美術館にアートを贈る会

アートが大好きな私たちは、
市民と美術館の新しい関係の構築をめざしています。

総会・パネルディスカッション報告(2012.9.18)

2012-10-28 16:28:05 | Weblog
美術館にアートを贈る会 総会・パネルディスカッションご報告

日時:2012年9月18日(火)
   総会18:30- 
   パネルディスカッション19:00-
   懇親会20:00-
場所:アートコートギャラリー
参加者:30名

1) 総会
ゲスト 今村源さん(美術家)



*美術館にアートを贈る会の主旨説明を事務局寺谷より報告。

 「美術館にアートを贈る会」は2004年10月に発足。以来、美術を創る人々と美術の展示の場を運営する人々の創造的な関係を、見る人の立場から考えるため非営利団体として活動してきた。これまで3つの寄贈プロジェクトが完了し、2012年5月より第四弾寄贈プロジェクトがスタートしている。
 
*第四弾寄贈プロジェクトについて

 作家今村源さんによるアワの新作を伊丹市立美術館に寄贈するプロジェクト。2006年に伊丹市立美術館にて開催された「今村源展・連菌術」での出品作品の中で関心の高かった「アワ」の作品を今村源さんに新たに制作していただくことになった。当会では初めてのコミッションワークになる。

 <今村源さんによる作品紹介>
 自分の作品キーワードは「共生」「寄生」。2006年には連菌術というタイトルで、きのこや地下の菌糸の広がりのように美術館全体を覆い尽くすようにアワという作品を増殖させていった。思い入れのある作品なので、会の方からこの作品はどうですか?と言われたときに、既存の作品よりも新たに作って置いてもらえるのなら嬉しいし光栄だと思った。
 展示場所について。単体でというより広がりや、からまりのイメージを残しながら展示できる場所を探した。地下へ下りていく階段があり、さらに所蔵庫へ下りていく階段の上が少し空いている。ここに飾れる作品をと考えている。この位置は、外から地下への入り口だし、全体に関係しているような位置。地下に入っていきながら右横に現れ、場所的にも面白いと思って、ここに作品が置けるのならやってみようと思った。
 サイズと素材について。アワの直径は1m、長さが3m前後になる。階段は6m程度あるので、階段の角にぴたっとはまって、階段からは手が届くか届かないかの距離。所蔵を考え、どれだけコンパクトにたためるかも考え中。シダの部分はアルミの板でできていて、丸くなったところはステンレスで、軸はFRP(樹脂)の予定。
 まだつくっている段階で、完成予定は11月末から12月初めに、と思っている。

*第四弾寄贈プロジェクトの今後の予定について

関連イベント
■10月20日。今村源さんのスタジオ訪問。
 京都の南丹市にある制作現場の見学。サポート会員限定。
■2013年1月~3月(予定)
 伊丹市立美術館で作品展示の予定。作品を実際に見ることのできる機会や、このプロジェクトを知ってもらう機会でもあり、今村さんの協力を得て作品鑑賞会を企画したい。


2)パネルディスカッション

二つの寄贈プロジェクト:東京と関西

パネリスト
関昭郎 様(特定非営利活動法人オープン・ミュージアム・プロジェクト代表理事)
 
河凬晃一 様(前 兵庫県立美術館 企画・学芸部門マネージャー)
佐野吉彦(当会理事長)
進行:岡山拓(アートライター)
(以下、敬称略)


(岡山)
東京で行われているOpen Museum Project(以下、OMPと略)と関西で行われている美術館にアートを贈る会(以下、贈る会と略)を比べることによって、市民と美術館の考えてみたいと企画した。

<Open Museum Projectについて>
(関)
 東京都現代美術館に石塚隆則さんの作品を寄贈した第一回の寄贈プロジェクトのプレスリリースを読ませていただく。
http://www.openmuseum.net/#project
 私は美術館の学芸員を20年少しやっているが、そのなかでいくつか変えていかなければならないと考えていた。
まず、第一に必要なことが美術館を社会的な存在にすることだ。美術館の仕事をしていると、さまざまな人に会う機会がある。アーティストもいるし、コレクターもいる。観客として見に来られる人もいる。いろんな立場の人に会う。美術館活動に大きな期待をかけているわりには、こうした人たちの声はなかなか表に出てこない。このことをやや残念に思っていた。美術館の学芸員とアーティスト、あるいは美術館とコレクターなどの関係が展覧会を実現させるためだけでなく、永続的なものとして美術館活動自体をつくっていきたいという思いがあった。
 コレクターでなくとも、美術館に足を運ぶ人たちに、一方的なサービスの享受=お金をいただいて展覧会を見ていただくという、展覧会をやっている美術館だけではない、もっと人々が積極的に参加できる場をつくるというのが学芸員の今の役目ではないかと考えている。
 最後に学芸員としての方向性だが、これまでの美術の範疇を広げて、現代性と我々自身が考えていることの接点を提供する、そのような形で展覧会をつくっていきたいというのが個人的な想いがあった。

