財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第5章−4 アイ・ディド・ナッシング(再編集版)

2020-09-04 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「いったい何のこと?」
「君に、来年度のディベート奨学金が支給されることになったんだよ!」
「本当ですか!」
 アメリカのディベート名門大学では、フットボールやバスケットボールのように大学の威信がかかっている。対抗試合で優秀な成績をおさめる学生には、授業料免除の奨学金が授与されることがあるし、有望な高校生にはリクルートがかかり大学同士の取り合いになることさえあった。ゴードン自身も1年時から奨学金をもらっており、同時に学年トップクラスの成績を取る秀才であった。
「君はナンシーに感謝しなくちゃいけないよ」
「どういうことですか?」
「まだ聞いてなかったのか。奨学生選考会議で、彼女が君を熱烈に推薦してくれたらしい。ハワイから出て来て一人でがんばってる君の努力に報いないって法はないだろう、とかなり熱弁を振るったみたいだ」
 そうか。金銭に困っているわけではないが、けっして余裕があるわけでないことをナンシーはわかってくれていたのか。
 ぐっとこみあげてくるものがあった。

 次の日の朝。
 ナオミは、マウスピークス教授のオフィスのあるビルまで飛び跳ねるように向かった。いつも朝8時半には三階のオフィスに来て、むずかしい顔をしてパソコンをのぞいる彼女にお礼を言うために。
 エレベーターに乗るのももどかしく、階段を駆け上がってドアをノックした。「マウスピークス先生、ありがとうございます!」
「ナンシーと呼んで。初めて会った時、階段を駆け上がっちゃあぶないって言わなかったかしら。でも、ありがとうって、いったいなんのこと?」
「ゴードンから聞きました。あなたの熱弁のおかげで来年度ディベート奨学金がもらえることになったって」
 ナオミは、次のセリフを人生で何度も思い起こすことになった。
「私は何もしてない。もしも何かした人がいたとしたら、あなた自身よ」
 一瞬、ナオミは涙が出そうになった。
 だが、祖母トーミから、マーメイドは簡単に泣くもんじゃないと言われたことを思い出してがまんした。
「せっかく来たんだから、コーヒーでも飲んでいきなさい。それくらいの時間はあるでしょう? ここ2年間のパフォーマンスはすばらしかったわ。コミュニケーション学部の教員たちも、本当に感心してる。あなたをリクルートした私としては鼻高々ってところね」
「私なんて・・・・・・すばらしいパートナーとりっぱな監督とアシスタントコーチたちに恵まれたおかげです」
「あなたならどんな名門校に行ったとしても頭角を現したと思う。でも、ケイティやLUCGの仲間(St. Lawrence University Campus Guardiansの略、聖ローレンス大学キャンパス警備隊の意味。第一部第6章参照)との出会いは、特別な意味があったわね」
「はい、そう思います」
「ディベートに関しては、予想以上にうまくやってる。このまま順調にバランス感覚を養っていって。でも正直、あなたは伸びすぎている」
「伸びすぎ・・・・・・ですか?」
 ナオミは、だけど成長に伸びすぎなどあるのだろうかといぶかしがった。


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