井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

梅鶯林道1級

2010-01-27 23:03:05 | 梅鶯林道

その後に続く【初段】の概念を先に説明する。
初段の必要条件と見なしているのは,以下の三つ。

1. 大人の筋肉の訓練に耐える身体を有している。
2. 重音のスケールを練習する基礎がある。
3. スピッカートができる。

1級は,大まかに言って初段の手前の段階である。ポジションの制約はなくなる。3オクターブの音階と分散和音が弾ける状態。
筆者が考えた他の条件は以下の通り。

・元弓が使える。(弓の重さで弾くことができる。)
・付点が弾ける

代表的なレパートリーは,

・モーツァルト:協奏曲第4番 ニ長調
・モーツァルト:協奏曲第5番 イ長調

・ヴィオッティ:協奏曲第22番 イ短調

・ハイドン:協奏曲 ハ長調

・ベリオ:協奏曲第9番 イ短調

・カバレフスキー:協奏曲 ハ長調

・チャイコフスキー:瞑想曲

・ヴィエニアフスキー:レジャンドLEGENDE(伝説曲)

Jリストには、なぜかバッハの無伴奏曲が載っていない。これら6曲をどこに位置づけるか、かなり迷ったが、以下の曲のみ、ここで取り上げることにした。

・バッハ:無伴奏パルティータ第3番

・バッハ:無伴奏パルティータ第2番(シャコンヌを除く)

また,Sリストでは,このレヴェルに属するものとしてモーツァルトのソナタやバッハの(チェンバロとの)ソナタが挙がっていた。大人が楽しむ分には大いに結構ではないかと思う。

一方,子供が学習用に弾くことをどう考えるか,これは難しい問題である。これも別に考えたい。


梅鶯林道2級

2010-01-22 17:57:57 | 梅鶯林道

「鈴木」の7,8巻「白い本」の5巻あたりのレヴェルである。
第7ポジションまで習熟し,3オクターヴの音階・アルペジオの練習も導入される。
また,そろそろ重音を本格的にとりあげる段階になる。筆者お勧めは,シェフチークSevcik作品1-1から,17,23,24,25,26の順で練習すること。

代表的レパートリーは,
・ヘンデル:ソナタ第1番,第6番

・バッハ:協奏曲第2番 ホ長調

・モーツァルト:協奏曲第3番 ト長調

・ベートーヴェン:ロマンス ヘ長調

・クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ

・ショスタコーヴィチ:ロマンス(組曲「馬あぶ」または「馬蝿」より)
 <全音刊「演奏会用ヴァイオリン名曲集 第5巻」に掲載>

あくまで「代表的」であり,これら全てを弾かなければならないという意味ではない。

さらに,この辺でスピッカートの練習が必要になってくる。それについては,また別途記述する予定。

また,付点の練習(シェフチーク作品1-1の29番73.-114.)も導入したいところ。


梅鶯林道3,4,5級

2010-01-19 18:00:58 | 梅鶯林道

 「小学生が弾く曲」をイグラーユさんが紹介した途端に,アクセス数が普段の10倍以上に跳ね上がった。相変わらず「ビバ!~」の影響力はすごい。

 しかし,あれでおしまいではない。それを基に井財野としてはどう考えるか,というのが続くのである。幸いにして,何もせずボーっとしている時間を与えられたので,考えるのにちょうど良い時間になった。

 かねてから思っていた。書道,珠算や柔・剣道,囲碁,将棋の「段」のようなものがヴァイオリンにもあれば良いのに・・・ということ。柔道の段位は,学習者の励みになるために,囲碁将棋か何かを参考に嘉納治五郎が考えたと言われている。20年くらい前には,英語道を考えた人もいたなぁ。

 勝手に考える分には自由なのだから,勝手に考えてみたいと思う。せっかくの「梅鶯林」という鈴木先生の造語をここに活かして「梅鶯林道」。梅鶯凛道の方がきれいかもしれないけれど,やはりここは鈴木翁に敬意を表しておこう。

【5級】
ここから始まることにする。第1ポジションに習熟する段階である。

【4級】〔白い本,第3巻の途中まで〕<鈴木3,4巻相当>
初心者が最初に超えなければならない関門「シフティング」(ポジション移動)をクリアしてからの段階である。
まず,第3ポジションまで習熟する必要がある。
(ガラミアンの音階を応用すれば,第3ポジションまでの音階練習を導入できる。)