<OMPはプロダクトによってお金を集める>
(関)
 OMPは、これはメンバーであるウエダジュエリーの植田さんとジラフの遠山さんらのものづくりを活かし、誰もが意思表示できるようなオープンなシステムとして、ミュージアム・グッズを制作、販売することからスタートした。製作者側で5%、ショップ側で5%、合計10%で運営していく方法をとった。
 ウエダジュエラーと須田悦弘さんとのコラボレーションによる「金の雑草」は36万7500円。最初の3個はすぐに売れた。遠山さんは新たに立ち上げた、リサイクルショップPASS THE BATONへの出展者の方々が展開する社会貢献活動のひとつに、アート支援活動としてOMPが組み入れてくれた。
 目標は毎年100万円を稼ぐということだった。時間はかかったが、なんとかまずは石塚隆則さんの「夫婦岩」を寄贈することができた。定期的に寄付を受けられるようになってもきたので、毎年寄贈プロジェクトを続けることができる状態になっている。
 現在の支援も間接的にオープンなものだが、設立時の誰でも参加できるプログラムは引き続き考えていきたい。
 個人的な夢は、海外の美術館に行くと入り口にドネーションの箱が置いてあるように、それぞれの美術館にOMPの寄付金箱が置かれること。そこでのわれわれの仕事は、1円でも100円でも払ったものがこういう形になったという実感のある話題づくりではないかと思う。

<OMPと贈る会の違い>
(佐野)
 お金の集め方が違う。OMPはもっと高度なシステムがつくられているように感じた。贈る会の場合はシンプルで、誰でも一口5000円出せば、その作品の一部になれる。
 贈る会が成功したのは、5000円出したからと言って作家に何ら権利を主張せずに、その作品を贈るプロセスを買ったという感じ。その結果、その作品が美術館の中で幸せに生きていく。その途中段階を楽しめる。
 いろんなパターンをこれまで試してきたので、OMPさんのシステムも試してみたいなと思った。

(関)
 スタート自体は近いところがある。自分たちの活動に関わった作品が美術館に展示されることで美術館の見え方が変わってくる。そこはまったく同じだと思った。



<贈る会では美術館と早い段階で関わりをもっている>
(佐野)
 最初は藤本由紀夫さんの作品を西宮市大谷記念美術館に贈ることから始めた。藤本さんと大谷との関係がすでにあって、その物語に乗せて始まったという感じ。こんな幸せなパターンはあるかと思ったが、和歌山県立近代美術館へ栗田宏一さんの作品、滋賀県立近代美術館へ伊庭靖子さんの作品、今回は伊丹市立美術館に今村源さんの作品と続いている。それぞれ学芸員との関係をうまくつくりながら、あまりあせらず進めてきたという感じ。
 私は美術業界の人間ではないので、門外漢なので気楽にもの申せた。我々の思う美術館のイメージ、作家のイメージというものが、うまくいくのか自由に構築しながらやってみながらマーケティングしていったらうまくいった。手探りでやってみたら結果的にうまくいった。論理的に進めず、あまりせちがらい対立がないところをうまく進めていった結果ではないか。

<美術館を支える成熟した人たちの登場>
(岡山)
 美術館に作品購入予算がないのをサポートしたような形になっているか?

