映画『ウオルト・ディズニーの約束』の中に、「ケルト」という言葉が出てきました。
『メリー・ポピンズ』の作者トラヴァース夫人についてインターネットで調べてみると、
3人姉妹の長女として、オーストラリアのクイーンズランド州に生まれ、父はロンドン生まれ、母はスコットランド系の血をひく、とあります。作家になってからイギリスに移住しています。
『赤毛のアン』の作者モンゴメリさんはスコットランド系。登場人物のアン、マシュー、マリラ、ダイアナもみんなスコットランド系、ケルト族です。
大好きな場面の一つ、第37章でアンは「小さなスコッチローズを挿し木したんです。マシューのお母さんが、遠い昔、スコットランドから持ってきた薔薇で、マシューは、いつだって、この花がいちばん好きでした」とアラン牧師夫人に語ります。(松本侑子著『赤毛のアンへの旅_秘められた愛と謎』NHK出版より引用しました。)
抜粋はわかりづらくなってしまいますが、書きたくなったので以下に記載してみます。
「フェアリーランド」という言葉の響きから一般に人々が思い描く映像は、この世とは空間的に遠く隔たった所にある幻のように美しく楽しい国、木々は実り花は咲き鳥は唄い、老いも悲しみも争いもなく、妖精の戯れ遊ぶ楽土というような童話のお伽の国の情景ではなかろうか。
長いこと悪魔と同一視され、邪悪な存在として恐ろしがられていた妖精たち超自然界の生きものに、文学の上で美しい容姿と親しみやすい性質を与え、土俗の暗い闇の中から明るい民衆の舞台と平土間(ひらどま)の中に連れ出して、今日見るような映像に定着させたのは、イギリスにおいてはシェイクスピアであった。
しかし妖精の棲み家であり、この世とは別の地上楽園という人々の願望空間とが重なったイギリスのフェアリーランドは、一口に空想裡に創りあげられた、縹渺(ひょうびょう)とした単なる幻想といった言葉では片付けられるものではない。ましてユートピアとして、どこか曖昧な空間に想定された、現世とは倒置関係にある理想郷といったものでもない。その淵源を遡ってみていくと、ケルト民族特有の他郷思想に突き当たる。」
(井村君江著『ケルト妖精学』1996年発行 講談社学術文庫 17頁より引用しました。)
「ケルトの人々の考えでは、人間・自然・生物等、森羅万象に生命と活動を与える遍在的な霊の存在があると信じ、その霊が不滅であり永遠に活動を続けるとしたのである。従って霊魂不滅といっても個人の霊魂は意味せず、エヴァンズ・ウェンツの言うように、個別を超越した大霊の不滅を信じているのである。さらに彼の仮説によれば、各個人の無意識の世界というものと対蹠的なところに想定された究極の単位の状態にある霊魂の集合体の存在があるはずだとし、これをケルトの人々の考える万物再生の思想の源であるとしている。
自然や人間を共通に貫いて、眼に見えぬ大霊が存在するとすれば、人間の生活のすべては不可視の力によって支配されていることになろう。そしてこの大霊は、永劫に巡り動き生命を転生させていくのである。従って現世は単なる唯物的世界ではなく、永劫無窮の霊の顕現する世界となり、ギリシャの地理・歴史学者ストラボが「古代のケルト人は現世を永遠なるものと信じた」と言っている言葉は頷けよう。こうした考えによれば、「この世は暫時の滅ぶべき世界」で「異界は永遠の不死の国」とする区別は必要なく、いずれも大霊の顕現した一つ一つの相に他ならず、そこには可視か不可視かの区別があるだけとなる。いみじくもウェンツは「アイルランドには二つの種族があるーひとつはわれわれがケルト族と呼ぶ<目に見える種族>と、もう一つは妖精と呼ぶ<目に見えない種族>である」と言い、今日でもこの二つの種族は互いに往き来していると言っている。この目に見えない種族は、古代のトゥアハ・デ・ダナーンであり、数々の祖霊であり、土の神や豊作の神であり、プーカやパンジー、レプラホーンやクルラホーンなどさまざまな姿のフェアリーたちであり、それらが現在生きている人々の生活や行動に、深い関わりを持っているのである。こうした考えから言えば、神話の神々、伝説の英雄たち、民間伝承の妖精たち、すぐれた祖先の霊たちの憩いの国である異界、常若の国(テイル・ナ・ノグ)は、この現世と同次元に、この世と隣接し直結して存在していても、なんら不思議はないのである。
こうしたケルトの異界をその根源から辿ってみると、常若の国(テイル・ナ・ノグ)や妖精の丘(フェアリー・ヒル)の考え方、ひいてはそこからさまざまに現われてきている異界観、フェアリーランドの考え方は、単に絵空事の空想の産物といったものではなく、民族の血の中に太古から流れている生命観、死生観、自然観に根ざしたものであり、そこからケルト特有の想像力によって創りあげられた楽園であることがわかってこよう。」
(井村君江著『ケルト妖精学』1996年発行 講談社学術文庫 42-43頁より引用しました。)
