美術館にアートを贈る会

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講演「時代精神を表現するコレクションの在り方」(加藤義夫氏)要旨

2020-12-17 17:36:57 | Weblog

講演「時代精神を表現するコレクションの在り方」(要旨)
   加藤義夫氏(宝塚市立文化芸術センター館長)

*2020.11.28(土)に開催したオンライン2020総会・講演会でのお話をまとめたものです。

1)

ルーブル美術館やニューヨーク近代美術館は、単に美の殿堂というよりは、その国の歴史、ないしは政治とからんでいるところが多い。

<ルーブル美術館は市民革命の象徴>

 ルーブル美術館は、市民革命によって王侯貴族のコレクションが市民に移管された美術館。つまりルーブル美術館は、市民革命の成功の象徴としての美術館である。
 ヨーロッパの美術館のコレクションの見方は、戦利品としても見ることができる。ナポレオン時代にイタリアや周辺諸国に侵略しての戦利品も展示している。

 日本の美術館は、建物を作ってから、あとから作品を集めるのが日本のスタイルで、このあたりが日本とローロッパの美術館の成り立ちの違いだと思う。やり方だけを真似てきた日本とヨーロッパでは、市民の美術館に対する意識も感情もおのずと違う。

 設立や経緯は違えども、美術館の命はコレクションだと思う。
 そういう意味では、ルーブル美術館のコレクションは膨大なコレクションで35万点ぐらいある、コレクションの数も圧倒的に違うが、それは200年以上の歴史ということもある。


<ニューヨーク近代美術館は表現の自由の象徴>

 ニューヨーク近代美術館(以後、MoMAと表記)は、政治とかなりからんでいるところがある。
 MoMAは、1929年(世界大恐慌の年)に3人のアメリカ人女性によって作られた。

 アメリカ人は、移民として新大陸に渡ったことで、自分たちのルーツはヨーロッパにあると考え、それがひとつのコンプレックスになっている。そのコンプレックスを払拭するために、コンテンポラリーアート(当時はモダンアートだが)をコレクションしていくことになる。
 この美術館の収集方針がユニークである。近代美術をめぐる世界の状況を見て、まずは自分たちが非常に遅れていると感じ取って、いまだ美術館が収集される価値が確立されていないものを集めようとする。誰も目をつけていない、誰も買おうとしない、評価しなかったものをコレクションしていこうとする。そのため過去のものでなくて、現代のいままさに時代の精神を語るような作品を集め、自分たちの文化をつくっていこうとした。

 初代館長はアルフレッド・バー・ジュニアで、館長就任が27歳。彼が企画した「キュービズムと抽象絵画」という展覧会が、1936年に開かれ、写真、建築、舞台、映画、ポスターを含め386点展示された。彼の意図は、ヨーロッパでソビエトやナチスドイツの迫害を見て、反ソビエト・反ナチス主義を表明するところにあった。戦後のソ連対アメリカの冷戦構造から言うと、社会主義に対して自由主義陣営がいかに表現の自由を勝ち取っているかというところを、アートによって表現しようとすることになった。これはカルチャーウォーとも言われている。

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2)

次に30年近く前に訪ねたプライベートミュージアムを紹介したい。

<パンザ・コレクション(イタリア)>

 ミラノ郊外にある、パンザ伯爵が週末を過ごす別荘である。
 50年代、アメリカのミニマル・コンセプチュアルアートを購入した。
 イタリア人の芸術の好みは情緒的なものが好きなので、ミニマル・コンセプチュアルアートは本当はさほど好きではないが、イタリア人にしては珍しくミニマル・アートを集めた。

 ダン・フレヴィン、ロバート・モリス、ソル・ルウィット、カール・アンドレ、ドナルド・ジャッドなど、ミニマル・アートの膨大なコレクションを形成した。90年に、MoMAがミニマル・アートをここから買い求める。グッゲンハイムも購入した。グッゲンハイムはカンディンスキーの作品を売ってまで、210点のミニマル・コンセプチュアルアートを購入して、自国の芸術を大切にした。

 パンザ・コレクションからのアドバイスがユニーク。

  • 新人発掘のもっとも単純な方法、金銭のためでない仕事をしている優れた画廊主を知ることです。彼らは新たなアートに鋭い感覚を持っています。
  • 私が集めた作品は当時だれも買いたがらない若い人か無名の人のもので、多くは初期のものでしたが、30年たったらとても高価になった。美術館はその後、高くなってから購入。

 同時代のものを集める勇気があるかどうかが問われている。

<インゼル・ホンブロイヒ美術館(ドイツ)>

 デュッセルドルフの近くにある森の中に、不動産業者のカール=ハインリヒ・ミューラーが、展示パビリオンを複数つくった。

 ユニークなのは、作品の題名も作者名も説明もない美術館であること。近現代も古代もごちゃまぜに展示している。これはなぜかというと、前知識なくても自らの感性を研ぎ澄ませて作品と対話してほしいという思いからである。自分が初めて出会う作品とどう対峙するか。なんの情報もない分、自分の感性だけを頼って見ることになる。

 独自の視点で文化施設をつくっている。これは行政とか公共事業ではなく、個人的なモチベーションでつくっているのがユニーク。

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3)最後に

 まだ誰も評価していないものをいち早く安く買う。自分たちの時代をつくっている精神を担うような、そのコレクションを美術館に寄贈できるシステムができればと思う。

 そのためには、現状は欧米の価値観に委ねているが、世界標準で価値観を判断できるようなシステムが日本に形成されると良いと思う。

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プロフィール
加藤義夫氏 KATOH Yoshio (宝塚市立文化芸術センター館長)

1954年大阪生まれ。グラフィックデザイナーや現代アートのギャラリーの企画運営ディレクターを経て、展覧会の企画制作や美術評論を仕事とする。
現在、加藤義夫芸術計画室主宰、美術評論家連盟会員、朝日新聞大阪本社「美術評」担当。芦屋市文化振興審議会副委員長、一般社団法人現代美術振興協会理事、一般社団法人デザインマネジメント協会理事、民族藝術学会理事。大阪芸術大学客員教授ほか、神戸大学・大阪教育大学で講師をつとめる。

 

 


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