「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

阿川弘之氏の死と海軍魂

2015-08-07 04:41:36 | 2012・1・1
作家の阿川弘之氏(94)が亡くなられた。おそらく先の戦争に従軍した作家の中では最後のお一人であろう。戦後すぐの時代から昭和30年にかけて文学誌が流行した時代があった。戦後派(アプレゲール)文学の台頭もあって僕もよく小説を読んだが、その中で僕の好きな作家は、阿川弘之氏であった。彼が体験した旧海軍生活をもとに描いた作品を読みふけった。

僕が阿川氏の作品が好きな理由の背後には、戦中(昭和18年―20年)送った旧制攻玉社中学での生活があった。攻玉社は文久3年(1863年)創立の伝統ある学校で、明治時代には海軍兵学校予備校と呼ばれ、先輩には「広瀬中佐」「佐久間艇長」ら歴史上の人物を多く輩出している。当時の攻玉社の校訓七か条「尊皇愛国」「恭謙敬愛」「清廉潔白」「至誠一貫」「質実剛健」「反省謝恩」「勤勉努力」は海軍兵学校の校訓五省に習ったものだといわれている。

当時の攻玉社の校長は亥角喜蔵先生で、退役海軍少将であったが、極端な軍国主義の鼓吹者ではなかった。学問一筋な方で、戦争中英語は敵国語だとして禁止されていた学校もあったそうだが、攻玉社では、勤労動員中も英語の授業はあった。文部省国定の英語読本(多分昭和20年度版)には”General Isoroku Yamamoto"(山本五十六元帥)が登場していたが、僕は未装幀のこの読本を憶えている。

戦後すぐ、配属将校や一部の先生が学校から”追放”されたが、亥角校長はその前に潔く身を引いた。直接、阿川弘之氏のように海軍魂とは何か教育は受けなかったが、短い攻玉社での生活を通じて、その一端が解かる気がする。