美術館にアートを贈る会

アートが大好きな私たちは、
市民と美術館の新しい関係の構築をめざしています。

第3回トークディスカッション(10/28)のご案内

2017-10-05 13:36:00 | Weblog

美術館にアートを贈る会 リサーチプログラム       
第3回トークディスカッションのご案内

市民と美術館の新たな関係を提案している「美術館にアートを贈る会」では、新規寄贈プロジェクトを始めるにあたってのリサーチプログラムを実施しています。特に、今まさに生きている同時代作家にスポットを当てて多方面からの考察を深めています。

第1回は、兵庫県立美術館の蓑館長に、アートプランナーのおかけんた氏のナビゲートのもと、
市民が支える美術館について日本とアメリカの違いをお話いただきました。
http://blog.goo.ne.jp/art-okuru/e/5a1a3ee1f1d288570fee0a206e09629e

第2回は、大阪新美術館建設準備室の菅谷さんに、
国立国際美術館の研究補佐員の楠本さんのナビゲートのもと、
大阪新美術館のコレクション形成や美術館との関わり方についてお話いただきました。
http://blog.goo.ne.jp/art-okuru/e/f6437934726e89e0643f0d2ec7809d6f

      
第3回トークディスカッションでは京都市立芸術大学の加須屋明子教授をゲストにお迎えします。

「同時代作家との協働のカタチを探る」

加須屋氏は、国立国際美術館での長年のご経験に加え、現在は京都市立芸術大学で美術学部の教授を務める一方、ご出身のたつの市では龍野アートプロジェクトの芸術監督も務めておられます。
同時代作家との地域間、さらには国際間での交流に努めておられることもあり、同時代作家との協働についてお話しいただきます。
また、ポーランドを中心とした旧東欧地域の近現代の美術に造詣が深いので、東欧の同時代作家の現況などのお話も伺えるでしょう。
ナビゲーターは前回同様、国立国際美術館の楠本愛氏に同時代性を主軸にお話を導いていただきます。

是非お早めにお申し込みください。

■日時:2017年10月28日(土)13:30〜15:30(13:00 開場)

■内容:同時代作家との協働のカタチを探る
   
    ゲスト: 加須屋明子氏(京都市立芸術大学 美術学部 教授)
    ナビゲーター:楠本 愛氏(国立国際美術館 研究補佐員)

■会場:ナレッジサロン プロジェクトルームGH
   530-0011大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪 北館7F
   *北館奥、北3エレベータで7階にお越しください。
    少しわかりにくいので初めての方は添付のマップをご参照ください。


   *当日のご注意。
    ナレッジサロン受付でイベントの内容とお名前をおっしゃってくださると入場できます。
    事前にお名前を登録しますので事前申込をよろしくお願いします。

■参加費:無料 
■定員:30名(事前登録制)

■参加申込:10月26日までに下記メールアドレスにお申し込みください。
         info@art-okuru.org (美術館にアートを贈る会 事務局)

*今後の予定(会場は、すべてナレッジサロン。 それぞれの回にナビゲーターを設定させていただきます。)
第4回 2018年2月10日(土)13:30~15:30  ゲスト 京都市美術館 館長 潮江宏三氏

 


第2回トークディスカッション(9/2)講演要旨

2017-10-03 20:46:33 | Weblog

美術館のコレクションから考える、関西の同時代作家とは

日時:2017.9.2(土)13:30~15:30

会場:ナレッジキャピタル ナレッジサロンにて

 

ゲスト:菅谷 富夫氏(大阪新美術館建設準備室 研究主幹)

ナビゲーター:楠本 愛氏(国立国際美術館 研究補佐員)

 

〈大阪新美術館の構想

 

 

菅谷:大阪新美術館は、2021年度を完成予定で動いております。外観は黒い箱が宙に浮いているイメージで、真ん中に大きな吹き抜けがありまして、パサージュと呼んでおります。1階の部分は通り抜けができて、2階が美術館の入り口になります。東側の通りを挟んである関電の本社ビルからも歩道橋のようにして繋がりますし、当然南側の国立国際美術館からも行き来ができるようになります。

