マジックは、タネや仕掛けを知ってしまうと全然面白くなくなる。
ごく簡単な、ちょっと器用な人ならできそうなタネを、わざわざ披露して喜ばせる芸人もいる。
この世で仕掛けのいちばんわかりにくいのは、経済と称する人間のだまし合いだ。
どこかの会社がつぶれたと報じられる。小さな会社はその報道が事実になるが、大きな会社がつぶれたというのは、そのとき影を潜めているだけである。
形を変えていて、またもとどおりになったり、名前を変えて生まれ変わったふりをしたり、いつかはすまし顔で現れる。
GMも1年5ヶ月で再上場というグランドマジックをやってのけた。
つぶれては困る会社は、人がつぶさない仕掛けをあやつって、つぶさないからつぶれない。
つぶさない方法は、仕掛けをあやつる人が知っている。しかし、そんなことを説明する能天気はいない。
政治の世界では、説明責任がやたらに騒ぎ立てられるが、騒いでいるのも大仕掛けの一部分で、その人たちが知りたいわけではない。知られてしまうことは、その人たちのいちばん確かな失業材料になるのだから、望んでいるわけがない。
仕掛け作りも、腕か頭のどちらかが悪かったり狂ったりしていると、人の命にかかわるような、あるいは何十年か後に人間の姿でない生きものが現れるような、下手なことをやってしまう。
仕掛けの難しさは、その構造よりも、使い方受け継ぎ方にあるような気がする。