筆者としては,この段階で右手首の練習を導入することをお勧めする。使用するのはシェフチーク(セヴシック)作品1-1の11番。

代表的なレパートリーは,
・ヴィヴァルディ:協奏曲 イ短調 作品3-6

【3級】〔白い本,第3巻の後半から第4巻程度〕<鈴木5,6巻相当>
第5ポジションまでの習熟段階で,重音も少しずつ導入される。
2オクターヴの音階(小野アンナ等)も必要。

筆者としては,この段階でトリルの練習を導入することをお勧めする。使用するのはクロイツェル42の練習曲の15番(から22番)。

ちなみに「クロイツェル」,筆者は子供の頃,1番を除いて最初から順番にやったし,今でも生徒さんにはそうさせているが,今回学習段階を整理して思うのは,必ずしも全部を順番に弾く必要はない,ということ。シェフチークやスケールで代用できるものもあるし,クロイツェルに特徴的なのは,このトリルと4番のルーレ(スラー・スタッカート,スタッカート・ア・ラ・コルダ)で,極論すれば,それ以外はやらなくても良いし,逆に,トリルとルーレはぜひやるべきだ。

その代わり,という訳ではないが,「手のヴィブラート」と「指弓」の訓練は,この段階で行いたい。

代表的なレパートリーは,
・アッコーライ:協奏曲
・エックレス:ソナタ
・ヘンデル:ソナタ第3番,4番,2番
・バッハ:協奏曲第1番 イ短調
(SJリスト共に,第1番と第2番は同レヴェルにしているが,両曲において重音の扱い方がかなり違うので,井財野版はグレードを分けることとする。)

・ドルドラ:思い出
・マスネ:タイスの瞑想曲

また,跳ねる弓にも慣れる必要が生じてくるため,お勧めの曲。
・ダンクラ:エア・バリエ第2番

少しだけリコシェが出てくる。


小学生が弾く曲(3)

2010-01-14 00:17:52 | 梅鶯林道

 今回は,小学生が弾くには難しすぎるかもしれない,というレヴェルの紹介と考察である。(ザスマンズハウスのグレードをS,Mr. Jubin MatloubiehのものをJと呼ぶことにする。)Sは6,Jは9,例によって結構難しい曲もあったりする。

 まずS。

 【無伴奏】

・バッハ:無伴奏パルティータ第3番 ホ長調
・バッハ:無伴奏パルティータ第2番 ニ短調(シャコンヌを除く)

・ヒンデミット:無伴奏ソナタ第1番
・ヒンデミット:無伴奏ソナタ第2番
(バッハをやるので精一杯で,ヒンデミットまではとても手が回らないケースが多いのでは?)

・プロコフィエフ:無伴奏ソナタ
(音大生は時々弾く人がいる。クレメラータ・バルティカは十数人の斉奏で演奏していた。)

 【ヴァイオリンとピアノ】

・ベ-ト-ヴェン:ソナタ第1番~第8番
(手始めは第1番,第5番で,第3番,第6番以降は少し難しいと思う)

・ブロッホ:ニーグン

・ブラームス:ソナタ第1,2,3番
・ブラームス:FAEソナタ
(難易度とすればこのあたりかもしれないが,基本的には大人の音楽だと思う)

・ファリャ:スペイン民謡組曲
(コハンスキーが編曲した「七つのスペイン民謡」,ラロやサラサーテよりずっとスペイン色が強いので,勘が働かないと演奏はかなり難しい)

・フォーレ:ソナタ第1,2番
(かなり難しい。それ以上にピアノ・パートはさらに難しい。)

・グリーグ:ソナタ第2,3番
(ここに載せたソナタの中で,一番気楽に弾けるのではないだろうか。良いピアニストが見つかると,なかなか幸せな時間を過ごせる。現在公開中の映画「のだめカンタービレ」では,マルレ・オケのリハーサルが終わり千秋が疲れきって控室に戻ったシーンで使われていた。第2楽章のヴァイオリンが出てくる直前までであったが。)

・アイヴズ:ソナタ第4番
(知らなーい。でもアイヴズはなかなか愉快なおじさんである。)

・クライスラー:プレリュードとアレグロ
(日本では小学生に弾かせたがる曲だ。でもスピッカートができて重音の基礎があり,右手首を柔軟に使えないと弾けないので,このレヴェルが妥当かもしれない。)

・クライスラー:愛のよろこび
(この重音はとても難しい)

・クライスラー:美しいロスマリン
(筆者は,小学生の時,スラーを全部切って弾いた。スラーをつけるか切るかで難易度は全然違うが,演奏会で弾くのなら,スラーを切ったところで不満に思う人はいないだろう。)

・クライスラー:中国の太鼓

・ルクレール:ソナタ ニ長調

・メシアン:主題と変奏
(知らない!)

