まだまだこういったサプライズはあるかもしれません。
期待したいところです。
ところで「ライク・イエスタデイ」、私も愛聴しています。