井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

ガーデ : ジェラシー

2011-05-03 23:04:10 | 音楽
「今日は一日タンゴ三昧」というNHK-FMの番組を一部聞くことができた。
ヴァイオリン弾きにとってタンゴはかなり縁のあるジャンルである。番組でも語られていたが、アルゼンチンが元々ドイツっぽい国だそうだ。そして即興演奏をあまり許容しないという点でクラシック音楽に良くも悪くも近い。タンゴ演奏家はクラシック音楽出身者が多く、バンドネオン奏者も家での練習ではバッハを弾いていたりするそうである。
その上、タンゴにおける「オルケスタ・ティピカ(標準楽団)」はバンドネオンとヴァイオリンが同数という決まりがある。ヴァイオリンはタンゴにとって不可欠な楽器なのだ。
そして即興があまり無いということは楽譜にちゃんと書いてあるということだ。クラシック音楽と同じである。我々にとって入りやすい要素を持っている。
ただ、タンゴ特有の奏法というものはあるし、あのリズムに乗れないと似て非なるものになるので、簡単だという訳ではない。私も数度タンゴの仕事をやったことがあるが、特に弓の元で弾くことが多くて、全弓使いたい症候群に陥ったものだ。ただ、まだ有名になっていないピアソラの作品にふれた時の衝撃は忘れられない。その意味でタンゴ仕事はとても貴重な経験だった。
番組ではバンドネオン奏者の小松亮太氏による解説で実に様々な興味深いタンゴが流され、私にも大いに勉強になった。特にピアソラの演奏スタイルの変遷や、他人の曲の編曲は、かなり面白かった。
タンゴにはアルゼンチンとコンチネンタルとあって、アルゼンチンの人達はコンチネンタルは演奏しないのかと思いきや、ピアソラの「ジェラシー」などというものがとび出して、正直びっくりだった。「ジェラシー」はデンマーク人のガーデが作ったコンチネンタル・タンゴの名曲である。見事にピアソラ味になっていたのにも感心。
小松氏によると、日本のタンゴブームは昭和30年代までで、ビートルズが出てくるまでとのこと。また、フォークとロックが出てくるまでの日本のミュージシャンは全体にレヴェルが高かったのでは、という説もゲストK氏から披露された。(これについては、ちょっと条件つきだと思うが。)
ただ、例外的に1987年に一年だけタンゴ・ブームがあったのである。それはその年公開された映画の影響だそうだが、確かにその年はタンゴをあちこちのオーケストラで演奏した記憶がある。
その年「ジェラシー」も演奏した。冒頭に無伴奏の短いヴァイオリン・ソロがある。ソロだから自由に弾いて良いかと思いきや、指揮者から事細かに指示があるのだ。もっと速くとか遅くとか・・・。いやな指揮者である。
あまりうまくいったとは言い難い本番が終ってから、あるトゥッティ・ヴァイオリン奏者の方から聞かされた。「我々はボストン・ポップスのイメージがあるんだよ。だからさ・・・」
それから大分たってアーサー・フィードラー指揮ボストン・ポップス管弦楽団のレコードを聴く機会があり、なるほど、と思った訳だ。私が弾いた編曲は、これのコピーだったのだ。それはともかく、この曲はフィードラーを語る上で欠かせないものだったようで、ボストン・ポップス・ファンの私がこれを知らなかったこと、大いに恥入ったのであった。
私の「ジェラシー」原体験は中学2年生、メニューインとグラッペリの二重奏なのだ。このアレンジも後できくとボストン・ポップスの影響を感じるが、グラッペリを先に聞いてしまうと、ボストン・ポップスは大仰に聴こえてしまって、少々受け付けないものがある。でもメニューイン+グラッペリが一般的ではないのは当然だ。
ということで、この曲はかなり好きなのだが、ちょっと苦い思い出と共に存在している。コンサートマスターを視野に入れるヴァイオリニストはボストン・ポップスも視野に入れておきましょうね。