Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

8月のポトラッチ・カウント(3)

2024年08月29日 06時30分00秒 | Weblog
 第一部のラストは、往年の名アナウンサー:山川静夫氏原案の「鵜の殿様」(【舞台映像】歌舞伎座『鵜の殿様』初日ダイジェスト)。
 所作事なので、本来は法学的・社会学的分析の対象外なのだが、今回は例外。
 このところ、白鸚→幸四郎→染五郎の活躍ぶりが目覚ましいので、丸山眞男先生も目を丸くしているだろう。
 歌舞伎座に行くと、「つぎつぎ」と「なる」イエ(高麗屋)の「いきほひ」、つまり、丸山先生が見事に指摘した、日本の歴史意識の「古層」(「つくる」、「うむ」、「なる」?)の見事な表現を見ることが出来るのである。
 もっとも、これこそが、他の業界(政界はその筆頭)をダメにしている大きな要素の一つなのだが・・・。

・「白子屋(しらこや)」は材木屋さん。ぶっちゃけつぶれそう。
・娘は美人なので、金持ちが婿になりたいと言ってくる。
・娘は好きな人がいる。両想い。お店の従業員の忠七。だから結婚なんてしなくない。
・これを聞いていたのが、髪結いの「新三(しんざ)」。忠七をそそのかしてお嬢さんと駆け落ちさせる。
・お嬢さんは先に新三の家に逃げた。
・忠七も新三に連れられて家に行こうとしたら、ここで新三が裏切る。
・忠七を蹴り飛ばして置き去りにして行ってしまう。もちろん家は教えていない。
・困った忠七。お嬢様をさらわれてしまった!!
・責任取って死のうとするのを、土地のヤクザさんが引き止める。どうにかしてくれることになる。

  第二部のメインは「髪結新三」。
 借金を抱えてつぶれそうな材木問屋「白子屋」の一人娘:お熊は、奉公人の忠七と夫婦の約束を交わしている。
 ところが、お熊の母で後家のお常は、イエ存続のためには「五百両の持参金付きの婿」が必要であるとして、勝手に結納を交わしてしまう。
 この「『イエ』存続のための échange」という設定は、「曾根崎心中」(3月のポトラッチ・カウント(1))や「新版歌祭文」(2月のポトラッチ・カウント(1))とも共通しているが、「髪結新三」の場合、échange の対価が露骨に「五百両」となっているところが特色と言える。
 当然お熊はこれに抵抗するが、お常は、
 「この縁談がまとまらなければ、申し訳に川に身を投げるしかない
と脅し、お熊を屈服させようとする(お常によるポトラッチだが、これは未遂なので0.5ポイント)。
 この話を聞いた忠七は、「親孝行」のため(!)この縁談を受け容れるよう説得するが、お熊は泣いて嫌がる。
 忠七は、名前が示すとおり、そう勧めることこそがお世話になっている白子屋に対する「忠」に適うと考えたのである。
 つまり、お熊にとっての「孝」が、忠七にとっての「忠」に対応しているのである。
 そこに登場した髪結の新三は、忠七の髪を撫でつけながら、
 「もしお熊が思い詰めて身投げでもしたら、かえって『不忠』になる、行き先がないのなら、うちの長屋に来ればよい
と言葉巧みに駆け落ちを唆す。
 新三は、忠七の行動原理が「忠」に尽きることを見抜いた上で、これを逆手にとっているわけである。
 忠七は、新三の勧めに従い、お熊を連れ出して新三に引き渡す。
 ところが、新三の長屋に付いて行こうとする忠七に、新三はこう言い放つ。
 「あのお熊は、俺のいろだから、連れて来てやったんじゃ
 実は、新三は、最初から忠七を騙して、お熊をかどわかす魂胆だったのである。
 新三の謀略を知った忠七は新三に打ち掛かるが、逆に叩きのめされる(このあたりは「曾根崎心中」のパクリかと思ってしまう。)。
 主人を裏切るという「不忠」をはたらいた上、この上ない辱め(「恥」)を受けた忠七には、もはや自殺というポトラッチしか残っていない。
 忠七が川に身を投げようとしたところ、乗物町の親分(つまりヤクザ)の弥太郎源七が通り掛かり、事情を聞いて身投げをやめさせる(忠七のポトラッチは未遂に終わるので、0.5ポイント)。
コメント
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