またたび

どこかに住んでいる太っちょのオジサンが見るためのブログ

BUTTERFLY-10

2009-03-10 08:04:58 | またたび
 でもそんな彼女のことは確実に好きになり始めていた。
 好きになれば多少のことなら、目をつぶれる。
 いや、許せるといったほうが正しいのかもしれない。
 好きになる自分と新たなる感情に取り付かれている自分。
 一番輝いているのは彼女なら、僕は近くひっそりと輝くにいる小さな星でいい。
 「私がタトゥを入れた理由をはなしてなかったよね」
 一休みしたいと入った喫茶店で彼女はタバコに火をつけながら話し出した。
 「特に理由という理由はないんだけど、何か変われると思ったの。自ら、あと戻りできないようにしたっていうか」
 僕は何も言わず彼女の話を聞いた。
 「仕事もたくさん変えたのも、未だにやりたいことが見つからない感じのフリーターのままきちゃって、今のエステの仕事もそんなにやりたいことではないし、だって仕事は深夜までやるでしょ?好きでやっている仕事だったらやりがいを感じるのかもしれないけど、なんとなくやっているからね。でもいつかは見つけられると思う。私が羽ばたけるようなことがね。その時は背中に群青色の蝶のタトゥをいれてみたいの。蝶のように私も羽ばたいて、自由にいきていられる証になる気がしてさ。こんな考えの女はどう思う?」
 「まぁひとそれぞれだから、自分なりに生き方を見つけられるのが人生だと思うから。僕はいま大学生に通っているけど、やりたいことが見つからないんだ。専攻している心理学もなんとなくの部分もあってね。いま、二十歳で二年生だけど、来年にはもう就職活動しなきゃなんなくなるし、どうにでもなれっては思えないんだよね。フリーターにかなり抵抗がある。」
 最後のフリーターというところははっきりとは言えなかった。
 大学に入れるだけでもすごいよと彼女は言った。
 やれば誰だって出来るといいたかったが、イコールそれは彼女がやらなかった結果がフリーターであるといっているような気がして、言いかけたが途中で止めた。
 「…トモ…」
 さん付けでは壁があると思いトモと呼ぶことにした。
 僕のなかではかなりの冒険だった。彼女は笑ってなぁにと僕の目を見た。
 僕はいつも自信がないから人の目を逸らしてはなしてしまうのかもしれない。
 このときも目を合わせたつもりだったがだんだん視線は下へ落ちていった。
 「例えば、山を登るにしても色々な上り口があると思うんだ。斜面が急な道や平坦な道。だけど、上に登ることには変わりないんだ。…トモが仕事を転職し続ける道もある、今の仕事の道で山を登ることだって出来る。頂上に何があるかはわからない。結婚かもしんないし、やりがいかもしんない。それは人によるけど、でもどんな道を選んで進もうが前に向かっていると考えれば、少しは気持ちが楽になるかもしんないよ。それでも前に進んでると…ごめんね、年下なのに説教くさくて」 
 全然、彼女は首を横に振った。僕は残りのカプチーノを飲み干した。
 「あと、聞いていい?」
 「こうやって、二人で遊ぶ男友達はやっぱいるの?」
 彼女は少し黙って答えた。
 
 「いるよ。ショック?」
 僕はタバコの煙を吐き出した。風のない店内で漂う煙が消えるまで黙っていた。 そんな予感はしていたが、はっきり言われると、気分がいいわけがない。
 「ショックだね。もう会わないでっていったら会わないでくれる?」
 「それは博之くん次第じゃない」