またたび

どこかに住んでいる太っちょのオジサンが見るためのブログ

WHATEVER-13

2009-06-25 08:11:43 | またたび
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 ケンは深く息を吸い込むと、ゆっくりと亜実を体から離して、
 目を逸らすことなく、亜実に語りかけた。
 「ごめん、今オレ大切な人がいるんだ。とても大切なんだ、その人は… だから、ごめん。」
 その言葉に偽りがないとは言えなかった。
 しかし、この場ではこの言葉が自分にたいして、一番素直な言葉だった。
 二人の間に重い沈黙が過ぎると思ったが、亜実はすぐに切り出した。
 「えへへ、ふられちゃった。」
 顔は笑っていたが、目は真っ赤で涙が今にも零れ落ちそうだった。
 私んちここから近いから送らなくていいよ、と亜実は足早に去っていった。
 地面に当たる下駄の音が、公園内に響いた。
 「亜実…」
 これでよかったのかな、いや付き合ったとしてもまた同じ結末になるだけだ、
 まだ本当の自分の姿をわかってもらえていないし、
 それより、今はあいつの代わりにしか見ることができないだろう。
 そうしたら亜実を悲しませるだけになる。でも泣いていた。
 人一人を悲しい思いにさせてしまった。
 どっちにしろ傷つけるだけだったのか。
 だったら、始めから人なんて好きにならないほうが、いいのではないのか。
 もう傷つけたくないし、傷つきたくない。
 ケンの頭の中で色々なことが錯綜していた。
 見上げると月が自分の歩く方向にあった。
 やけに明るい月が少し滲んで見えた。
 亜実にメールをしようと文を作ったが途中で消した。
 一体自分に何が出来るんだろう。
 今更、今更、かける言葉など見つからず、祭りの後の静けさの中、歩きなれた道を誰に会うこともなく歩き続けた。