ガシャーン!
リギスが歌い終わった瞬間、天が裂けて土煙にガラスの破片が降ってきた。破片は、あっというまに数千の鏡となって散らばった。
「アストロラーベ。土煙空間で有利に勝負を展開するつもりだったのでありんしょうが、こちらも鏡地獄で対応させていただくでありんす」
「よいのか? 鏡はお主の本当の心も映してしまうかも知れぬぞ」
「どういう意味でありんすか?」
「お主が『悩ますもの』になったのは、父であられる責任の神シュルド殿へのコンプレックスであろう。もう呪縛から解き放たれても、よい頃ではないか?」
「大きなお世話でありんす。冥界の貴公子と呼ばれても、未だに振られたマーメイドに操を立てている軟弱者に言われたくはないでありんす」
「挨拶だな。私のことはなんと思われてもかまわないが、お主が『悩ますもの』になった由来には興味がある。お主の気まぐれには何か一本筋が通っている(There is a method in her madness.)。お主が唄姫で冥界の道化師ならば、ひとつ歌って聞かせてはくれまいか。それとも、お題をもらうのは苦手か?」
「よいでありんす。死に行く相手を楽しませてやるのも、一興でありんす」
ラララ〜、責任の神は働きもの
いつでも人間たちに責任感を与えていた
責任感に悩む者だけが
世の中を動かすことができる
責任感に悩まぬ者は
冥界でそのツケを払わせられる
悩むことで、苦しむことで、人間たちを成長させていた
ラララ〜、責任の神は恋に落ちた
美しいが誰にも愛を与えぬ堕天使との
悩むことを知らぬ堕天使マーサとの
初めての愛に責任の神は夢中になった
そして堕天使マーサはふたりの
愛の結晶歌姫リギスを生み出した
責任の神は、娘の唄を聞くことで、いつも疲れをいやしてた
ラララ〜、責任の神はついてない
いつのまにか人間たちは変わってしまった
責任を与えても他人に転嫁するものばかり
責任感はどこにもなくなった
責任を与えれば与えるほど善人ばかりが苦しむ
責任転嫁をすることで悪人ばかりがさかえる社会
ラララ〜、責任の神はおかしくなった
仕事をすればするほど、おかしくなった
どうしてよいかわからずに愛を求めたが
愛する堕天使マーサは見つからなくなった
せめて娘の癒しに救いを求めたが
放蕩娘はコミュートスに落とされていなくなった
こうして責任の神は自らの無責任さに耐えられずおかしくなった
だからもう人間たちは、悩むこともなく、好き放題
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