美術館にアートを贈る会

アートが大好きな私たちは、
市民と美術館の新しい関係の構築をめざしています。

第1回トークディスカッション(7/1) 講演要旨

2017-07-27 11:36:09 | Weblog

市民が支える美術館 日本とアメリカ

日時:2017.7.1(土)13:30~15:30 
会場:ナレッジキャピタル ナレッジサロンにて

ゲスト:蓑 豊氏(兵庫県立美術館 館長)
ナビゲーター:おか けんた氏(芸人/アートプランナー)

 

<子供たちに見てもらいたい>


私はアメリカ・カナダに30年近くいて、ずっと美術関係の仕事をしてきました。美術館が町に与える影響というのは大きいと思っています。金沢で新しい美術館の館長を引き受けたときにまず考えたのは、親子で来たくなる美術館にしたいということでした。私は、孫の代のことを考え、10年20年先、この美術館はどうなってほしいかを考えます。結果的に、金沢21世紀美術館ができて10年後にあたる昨年(2016年)の全国中学・高校の学力テストで、石川県がトップになりました。もちろん美術館だけが要因ではありませんが、子供たちがあの美術館に何度も来る、友達を連れてくる、プライドをもって自分の美術館にする、それらが勉強にもすごく影響していると思います。いずれその成果を証明して「美術館って大事なものだ」とわかれば、全国にこの意識が広がるといいと思っています。

おか
まったく吉本も同じですね。吉本新喜劇というのがありまして、これは土曜日の昼間の1時につねに放送しています。これはなぜ1時にしているのかと言いますと、それは子供たちがそれをめがけて帰ってくるよう、この時間帯に設定しています。この時間帯を固定させて次から次へと新しい役者をつぎ込んでいます。

3年前から京都国際映画祭というのをやっています。私はアートプランナーとして、いろんなアートの展示をサポートしています。たとえば、京都市役所前の広場ではヤノベケンジさん、明和電機さん、二年目はテオ・ヤンセンの作品も展示しました。こういうことをするのはなぜかと言いますと、子供たちに未来を見てほしいからです。

 

<クレマンソーコレクションの発見から>


私がハーバード大学で博士号と取得してから、私に最初に声がかかったのは、1976年(昭和51年)カナダのモントリオール美術館でした。そこで倉庫にたくさんの箱が積んであるのを見つけました。全部の箱に「KOJO」と書いてあります。誰も開けたことがないようです。「何だろう?」そう思って開けてみると、日本の陶磁器の香合が全部で4000点近く入っていました。裏にシールが貼ってあり、よく見ますと、クレマンソー(Clemenceau)と書かれています。ボストン美術館の館長がモントリオール美術館に来たときに見せたらびっくり。「これはあのフランスの首相だったジョルジュ・クレマンソー(Georges Benjamin Clemenceau 1841~1929)のコレクションだよ!」この香合のコレクションは調べてみると寄贈ということがわかり、寄贈してくださった人に連絡して「展覧会をしたい、カタログも作りたい、5000万円あればできる」と率直にお願いしてみましたら、その費用を出してくれたんです。全部偶然。運はラッキーもあるかもしれませんが、運という字には車が入っているように自分で運んで来ないと運はやってきません。

 

<インディアナポリスで>


これ、インディアナポリス時代の私。40歳ぐらいかな。

 

インディアナポリスは先日、日本人が初めて優勝したインディ500が開催される都市です。ここには、イーライリリーという会社があります。世界で四番目に大きな製薬会社で、インスリンを最初に製剤として実用化した会社です。そのイーライリリーの孫、ジョシュア・リリーが住んでいた土地が150エーカーあり、その中に美術館もあり年間住んでいました。

ここではいい展覧会を二つしました。それまでなかった展覧会で世界で注目されました。

いい仕事をしていれば田舎でも良い展覧会をすると見ている人は見てくれています。必ず一人は見てくれています。

 