4階にコレクションの展示室が大体1500㎡くらいあるかな。その中で300㎡くらい、具体美術協会の作家の作品を常設するスペースになります。吉原治良さんの作品を数多く収蔵しておりますので、具体の部屋を作りたいと思っております。5階が企画展示室です。1200㎡の展示室があり、さらに同じフロアに500㎡程度のコレクションの展示室があります。これらは一体化して使えるようにしておりますので、最大1700㎡の企画展ができます。延べ床面積は約1万5千㎡くらいです。

 〈コレクションの話 5つの収集方針〉

菅谷:4900点ほどを収集しております。19世紀後半から今日に至るまでの作品を収集しています。

コレクションを作る時には、収集方針というのをまず作ります。うちの収集方針は1990年頃、近代美術館構想委員会というのがありまして、その委員会で決めたものです。それに沿って今まで収集してきたということになります。

 

 

 

1. 佐伯祐三を中心とする近代美術の作品・資料

佐伯祐三作品につきましては国内最大で約50点ほど収集しております。その他に佐伯祐三とパリで一緒に活動した作家達あるいはその周辺の作家達の作品も含めてのコレクションです。


2. 大阪と関わりのある近・現代美術の作品・資料

大阪生まれ、または大阪で活躍した近・現代の作家に注目したコレクションをつくる美術館というのが、大阪には今までなかったということもありますので、これを機会に大阪に関連するコレクションということを考えております。たとえば、吉原治良の作品を約800点、収集しています。このうちすぐに展示できる状態のものが600点弱だったと思いますけど、あとは傷んでいる作品などもありますので、それにつきましては修復をしていきます。

 

3. 近・現代美術の代表的な作品

20世紀初頭のモディリアーニをはじめとするエコール・ド・パリや未来派のボッチョーニ、シュールレアリスムのマグリット、ダリ、デ・キリコ、それから戦後美術のフランク・ステラなどの作品がここに該当します。この収集方針は非常に大雑把ではあるんですけども、美術館は30年50年と続いていくわけで、その中で収集方針があんまり厳密になると、時には収集するのは難しいことがあります。美術館の収集というのはその時の流れとか、あるいは収集するタイミングがあって、ちゃんとその作家の代表作、あるいはその時代の代表作を、その時々で最善を尽くしながら収集していくものなので、これくらいがいいかと思っています。

 

4. 生活の中の芸術作品

ウィーン工房のデザイン作家、バウハウスや現代の倉俣史朗に至るまで、約200点ほど、家具や食器とかそういうものを扱います。当時、これを決めた委員の先生に聞いたことがあります。新しい美術館を大阪に作るという時に、絵画彫刻と並んで工芸という話も出たんだそうです。しかし工芸は京都ですでにやっているし、どこの美術館にもある程度入っています。大阪の美術館ということで考えると、やはり商業であったり、産業であったりというのが大阪なわけで、それならデザインは一つの新しい切り口になるんじゃないかなということで決まったということです。最近でこそ豊田市美術館、宇都宮美術館、さらには東京国立近代美術館でも近代デザインのコレクションをつくりはじめてますけども、まだ30年前には近代デザインをやろうというところは少なかったと思います。

 

5. 図書および資料

図書も当初かなりまとめた洋書を収集しております。数百冊単位で海外の美術書のかたまりを二つくらい買ってます。その後追加は少ししかしていないのですが、20年前の時点ではかなり20世紀の美術書に関しては充実したコレクションになっていたのではないかと思っております。資料に関しましては、ここ数年、アーカイヴということが盛んに言われています。単に資料を収集するだけではなくて、それを使えるように整理して体制を整えるということです。それにつきましても数年前、具体美術協会の資料が大阪市の方にまとまって寄贈されましたので、アーカイヴという発想で専門の学芸員も入れて整理を行っているところです。

 以上が収集方針ということと、それに従ってつくってまいりましたコレクションの現状です。

 

楠本:現在、収集活動はされていますか?


菅谷:収集活動はしておりますが、購入というのはここ10年程予算がついてません。


楠本:地方の美術館で作品が購入できたのは90年代くらいまででしょうか?

