またたび

どこかに住んでいる太っちょのオジサンが見るためのブログ

BUTTERFLY-15

2009-03-17 08:00:16 | またたび
 店を出ると空を見上げた。
 繁華街の明かりでまったく星は見えない。
 輝いているのはネオンの明かりだけだった。
 純と僕はあまり会話もしないまま、それぞれの帰路についた。
 わざと遠回りして、夜風に吹かれながら、冷え切った心を凍らせようとした。
 僕の右肩には、自分の家紋のタトゥが入れてある。
 とも子と同じ気持ちになりたかったからだった。
 痛みに伴う代償は何もなかった。
 形や見た目を真似しても、何も得るものはなかった。
 一生消えないものに対しての後悔は一切無い。
 だが、自分の生き方に対しては後悔が残った。
 純が気分転換したほうがいいと言ってドライブに誘ってくれた。
 日が落ちると気温は一気に下がり、春の暖かさはまだ遠かった。
 どこに行くと告げることなく、純は車を走らせた。
 僕は携帯にとも子の名前がないのを自覚するたびに孤独、またもう戻ってこない現実が辛く思えた。
 街の光が届かない、風の音しか聞こえてこない小さな丘の駐車場に車を停めた。 僕も純もタバコに火をつけた。
 タバコを吸うたびに暗闇の中、一瞬だけ赤い点滅が見えた。
 雲一つないきれいな夜空だった。
 車から出て、大きく深呼吸をした。
 静寂の中、吐き出した息の先を見つめた。
 その時、満天の夜空の中に弱々しくも輝いている僕の星を見つけた。
 一等星の隣に小さな存在で確かにいた。
 久々に見た星は、光も増すことも、減ることもなく変わらない光を放っていた。 


 
 僕の星は消えてはいなかった。




 いつまでも同じところから立ち止まっていては駄目だ。
 見るところを変えれば、まだ輝き続けている。そう星が語りかけるようだった。 そしてこれからも輝き続けられる。
 星の光は僕の目に確かに届いた。
 それは希望の光。
 そして前に進む力。
 これからも何千年何万年この命が燃え尽きるまで、この星は輝き続ける。
 自分の胸に手を当て、聞こえてくる鼓動を確かめた。
 胸の中にこびりついていたものを掴むと、その手を握り締めた。
 目の前に群青色の蝶が舞った。
 それはこれから羽ばたく場所を探すかのように、優雅に、そして力強く僕の周りを飛び回った


end