おか
そうですね。僕もアートフェア東京で、ギャラリートークをしているときに、建畠さんが見てくれていて、それがきっかけで草間彌生展のギャラリートークの依頼が来ました。全力で何事にも向かうことが大事ですね。

 

<シカゴで東大寺展>


 


これは1986年(昭和62年)シカゴ美術館での東大寺展です。21万人が来ました。日本とアメリカの企業がこれだけ協賛してくれました。3億円以上になりました。

日本では秘仏ですから、年に一度12月16日しか見せないものを3ヶ月見せっぱなし。本当は見せてはいけない背面も見せました。実は後ろの方が色が残っているからです。

輸送だけでも大変でした。もし飛行機が落ちたらどうするんだと言われ、飛行機8機に分けて運びました。お金はすごくかかりましたが、どうしてもやりたかったのです。

展示期間中は毎朝10分間祈祷。すると大行列ができました。病気で治してほしい人がいっぱい来たのです。

 

<企業による支えも>


兵庫県立美術館ができたのは2002年です。今年で15年になります。そこで15周年に何かをしようと安藤忠雄さんと相談して、今が旬の人たちを呼んで講演会をすることになったのがこれです。

企画の段階では、すでに平成29年度の県の予算は決まっていたので県の予算はゼロ。お金を集めるために、神戸新聞と組んで1面広告記事を出しました。これらの協賛企業さんにお金を出してもらいました。このように県のお金に頼らなくてもちゃんと結果を出せば、企業は喜んでお金を出してくれます。努力して地道にやり続けることです。いい仕事をしていたら必ず見ている人がいます。

おか
兵庫県立美術館は、県立なので税金のみで成り立っているのかと思ったら、企業がお金を出してくれているんですね。

 


そうです。1981年(昭和56年)に、伊藤ハムの創業者が兵庫の美術館に貢献したいということで伊藤文化財団というのを作られました。それは何が目的かというと、兵庫県立美術館に作品を寄贈すること。それだけです。創業者のご出身は三重県ですが、兵庫に来て大企業になったので何とかして兵庫県立美術館に貢献したいということで作ったのです。兵庫県ゆかりの作家の作品を購入し、兵庫県立美術館に寄贈します。30年間余りの間に多額の寄付で寄贈に貢献していただいているのですが、それを知っている人はわずかで、私はそれにショックを受けました。感謝の意が具体的に示されていないのです。これはおかしいと思いプレートを作りました。

毎月第2日曜日にコレクション展を無料鑑賞できる「県美プレミアム」も、伊藤文化財団がなければできません。常設展はすべて伊藤文化財団におんぶにだっこです。こういうことをもっと皆さんに理解してほしいと思います。

 

<美かえる、再登場>


これは「美かえる」(みかえる)。5月に再登場しました。以前、カエルを屋根に載せるときは気持ちが悪いからやめてくれと言われたのですが、今やカエルがいないと皆さん寂しがります。いないと電話がかかってきたりします。設置してから5年経って、8メートルあったカエルが3メートルまで縮んでしまい、見るに見かねて作り直したいと思いました。しかし税金では大変なことになる、どうしようと思っていたら、たまたまロックフィールドの社長に会ったとき「カエルがだめになったからもう一度作りたい。作ってもらえませんか?」すぐにオーケー。綺麗なカエルになりました。みな喜んでくれました。

この美術館は屋根が平らなので、遠くから見ると美術館のイメージがつかみにくい、だから何か載せたくなりカエルになりました。安藤さんに相談したときは怒られるかと思ったら喜んでくれました。

 

 

「みの会議」というのもやっています。30代の若い人たちに美術館に来てほしいということで、成功している企業の方を呼んで勉強会をしています。8月4日は、新保哲也さんのお話を聞きます。建築家、コレクター、ワッフルで有名なケーキ屋さんでもあります。

 