(佐野)
 結果的に助けた感じになったが、悲惨な物語からアーティストを救うという感じではない。うまくピッチャーとキャッチャーがいてキャッチャーがサインを送ってくれたおかげでピッチャーが玉を投げた。誰がピッチャーかどうかわからないが。うまく玉が動いて、プロセスがうまく成立した。

(河凬)
 予算がなかなかとれない時代になっているからというのではなく、予算に関係なく必然的に生まれてきている動き。美術館を取り巻く人たちが決して全部とは言わないが、非常に成熟して美術館を支える人が生まれてきた証拠である。東京と大阪でというのが象徴的。

 中くらいの規模の美術館とコミュニケーションをとりながら、また美術館も作家を応援している、認めている中で作品が選ばれていくのは、見る側と作る側もいい関係性ができている。

(岡山)
 美術館を開く=Open Museum Projectという名前は象徴的。かつて美術館は企画展を見に行くという場所、そこからギャラリートークを聞きにいくとか、ボランティアとして関わっていくことが生まれてきて、そのひとつに寄贈という形にたどりつけていけばいい。

<参加することによる意識の変化>
(岡山)
 お金を出して参加した人が美術館への考え方が変わったというようなことは聞いているか?

(佐野)
 いろんな人がいろんなふうに思っていい。私自身は、美術と美術館とアーティストはそうなっているんだ。あるいはこういうふうにお金が動いているんだとお金の流れがわかって自分自身勉強になることが多い。
 和歌山や滋賀に寄贈したときは、自分たちの美術館として地元の人たちが愛していて、自分たちの美術館のための活動として非常に共鳴していただいた。地域とアートと美術館の関係が親密になってきた。ひとつのプロジェクトをするたびにいろんなことを学んでいく。地理的に近い美術館でやると結果を見届けに行きやすい。
 また10年20年たって行ってみると、関わったアートがまだ元気にしているのを見ることもできる。人とともに美術や美術館との関係が変わっていくのが面白い。

(河凬)
 美術館に寄贈するとすべてパブリックなものになる。パブリックなものの寄贈に関わったことは、自分の手を離れて所管する美術館に責任がある、というようになる。


<現代美術の寄贈にこだわる訳>
(岡山)
 この二つのプロジェクトはいま進行形の現代作家と関わっているのが面白いと思う。そこに関わる意義は?

(関)
 まだ、スタートしたばかりで本来的な意義はまだ見えてはこない。ただ美術館というのは蓄積しているところだと思う。単体の美術館でなく、総体としてひとつの流れになっていけばよいと思う。継続性とそこから見えてくるもの、ひとつでは見えなくてもだんだん見えてくるのではないか。

(河凬)
 現代美術だからできる。昔の人の絵を寄贈しましょう、ということではできない。作家と寄付する人と美術館とがコミュニケーションがとれる。それがあって成立する、それが現代美術のもっている醍醐味。私はこの作品にお金を出したい、その意味を作家にたしかめることができる。
 それによって納得するし、その作家のつくっているもの以外も理解できるようになる。話もできるし、アトリエもいける。ただ寄贈して見に行くだけでない、こういう方法で美術や美術館と関わることができる。

(佐野)
 個人的には現代音楽が好き。社会的にまだ評価が定まっていないのが面白い。現代音楽をサポートする活動もしている。音楽であればベートーベンだったり、絵だったらルノワールだったりするとすでに語られ尽くされている。それではあまり面白くない。新しいいま生きている作家がいま向き合っている時代の中でつくっている。
 この活動の面白さを引き継いでいかねばいけない。少なくとも第十弾ぐらいまではいかないといけない。これから枝葉が広がっていろんな場所でこういう活動をやる人があらわれてくればいい。


<主旨に賛同するのか、作家に賛同するのか>
(河凬)
 あの作家はあまり好きではないからやめておくというのもあり?


(田中恒子)
 今回はパスというのはあると思う。これまでの三つのプロジェクトには積極的に関わってきた。友人、知人に「今度は美術館にアートを贈る会でこんな作品を贈るのよ。5000円安いでしょ。作品いいよ」それをどう納得してもらうか。お金を出してもらうときに作品のよさをすごく言う。作品がいいから5000円出してくれるのだと思う。

(佐野)
 皆さんが目で確かめ目で納得した上で贈ることにしている。また作家とできるだけ話す機会はつくるようにしている。
 作家と会うことは必ずしも必要ではないと思うが、作品には会う必要はあると思っている。

3)懇親会


 副理事長の田中恒子さんの乾杯の音頭で和やかな懇親会が始まった。第四弾寄贈プロジェクトの作品が今村さんのアワということで、シャンパン製法のスパークリングワインと個性的な日本酒が用意され、にこやかに意見交換が行われた。ゆっくりとではあるが確実に活動が広がりつつあるのを実感した。
(記録:奥村恵美子)