財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−9 ドルガの最後?(再編集版)

2021-07-20 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「気持ちだけもらっておくとしよう。自ら命を絶つは、死を最上の体験と位置づける死の神の一族にとって最大の罪。それゆえ、よみがえることはできなくなる。我が望むのは、『不死身の悪魔姫』の伝説のみじゃ。伝説になってしまえば、未来永劫に名誉を得ることがかなう。人間共はわかっていないようだが、死はけっして恐れるべきものではない。意味のある死を生きるため、生のすべてはあるのじゃ。無意味な生にしがみつくことなどに何の意味がある? それに我が取り付いた夏海という娘、精神力がなかなか強い。すべてを取り込んだつもりが、完全には取り込めなかったようだ。日に日に息子トミーを思う気持ちが我の心中にも育ちつつある。フン、くだらない母性愛やらと笑うがよい。さあ、もうおしゃべりは終わりだ」
 ドルガが上空に向かって叫んだ。ターナートーース!
 暗雲が立ちこめると青白いドクロの面をかぶった死神タナトスが、蒼ざめた馬に乗ってこつ然と現れた。ドルガが語りかける。
「我は、死の神トッドの娘ドルガなり。我が命を断ち、夏海という娘の魂に再びこの身体を与えんと欲す。四人の魔女の内、精神世界の闘いに独り勝利したのだ。我が父の名においてなされた気まぐれを聞いてもよいであろう」
 一瞬、迷ったタナトスだったが、切れ味するどい大鎌を振り上げるとドルガの首を落とした。なぜか仮面であるはずの目から、涙が一筋流れた。
 タナトスはおそば仕えだった頃から、ドルガをずっと愛していたためだった。ドルガはそうした気持ちを知ってか知らずか、自らを愛する相手に命を奪う役を演じさせた。タナトスはドルガの見開かれた両眼を手で閉じると、暗雲の中に立ち去って行った。
ドルガの死を見届けたアストロラーベの行動は、すばやかった。
時空変容ミラージュの儀式の終わりを告げる呪文が始まった。

   大いなる時よ、再びその歩みを始めよ
   大いなる時よ、しばしの眠りを解き
   大いなる時よ、我らを元の世界に戻すがよい
   大いなる場よ、再びその動きを始めよ
   大いなる場よ、しばしの眠りを解き
   大いなる場よ、我らに人間界への帰還を許すがよい
   メギリヌ、ライム、リギス、アストロラーベ、スカルラーベ、マクミラ、ミスティラ
   そしてすべての神界に所縁あるものたちよ
   いざ、我とともに人間界へ戻り行かん!

 気がつくと、全員がパフォーマンス・フェスティバルの舞台に戻っていた。
 マクミラがアストロラーベに聞いた。「どうするの?」
「知れたこと。ショーは続かねばならぬ(“The show must go on.”)。大丈夫だ。観客の記憶は第四幕直前で止まっている」
 全員がアストロラーベの答えにうなずくと、「砂漠の魔人の城〜ミラージュの伝説」の後半部分が始まった。
 だが、アストロラーベは安心のあまり気づかなかった。
 ミラージュの儀式が終わる瞬間、666分間のタイムリミットをコンマ6秒すぎてしまっていた。
 さらに、涙で目を曇らせたタナトスが大鎌の手元を狂わせたため、精神世界に残されたドルガには首の皮が一枚残っていた。
 誰もいなくなった精神世界で一陣の突風が吹いた時、一度閉じられたはずの悪魔姫の充血した双眼が見開かれた。


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