Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

8月のポトラッチ・カウント(1)

2024年08月27日 06時30分00秒 | Weblog
 「8月は、三部制の興行です。通常の歌舞伎公演では演目が3つくらいあって、間に休憩が2回もあって、半日かけて歌舞伎見物を楽しむ・・・というスタイルが多いのですが、三部制の場合は各部の上演時間が短くなります。忙しい現代人にとっては、こちらのほうが観やすい興行形態かもしれません。少し歌舞伎を観てみたい、という方にとってもおすすめです。
 「「ゆうれい貸屋」というタイトルの通り、主人公の弥六(大河ドラマ『光る君』で円融天皇を演じていた坂東巳之助さん!)が、ゆうれいを貸し出すという商売を思いついたところからお話は展開します。この「設定」だけでも、もうだいぶ面白いです。きっとその期待通りのものになるはずです!

 今月の歌舞伎座公演は、「8月納涼歌舞伎」で、3部制の構成である。
 演目は、怪談的なものが主体で、かつ初心者向けとなっており、導入としてふさわしい。
 第一部の最初の演目は、「ゆうれい貸家」で、山本周五郎の短編小説に基づく作品。

 「弥六はもとから、勤勉とはいえなかった。だが母親が亡くなると、初めて本性を現わした。仕事をすれば慥たしかな腕をみせるが、だんだん仕事をしなくなっていった。そうかといって、道楽をするわけでもなかった。父親と違って彼は酒を飲むし煙草もすう。おんなあそびも避けはしない。だが、無ければ無いでも済んだ。
「浮かない顔をしてるわね、あんた、お酒でも買って来ようか」
 女房がそう云うと、彼は欠伸あくびをする。
「うん、酒か、そうさな」そしてだるそうにどこかを掻かいて云う「まあそんなことにでもするか」
 酒を買って来て、燗かんをして出してやれば、出してやるだけ飲む。黙って飯にすれば、彼は黙って飯を食う。もう一本つけろとか、これでやめようなどと云うことは決してない。煙草も同様であり、遊蕩も同様であった。
「仕事はどうするのさ、仕事をしてくれなくちゃ困るじゃないか、伊勢屋さんからせっつかれて、あたしゃ返辞のしようがありゃしない、いったいあんたどうする気なのさ」
「どうもしねえさ」弥六は欠伸をする、「どうもしねえし、またしたくもねえさ」

 普通に読むと、弥六(仕事をしない桶職人)は、母親の死をきっかけにうつ病を発症し、近年よく見られる「セルフネグレクト」状態に陥ったように思える。
 意見をしにきた家主の平作に、弥六はこう答える。
 「そう仕事仕事ったってしようがねえ、おれの親父なんぞは寝るまを惜しんで仕事をした、大家さんなんぞも褒めていたから知ってるだろうが、まるで仕事の亡者みてえに稼かせいだもんだ、それでどうしたかってえば、やっぱり年中ぴいぴいだったからね、酒も煙草ものまねえ、これが楽しみってえことをなんにも知らず、くそ働きに働きどおしで、それでも貧乏からぬけることができねえで、そうして四十六なんて年で死んじまったからね、……おんなじこったよ大家さん、せいぜい稼いだところで、また稼がねえでいたところでよ、どうせぬけられねえ貧乏なら、あくせくするだけ損てえ勘定さ

 ここは大事なところで、江戸時代における不動産所有の実態が関係している。

 「江戸時代中期以降は、産業が著しく発達し、職人や商人の数が増え、江戸をはじめとする都市部では人口が急増。江戸時代は、幕府が直轄する江戸・京都・大阪の三都と、大名が支配する城下町があり、それらの土地は基本的に幕府や大名が所有していました。土地面積の大部分は武家が所有し、町人地の土地の面積は非常に狭いものだったのです。
 「そして町人たちは私有した土地に店を構え、そこで商いを開始。前述の通り、町人地で私有化された土地は富裕商人のほか「地主」が所有していましたが、地主は所有する土地には住まず、家守という別の者に貸して賃料(地代)を得るようになります。
 土地を借りた家守は、1棟の建物を区割りした住居形式の建物となる長屋の管理を任され、小商いをする町人や、庶民たちに貸すようになりました。これが現在の「賃貸経営」の前身であり、借家経営の始まりです。

 町人による土地所有が解禁されたことにより、富裕商人と「地主」による賃貸経営が始まったのだが、これが貧富の差を固定化させてしまったことが容易に推測出来る。
 そういえば、首都圏ではもう長いこと、「一般人の年収では家が買えない」一方で、マンションが外国人富裕層などの投機の対象となるという、不可思議な状況が続いている。
 私などは、弥六の気持ちが理解出来ないでもないのだが、その弥六に救いの手を差し伸べるゆうれいが現れた。
コメント
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