・プロコフィエフ:ソナタ第2番 ニ長調
(これはやはり「フルート・ソナタ」,興味の無い人は弾くべきではないと思う。)

・サラサーテ:バスク奇想曲
(これは,種々のボウイングの練習,実践にとても良い曲)

・サラサーテ:ハバネラ
・サラサーテ:アンダルシアのロマンス
(このあたりは,演奏会にお薦め)

・シンディング:組曲
(疑似バロックのB級作品かとも思うけれど,非常にヴァイオリニスティックで,特に1曲目は「ハッタリ」が効く。)

・ストラヴィンスキー:デュオ・コンセルタンテ
・ストラヴィンスキー:イタリア組曲
・シマノフスキー:神話
・シマノフスキー:夜想曲とタランテラ
(演奏会で近代的なものを入れたい時にはお薦め。教材として使うものではないだろう。)

・ヴュータン:アメリカの思い出「ヤンキー・ドゥードゥル」
(こんなのあるんだ・・・フルートの曲でやはり「ヤンキー・ドゥードゥル」をテーマにした曲をドップラーが作っている。ゲテモノだと思うが,聴衆はとても喜ぶのだそうだ。)

・コープランド:ソナタ
(アメリカでは演奏されているのだろうか?)

・フランク:ソナタ
(これも大人の音楽。ピアノ・パートは無茶苦茶難しい。)

 【ヴァイオリンと管弦楽】

・バルトーク:ラプソディー第1番
・バルトーク:ラプソディー第2番

(もっと難しいと思うけど)

・ベートーヴェン:三重協奏曲(ヴァイオリン,チェロ,ピアノのための)
(ピアノが易しく,チェロが一番難しいと言われている。教材には不向き。)

・メンデルスゾーン:協奏曲 ニ短調
・メンデルスゾーン:二重協奏曲 ニ短調
(何もこんな珍曲を載せなくたっていいのに・・・)

・モーツァルト:協奏曲第1番 変ロ長調
・モーツァルト:協奏曲第5番 イ長調
(Suzukiの9巻にはこの第5番が掲載されていて,レヴェル5になっているのに何故ここに挙がっているのか?)

・ヴォーン=ウィリアムス:揚げひばり
(英米圏ではポピュラーなのか?)

・ヴィオッティ:協奏曲第22番 イ短調
・ヴィオッティ:協奏曲第23番 ト長調
(これは小学生が弾く曲でしょう!)

・バルトーク:協奏曲第1番
(技術的には確かにこのレヴェルかもしれないが,何とも静謐な第1楽章のあの世界を表現するのは大変難しいと思う。)

・ハチャトゥリアン:協奏曲
(オイストラフのイメージが付きまとうので,もっと難しいと思っていたが,よく考えると確かにこのあたりが妥当かもしれない。)

 Jの【レヴェル9】。こちらはジャンル分けは無い。

・バルトーク:ラプソディー第1番
・バルトーク:ラプソディー第2番

(・・・どうして?・・・)

・ブルッフ:協奏曲第1番 ト短調

・ハチャトゥリアン:協奏曲

・リムスキー=コルサコフ:熊蜂の飛行
(効果的なハイフェッツの編曲が一般的。ちなみに原曲のオーケストラ・パートはもっと難しい。)

・サン=サーンス:ハバネラ
(最後のアレグロはもっと難しいと思うけど)

・サン=サーンス:協奏曲第3番
(非ヴァイオリニスティックの代表的存在だと思う。筆者としてはもう1レヴェル上にランクしたい。)

・サラサーテ:序奏とタランテラ
(スピッカート,リコシェ,付点のエチュードとしても使える)

