Chef's Note

『シェフの落書きノート』

初めてのバイト体験記 #2

2005-11-23 | 自由 気ままな独り言
初めてのバイト体験記からの続きです。

そう…高校1年生の夏休みの皿洗いのバイト。
このバイトで得た収入は、新しいギターになった。

逗子のレストランでの皿洗い。
1ヶ月と少しの期間のバイト。

「学校が始まっても、日曜日にバイトに来ないか?」
終盤になると料理長がこう言った。

ありがたい誘いだったのが…。

なんせ家から遠かった。
駅まで歩いて20分。
横須賀線の電車で15分。
バスで15分。
乗り継ぎが悪かったり…。
待ち時間を入れると1時間半は余裕でかかる。
へたすると2時間弱の通勤時間。

「えぇ…。ちょっとまだわからないので…」
と歯切れのわるい返事になった。

バンドの練習もあるし…
こんな感じで迷ったのだが…。

「君は、コックにむいている。うちでコックさんにならないか?」
シェフが続けて言った。

「コックさん…ですか?」
思わず聞き返してしまった。

まわりのコックさん達がシェフに続いて言った。
「筋がいいよ…。坊やがコックになったら…俺…ヤバイかも…」

(この頃…一番年下のオイラは、キッチンで『坊や』と呼ばれて可愛がって頂いていた)

皆が言うのを冗談だと思っていた…。
ただ…必死でやっていただけだった。

「僕は、音楽がやりたいんです…」
コックになるつもりは、この時…
全くなかった。

「音楽か…。それもいいな…。でもな…これは憶えておきなさい。君は、コックになったら良いコックになれる」
シェフが、またそう言った。

「はぁ~」
自分の事なんか…全くみていないと思ってた。
シェフが、人を褒めている所なんか、見たことない…。
それなのに…
今、オイラを褒めてくれている。

そんな光景を皆が見ていて…
ニコニコして…

「コックになれ…。もし、坊やがコックになったら…おまえヤバいぞ!すぐ追いつかれて抜かれるな…」

なーんて先輩のコックさんが後輩に言って…皆で大笑いしている。

「僕は…そんなになれないですよ…。ただ必死なだけで…」

なんだか最高に嬉しかった。
皆の仲間になれたような気がした。

ここのレストランの料理は、美味しかった。
有名人や芸能人もよくお客様として食べにきていた。

黒柳○子様のオーダーです。
なんて感じで注文が入る。

彼女は、必ず週に一度は足を運んでいた。

仕事は、滅茶苦茶に大変だったが…
みんなの心の温かさをかみしめた。

給料も安かったけど…
何か大きなもの得た感じがあった。

バイトが終わって…
祖母の家に遊びに行った。

「夏休み…レストランでアルバイトしたんだって?」
親戚の皆が遊びに来ていて賑やかだった。

オイラは、『おばあちゃん子』だった。

「何か…作れるようになった?」
「何か…作ってみて…食べたいな…」
皆が…そういった。

「おばあちゃんに何か作ってあげたら…喜ぶよ!」
その誰かが言った一言で…
オイラ、その日の夕食を作る気になった。

皆やおばあちゃんに、いつもオイラは心配ばかりかけていた。

その頃のオイラ…反抗期の真っ只中!
でも、おばあちゃんの前では、不思議と素直になれた。

買い物にいって材料を買ってきて…
作った。

クリーム・コーンスープ
ハンバーグ・ステーキ
サラダとドレッシング
ピッツァ

この日…作ったメニュー。

1ヶ月と少しの期間のバイトで、何も出来なかったのが作れるようになっていた。

ハンバーグを練る時、コックさんからレシピを聞き出して…メモをとっていた。

ピッツァの仕込みの時にも…
サラダの仕込みの時にも…
スープの仕込みの時にも…。

いつも、おばあちゃんの手料理の和食で、テーブルいっぱいに並んでいたのが…。

この日だけは、オイラが作った…料理がテーブルを占拠していた。

オーブン等はないので、ピッツァは…フライパンに蓋をして焼いた。

家庭で作るにはどうしたら良いか…
可愛がってくれたコックさんに教えてもらった。

皆、最高に喜んでくれた。

その時…
「コックさんになる?」
おばあちゃんが真顔でオイラに聞いた。

「ん?コックさん?…俺、音楽やりたい…」
そう答えた。

おばあちゃんは、小さく頷いて…
美味しそうに…未熟なオイラの料理を食べていた。

嬉しかった…。

その時の…おばあちゃんの笑顔は、今でも忘れない。






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