 

菅谷:2000年ちょっとくらいまではあったかな。また、開館に向けて購入予算をつけていくということで、毎年度予算交渉してます。美術館というのは購入も含めて収集活動というのが大きな活動の一つです。購入でもご寄贈でもそれを”選んで”収集するというのは、やはりそこが美術館の姿勢を示すということになりますので、重要なことだということを伝えています。

また、ありがたいことにご寄贈もいただいてます。寄贈の割合で言うと、4900点のうちの1000点くらいは購入で、その他の作品がご寄贈ということになります。

 

〈美術館の棲み分け〉

 楠本:国立国際美術館は大阪にありますけれども、その名の通り、国の美術館です。コレクションの収集方針は、主に1945年以降の国内外の美術ということで、大阪の美術を重点的に収集しているわけではありません。地域を限定せず、現代美術を収集しています。もともと当館は万博記念公園にありました。70年の大阪万博で展示されたミロの陶板壁画、今は美術館の吹き抜けに常設展示している作品ですが、その1点からコレクションがスタートして、現在だいたい7800点くらい作品を収蔵しています。今年開館40周年で、ありがたいことに40年間切れ目なく収集活動を続けています。

大阪新美術館は当館と同じ中之島にできますが、現代美術をメインに収集している当館と大阪新美術館の棲み分けを菅谷さんは考えておられるのでしょうか?

 

 菅谷:棲み分けと言われると、難しい話になりまして、なかなか美術というのは時代ではっきり区切るというのは難しいのです。同じ傾向のものを扱うこともあると思います。それは、2つやる必要はないということではなくて、そのことによって双方がより活性化すると考えたほうがよいのではないでしょうか。大阪という地域は特に、人口を考えると、東京などに比べて圧倒的に芸術に触れることのできる場所が少ないので、そういう機会が増えるということは無条件に必要なことだと私は思ってます。そこを無理やりに棲み分けなどを限定して窮屈な活動をするよりは、相乗効果というのを考えたほうがいいのではないかと思います。

 

楠本:そうですね。先ほど、国際美術館は現代美術館と申し上げましたが、現在、企画展示室では「バベルの塔」展という16世紀ネーデルラント絵画の展覧会を開催中です。昨年は「兵馬俑」展も開催しました。現実的な問題として、東京で開催される大規模な展覧会を見せる場が関西には少ないんですね。それで、大阪で見ていただくなら当館が適当な空間だろうということになって、そういう展覧会も受け入れていると聞いています。おそらく大阪新美術館ができてからは、国内外の近代美術を見ていただく機会も増えるでしょうし、大阪にも色々な美術に触れる場があるということが、多くの方がたに認知されていけばいいなと思います。


〈収蔵庫の話〉

楠本:国立国際美術館は現代美術を収蔵していますので、たとえば、ゴミや漂流物を拾い集めて作品をつくられる淀川テクニックという作家さんの作品を収蔵しています。作品はもちろん、汚れなどを取り除いてから、収蔵庫で保管しています。他にも映像やメディアアートなど、現代美術は技法や材質が非常に多様になっていて、従来作品としては扱われなかったようなものが作品になっていることもあります。大阪新美術館では今後、そういった取り扱いが難しい作品も収蔵されていくのではないかと思います。

 

菅谷:そうですね。素材の多様性は、現代美術ももちろんですけど古い作品でも、当時だったら残らなかったものを使っていることもあります。そういう作品も残していかなきゃいけないので、保存には気を使っています。今度の美術館では、収蔵庫の中にもう一つ低湿度の収蔵庫を作りました。戦前から戦後にかけての16mmフィルムとか、8mmフィルムがうちにあるんです。今フィルムは非常に劣化が問題になっていますので、フィルムを保管するための低湿の収蔵庫を作る予定でいます。しかし、これにも議論があって、温度を2度くらいにして、湿度も20%近くまで低くしたら、現状の素材で100年ほど持つだろうと聞いています。しかしそこまでやると、外に持ち出した途端、結露して却って劣化が進んでしまう。そこまではしないで、30年しかもたないものを80年はもたせたいということで、低湿度収蔵庫をつくろうと思っています。今あるものを目の前で失っていくのをただ見てるっていうわけにはいかないので、そういう素材にも対応をしていこうと思います。

 


〈パブリックスペースへのコレクション〉

楠本:パブリックスペースに作品を置くことは考えられていますか?