・サラサーテ:サパテアード
・チャイコフスキー:ワルツ・スケルツォ
(どちらも結構難しいと思うけど)

・ヴィエニアフスキー:協奏曲第2番 ニ短調

・シマノフスキー:協奏曲第1,2番
(これは弾いたことがないのでわからない)

全般的に,レヴェル8と9の差が大きいように思われる。英検1級と2級の差のように。ただひょっとしたら準1級レヴェルの曲というのが,あまり無いのかもしれないが。


小学生が弾く曲(2)

2010-01-10 22:51:59 | 梅鶯林道

 前回の続きであるが,今度はもう1段階易しいレヴェルの紹介と考察である。(ザスマンズハウスのグレードをS,Mr. Jubin MatloubiehのものをJと呼ぶことにする。)「小学校中学年」に相当するだろうが(Sは4,Jは5と6),例によって結構難しい曲もあったりする。

 まずS。Suzukiの7巻と8巻レヴェルである。

 【無伴奏】は無い。

 【ヴァイオリンとピアノ】には以下の曲。()は筆者のコメント。

・ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女
(小学生には合わないと思うけれど)

・ドヴォルジャーク:ソナチネ 作品100
(付点の良い練習になるだろうし,何よりもピアノと合わせられれば最高に楽しい)

・エルガー:愛のあいさつ
(版がたくさんあって,選ぶのが難しいかもしれないがニ長調のものが弾きやすいはずだ)

・フォーレ:夢のあとに

・ヘンデル:ソナタ集
(これは前記事で述べた三大教本に従った演奏順が良い。3,4番は易しいし1,6番は難しい。5番はヘンデルの自作ではないらしいこともあり,不要と思う。)

・クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ

・クライスラー:愛の悲しみ

・ラフマニノフ:ヴォカリーズ
(声楽の厚みはヴァイオリンでは表現しきれないので,ヴァイオリンで演奏すること自体に懐疑的)

・シューベルト:ソナチネ
(ピアノとのアンサンブルの入門にとても適した曲。ただし第2番は除く。)

・ヴィターリ:シャコンヌ
(前記事で述べた通り,シャルリエ編だとしたら難し過ぎる。しかし,このレヴェルということならば,原典版かダフィトDavid版のように思われる。)

以下の曲は寡聞にして筆者の知らない曲
・ザイツ:協奏曲 第3番 ト短調

 【ヴァイオリンと管弦楽

・バッハ:協奏曲第1番 イ短調
・バッハ:協奏曲第2番 ホ長調

・バッハ:協奏曲第3番 ニ短調(2台ヴァイオリンのための)

・アッコーライ:協奏曲第1番 イ短調

・ハイドン:協奏曲第2番 ト長調

 Jの【レヴェル5】。こちらはジャンル分けは無い。

・バッハ:協奏曲第1番 イ短調
・バッハ:協奏曲第2番 ホ長調

・バッハ:協奏曲第3番 ニ短調(2台ヴァイオリンのための)

・ベリオ:協奏曲第9番 イ短調
(重音がかなり難しいと思う。筆者ならもう1レヴェル上に入れる。)

・モ-ツァルト:アダ-ジォ ホ長調

・ヴィヴァルディ:「春」「夏」
(ヴァイオリン曲の筆頭にあがる有名曲なのに教材としてはあまり使われない稀有な例。だってピアノ伴奏ではつまらないもの。)

 続いてJの【レヴェル6】。

・ベートーヴェン:ロマンス ト長調

・ハイドン:協奏曲第1番 ハ長調

・カバレフスキー:協奏曲
(第3楽章はもう一つ上のレヴェルではないだろうか?)

・クライスラー:ヴィヴァルディの様式による協奏曲

・モーツァルト:協奏曲第3番 ニ長調

・モーツァルト:ロンド 変ロ長調
・モーツァルト:ロンド ハ長調
・モーツァルト:ロンド ト長調(ハフナー・セレナードより)

・チャイコフスキー:憂鬱な(メランコリックな)セレナード
(小学生には合わないと思うけど)

・ヴィヴァルディ:「秋」「冬」

・ヴィエニアフスキー:伝説曲

 明らかにレヴェル6は5より難しい。そのような見方からするとSのリストは少々大まかさが気になる。

 では次回は小学生より上(かもしれない)レヴェル,あるいはかなり進んだ小学生の水準を見てみたい。