SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

HORACE SILVER 「HORACE-SCOPE」

2008年02月11日 | Piano/keyboard

ちょっと前の話になるが、知り合いのジャズバーのカウンターで酒を飲んでいたら、隣りに座った人がマスターに向かって「〈ニカの夢〉をかけてくれ」とリクエストした。
マスターは手際よくレコード棚からこのホレス・シルバーのアルバムを引き出し、ターンテーブルに乗せた。
ブルー・ミッチェルのトランペットとジュニア・クックのテナーによる生きのいいアンサンブルが店内いっぱいに流れ出した。ラテン調のとてもわかりやすいテーマだ。思わずこちらまでリズムを取りたくなる。
最初にアドリヴを吹くのはジュニア・クック。次にブルー・ミッチェル、ホレス・シルバーと続くが、それぞれの受け渡し部分がキマっている。所謂ドラマチック仕立てなのだ。これぞホレス・シルバーなのだと思う。
ホレス・シルバーのピアノも力強い。左手はまるで叩きつけているかのようだ。このノリがイコール、ハードバップを支えた原動力でありこの時代の象徴なのだ。

私はその隣りに客に「この曲をよくリクエストするんですか」と聞いた。
するとその彼は「ええ、ジャズはそんなに詳しくないんですけど、この〈ニカの夢〉は大好きでね、よくかけてもらうんです」と目を細めていった。
正直言って私はホレス・シルバーの曲ならもっと他にもいい曲があるのに、と心の中で思ったが黙っていた。
彼はスコッチをグイと飲み干して、「まず〈ニカの夢〉っていうタイトルがいいですよね」と切り返してきた。
いわれてみれば確かにそうだ。何だか思わせぶりなタイトルでそこから哀愁が漂ってくる。
「そうですね、何だか絵の題名みたいですね」というと、
「絵ですか、それはいい」とご満悦の表情をした。
その後、曲が終わるまでは一言も話さずに彼はただじっとこの〈ニカの夢〉に聴き入っていた。
私はその彼の横顔を見ていて「大好きな曲が一曲あるということは幸せなものだな」と思った。