菅谷:はい。すでに収集した作品でも、大きなものとか、コレクションの部屋で中々展示する機会の少ないものは、館内の無料スペースを含めて展示しようと思っています。

 

楠本:最近日本で開館した美術館、たとえば、金沢21世紀美術館、青森県の十和田市現代美術館では、建物を造るときにその建物に合わせて作品を常設する、いわゆるコミッションワークと呼ばれる作品が設置されています。コミッションワークについて考えられることはありますか?


 菅谷:考えてはいます。私個人の考えですが、新しい美術館の建物ができるという時には、そこに何らかの刻印というか、その時代の作品が切り離しがたくあったらいいなと思っています。

1点でも2点でも建築と一体化したものがあって、これは21世紀の初頭に建てられた美術館なんだなっていうことがわかるような。その時代の作品と建築が一緒にあるということが美術館にとってはいいのかなと。まぁこれは考え方が違う人がいるので、なんとも言えないんだけども、私はそう思っています。


楠本:当館では高松次郎先生に《影》という作品を開館当初に制作していただいていて、それは今でも館のシンボルになっているので、そういった作品が美術館の空間にいくつか常設されているのはすごくいいことだなと思います。


 〈美術館と同時代作家〉

楠本:今回のタイトル『美術館のコレクションから考える、関西の同時代作家とは』に関連して、菅谷さんにおたずねします。美術館で働いていると、美術館で同時代の作家や作品と関わる難しさを感じることがあります。作家というのはやはり作品を発表することで、その作品の価値を、同時代の世の中に問うている部分があると思うんですね。一方で、美術館の使命として、すでに価値付けられたものを展示したり、後世に残すために収集したりしていかなくてはなりません。同時代の作家や作品と美術館は、どんな風に関わっていけるのでしょうか。

 

菅谷:同時代の作家というのはやはり、美術館にとっては重要なことだと思ってます。コレクションを作っていく中で同時代の作家たちの作品を収集していくっていうのは冒険といえば冒険なんだけども、やはり美術館が時代とともに生きていくという証明としては、同時代の作家あるいは同時代の美術というものを取り上げざるをえない。うちが元近代美術館だから近代のものだけをやっていたらいいんじゃないっていう人もいるけども、それはやっぱりもう少し広く近代というものを考えて、いわゆる現代のところまで持っていきたいと思っています。そうすることによって、見る人との関係ももっと近しくなるんじゃないかと思ってます。

 

〈美術館との関わり方〉

楠本:大阪で団体展は主に大阪市立美術館で開催されていますよね。団体展とは異なるやり方で、地元の作家さんや美術愛好家の方がたと美術館が交流できるような場というのは考えておられますか?

 

菅谷:新しい美術館で考えているのは、美術館の在り方としては、美術に近づく、美術にアプローチする仕方は色々あって、つまり展覧会を見るっていうのも一つだろうし、資料を調べるというのも一つだろうし、ワークショップに参加するのも一つだし、美術館にアプローチする道筋をたくさん持つこと。ある意味では美術をテーマにしたプラットホーム的な場所というのがあるべきで、新美術館ではできればそういう機能を持ちたいと思っています。そのためには見るとか作るとか調べるとか体験するとかいろんな手段があります。つまり、例えば今日集まっていただいた皆さんのような方達が単に作品を見るというだけではなく、美術に親しむ方法をもう少し模索したいと思ってます。こう言う形でお話しするのも一つの形でしょうし、何かのきっかけにパーティーをやるっていうのもいいでしょうし、一緒にご飯食べるのもいいだろうし、そういう手法は考えたいなと思っています。

 

 

【まとめ】事務局より

美術館のコレクションに関するお話は、それぞれの館の特色を理解する上で大変勉強になりました。美術館という場所が今後、同時代作家や美術の愛好家たちとどのように関わっていくべきか。美術館はただ作品を鑑賞する場所ではなく、美術のプラットホームとなるような場所になる必要があるという菅谷さんのお話が印象に残っています。より多くの人が美術館に親しみを持てるよう、大阪新美術館が設立に向けてどのような取り組みをされていくのか大変興味深いです。

(記録・鈴木)