またたび

どこかに住んでいる太っちょのオジサンが見るためのブログ

WHATEVER-12

2009-06-17 12:55:27 | またたび
「どうだい?ここから見る風景は絶景だろ。
 あの山に比べたらオレら人間なんかちっちゃい存在だろ、
 でも小さいなりにもちゃんと生きてるんだ。
 こうやって自然を見て感じたり、感銘は受けたりすることは素晴らしいことじゃないか。
 さっきまでお前さんの目は死んでたけど、今は違ったように感じるぜ。」
 ケンはちいさくうなずいた。何かが満たされた。
 現状は何も変わってはいなかったが、ケンはすべてが満たされたような感覚になった。
 自分探しの旅なんて、結局自分は見つからない。
 なぜなら自分はここにいるからだ。
 無から有は作り出されないように、自分にないものを探すのではなく自分の中にあるものを探すのだ。
 ケンは掌を広げ、ゆっくり握り、軽く胸を叩いた。
 「お、いいツラになってきたんじゃないか?」
 「山に教えられた気がします。言葉じゃうまく表現できないけど、
 自分の中できっと変われた、都会にないものもわかってきました。
 見返りを求めて生きるのではなく、なんのために生きているのかという問いに自分なりの答えを導き出すことが大切なんだなって。
 いつも逃げることばかり考えて、問題から目を背けるようにしてしまっていました。
 それでも後ろに下がったからこそ前に進む大事さが見えてきたような気がします。」
 言い終えると黙って聞いていた白髪混じりの中年が歳に似合わずVサインを送った。
 ケンも恥ずかしそうに親指を立てそれに応えた。
 都会の鳴り止まない車のクラクションの代わりに、セミの鳴き声がその空間に響きわたった。
 大空を優雅に舞う一羽の鳥を見つけ、ケンは自分に重ね合わせた。
 まだ低い、まだ低い、お前はこんなもんじゃない。
 大きく翼を広げ、大自然を糧にして、もっともっと高く飛べ、誰よりも高く飛べ、ケンは心の中で叫んだ。
 鳥は大きく羽ばたき、遥か上空の太陽を目指し飛び続けた。