写真は、グリーン・ゲイブルズのマシューの部屋です。
『メリー・ポピンズ』の作者トラヴァース夫人についてインターネットで調べてみると、
3人姉妹の長女として、オーストラリアのクイーンズランド州に生まれ、父はロンドン生まれ、母はスコットランド系の血をひく、とあります。作家になってからイギリスに移住しています。
『赤毛のアン』の作者モンゴメリさんはスコットランド系。登場人物のアン、マシュー、マリラ、ダイアナもみんなスコットランド系、ケルト族です。
大好きな場面の一つ、第37章でアンは「小さなスコッチローズを挿し木したんです。マシューのお母さんが、遠い昔、スコットランドから持ってきた薔薇で、マシューは、いつだって、この花がいちばん好きでした」とアラン牧師夫人に語ります。(松本侑子著『赤毛のアンへの旅_秘められた愛と謎』NHK出版より引用しました。)
抜粋はわかりづらくなってしまいますが、書きたくなったので以下に記載してみます。
「フェアリーランド」という言葉の響きから一般に人々が思い描く映像は、この世とは空間的に遠く隔たった所にある幻のように美しく楽しい国、木々は実り花は咲き鳥は唄い、老いも悲しみも争いもなく、妖精の戯れ遊ぶ楽土というような童話のお伽の国の情景ではなかろうか。
長いこと悪魔と同一視され、邪悪な存在として恐ろしがられていた妖精たち超自然界の生きものに、文学の上で美しい容姿と親しみやすい性質を与え、土俗の暗い闇の中から明るい民衆の舞台と平土間(ひらどま)の中に連れ出して、今日見るような映像に定着させたのは、イギリスにおいてはシェイクスピアであった。
しかし妖精の棲み家であり、この世とは別の地上楽園という人々の願望空間とが重なったイギリスのフェアリーランドは、一口に空想裡に創りあげられた、縹渺(ひょうびょう)とした単なる幻想といった言葉では片付けられるものではない。ましてユートピアとして、どこか曖昧な空間に想定された、現世とは倒置関係にある理想郷といったものでもない。その淵源を遡ってみていくと、ケルト民族特有の他郷思想に突き当たる。」
(井村君江著『ケルト妖精学』1996年発行 講談社学術文庫 17頁より引用しました。)
「ケルトの人々の考えでは、人間・自然・生物等、森羅万象に生命と活動を与える遍在的な霊の存在があると信じ、その霊が不滅であり永遠に活動を続けるとしたのである。従って霊魂不滅といっても個人の霊魂は意味せず、エヴァンズ・ウェンツの言うように、個別を超越した大霊の不滅を信じているのである。さらに彼の仮説によれば、各個人の無意識の世界というものと対蹠的なところに想定された究極の単位の状態にある霊魂の集合体の存在があるはずだとし、これをケルトの人々の考える万物再生の思想の源であるとしている。
自然や人間を共通に貫いて、眼に見えぬ大霊が存在するとすれば、人間の生活のすべては不可視の力によって支配されていることになろう。そしてこの大霊は、永劫に巡り動き生命を転生させていくのである。従って現世は単なる唯物的世界ではなく、永劫無窮の霊の顕現する世界となり、ギリシャの地理・歴史学者ストラボが「古代のケルト人は現世を永遠なるものと信じた」と言っている言葉は頷けよう。こうした考えによれば、「この世は暫時の滅ぶべき世界」で「異界は永遠の不死の国」とする区別は必要なく、いずれも大霊の顕現した一つ一つの相に他ならず、そこには可視か不可視かの区別があるだけとなる。いみじくもウェンツは「アイルランドには二つの種族があるーひとつはわれわれがケルト族と呼ぶ<目に見える種族>と、もう一つは妖精と呼ぶ<目に見えない種族>である」と言い、今日でもこの二つの種族は互いに往き来していると言っている。この目に見えない種族は、古代のトゥアハ・デ・ダナーンであり、数々の祖霊であり、土の神や豊作の神であり、プーカやパンジー、レプラホーンやクルラホーンなどさまざまな姿のフェアリーたちであり、それらが現在生きている人々の生活や行動に、深い関わりを持っているのである。こうした考えから言えば、神話の神々、伝説の英雄たち、民間伝承の妖精たち、すぐれた祖先の霊たちの憩いの国である異界、常若の国(テイル・ナ・ノグ)は、この現世と同次元に、この世と隣接し直結して存在していても、なんら不思議はないのである。
こうしたケルトの異界をその根源から辿ってみると、常若の国(テイル・ナ・ノグ)や妖精の丘(フェアリー・ヒル)の考え方、ひいてはそこからさまざまに現われてきている異界観、フェアリーランドの考え方は、単に絵空事の空想の産物といったものではなく、民族の血の中に太古から流れている生命観、死生観、自然観に根ざしたものであり、そこからケルト特有の想像力によって創りあげられた楽園であることがわかってこよう。」
(井村君江著『ケルト妖精学』1996年発行 講談社学術文庫 42-43頁より引用しました。)
写真は、グリーン・ゲイブルズのマシューの部屋です。