美術館にアートを贈る会

アートが大好きな私たちは、
市民と美術館の新しい関係の構築をめざしています。

滋賀県立近代美術館訪問の記録(3/29)

2009-05-07 18:20:51 | Weblog
事務局の松本さんが先日の美術館訪問の報告をまとめてくださったので掲載いたします。

2009.3.29滋賀県立近代美術館訪問の記録
平田健生氏:教育普及担当学芸員で、展覧会解説サポーターの指導にあたっておられる。

●今日の展覧会企画の実際
90年代には多くの美術館で、現代アートを「体感」させることを目的とした、様々に趣向をこらした展覧会が開かれてきました。印象に残っているのは倉敷市美術館の、平均台の上を歩きながら観る展示や、暗い通路の中を通っていくといつの間にか自分が展示ケースの中におり、作品と鑑賞者の位置関係を反転させるものなどですね。しかしこういった奇抜な展示方法では、ランニングコストの問題だけでなく、ほんとうに美術の理解に役立つのかという疑問が残ります。
現在では、美術館の三大機能である「収集」「展示」「教育」すべてを完璧に行うのは難しいため、どれかに特化する必要が出てきています。さらに、展示方法や客層などで棲み分けも必要になってきています。
例えばコレクションを持たない国立新美術館や水戸芸術創造館のようなタイプが現れました。また金沢21世紀美術館は、美術館をテーマパーク化しています。これはランニングコストがかかるため、特化してやって行く覚悟が必要なやり方だと思います。
当館では収蔵品をいかに見せるかという視点で展覧会企画に取り組んでいます。今回の「はじめての美術館」は、展示の奇抜さではなく作品を「よむ」楽しさを伝える方向にシフトしました。作品の横にわかりやすい解説を付けたり、様々な資料を配布したりなどして、テクストに重点をおいた展覧会といえるでしょう。作品を「よむ」力を身につけることができれば、違う作品を観ても自分自身でおもしろさを引き出すことができるようになると考えています。
 関西圏や中京圏には美術史出身の学芸員が多く、東京には実技を経験した学芸員が多い。日本では美術は「感じる」ものという考え方が強く、読み解くことを重視した展覧会というのは理解されにくいと感じます。しかし、感性にたよる鑑賞の仕方ではかえって美術に馴染みのない層に敬遠されがちになるのでは、と考えています。知性でみる見方を提案することで、馴染みのない人でも「感性を持っている自信はないが、読み解く経験ができて面白かった」というように感じてもらえるのではないでしょうか。

● これからの美術館広報
当館のターゲットは大きく三つに分けられ、広報の仕方も異なっています。
一つ目は、遠方から一期一会的に来て下さる方。常設展示や、他では見られない展示を目的に来られます。京都に旅行に来られた方に滋賀にも立ち寄っていただこうということで、京都の宿泊施設にポスターを貼るなどして、年齢が高めの層にアプローチしています。
二つ目は、京阪神在住で企画展を目的に来て下さる方。比較的若い方が多いです。繰り返し広報し、美術館自体のイメージを持っていただくことが重要と考えており、FMのコマーシャル等を利用して広報しています。
三つ目は、滋賀県の子どもたちです。美術作品を見て「おもしろかった」と感じる経験を、子どものうちから持ってもらいたいと考えています。ただ、当館と距離的に近く気軽に来ていただけるような学校は限られています。また社会科見学では、「美術」の分野に特化した施設を訪れることは難しいようです。そのためこちらが出張授業をしに行ったり、「アートゲーム」の開発に取り組んだりと、美術館にわざわざ足を運ばなくても鑑賞教育が完結するための可能性を模索しています。

美術館には都市型と郊外型の2種類がありますが、現在郊外型美術館はどこも苦戦を強いられています。そして、ある特定の層に対して効果的にアプローチするマネジメント力のある美術館というのはまだまだ少ないのが実情でしょう。今後は予算の再検討もさることながら、展覧会単体だけではなく美術館自体としてのPRをしていかなければならない時代だと思います。