兵庫県立美術館の前は運河なので是非ボートレースをしてほしいと思っていました。そこで、神戸レガッタを10月15日にやります。ヤノベケンジさんのモニュメントが出発点です。ぜひきてください。

 

 

<コレクションの意義>

 

 


美術館の収入内訳です。ニューヨーク近代美術館では自治体から一銭ももらっていないことがわかります。グッゲンハイム美術館ではグッゲンハイムという人が基金をつくっています。いまアメリカの美術館は大変で、巨大な展覧会はやっていませんが、彼らは100年の歴史で集めたコレクションがあります。自分たちのコレクションだけですごい展覧会ができます。だからコレクションが一番大事なんです。

兵庫県立美術館には、山村コレクションがあります。これは山村硝子の創業者の息子さんが集めた作品130点以上あります。山村硝子は、日本で初めて色のついた硝子をつくった会社です。このコレクションは、公共の美術館に並べることを考えて集めておられたので大きいものも多い。だからそのご家族は作品を見たことがありません。そこで、ご自分が亡くなることがわかったときに、それらの作品を家族に見せたいということで1986年(昭和62年)に国立国際美術館(当時は万国博美術館を活用し万博公園にあった)で休館の月曜日1日だけ館長に頼んで展示してもらったことがあります。彼はもっと集めたかったのですが、ベートーベンの第九ではありませんが未完成。そのあと1987年(昭和63 年)に兵庫県立近代美術館が県の予算でほぼ全部購入しました。その全作品の展覧会を、2019年9月に兵庫県立美術館で開催予定です。是非皆さん来てください。

 

【まとめ】 事務局より

◎どこにいても良い仕事をすると誰かが見てくれていて、それによって広がっていくというお話に、おかさんもアートフェア東京のギャラリートークをされているときに見られた美術関係者からアート界への広がりがあったとおっしゃっていました。 
 大阪市立美術館でのフェルメール展での開催費用10億円の調達方法やかけた宣伝費の大きさを聞き、どうしてもやるんだという気迫と気力が動かすものがあると感じました。
 また日本とアメリカでは、美術館の財源の違いはあるものの、コレクションの大事さ、市民が支える美術館の意味を考えるきっかけをいただきました。
 蓑館長の長年の体験をもとにした元気をいただくお話とおかさんの軽妙な展開であっという間の2時間でした。

 

プロフィール

■ゲスト:蓑 豊氏(兵庫県立美術館 館長)

1941年     金沢市生まれ。
1965年     慶應義塾大学文学部卒業。
1969年~71年 カナダ・ロイヤルオンタリオ博物館(トロント市)東洋部学芸員。
1976年     ハーバード大学大学院美術史学部博士課程修了、翌年同大学文学博士号取得。
1976年~77年 カナダ・モントリオール美術館東洋部長。
1977~84年   アメリカ・インディアナポリス美術館東洋部長。
1985年~    シカゴ美術館に勤務し、中国・日本美術部長、東洋部長(94年まで)。
1995年     帰国後は大阪市立美術館長、全国美術館会議会長などを歴任。
2004年4月  「金沢21世紀美術館」館長に就任。同時に金沢市文化顧問を務め、
        05年4月より金沢市助役も務める。
2007年4月  「金沢21世紀美術館」特任館長、大阪市立美術館名誉館長となる。
2007年     サザビーズ北米本社副会長就任。
2010年4月  兵庫県立美術館館長に就任。 

ナビゲーター:おか けんた氏(芸人/アートプランナー)

1961年大阪生まれ、NSC1期生。ドナルドダックの声のモノマネ(自分の頬や唇を掴んで揺らしながら発声する)、『ええ声ぇ~♪』と言って美声を響かせるギャグなどを持つ。
現代美術作品の収集を趣味としており、国内のギャラリーに足しげく通い、近年アートプランナーとして数々のアートプロジェクトに携わり、エヴァンジェリストとしてアートの普及に務めている。