映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。今回は、日本一の寿司職人でミシェランの3ツ星店主人にして、最年長の料理人のギネスを持つ、すきやばし次郎し・初代店主の小野二郎さんを追ったドキュメンタリー作品「二郎は鮨の夢を見る」です。
銀座に店を構えわずか10席のカウンターに、トイレはビルの共同と言う小さなお店。お品書きは、寿司20貫3万円のおまかせのみの高級店を親子と数人の職人で切り盛りする初代店主の生き様とその技、そして料理人としての哲学をつぶさにとらえた作品です。
85歳の小野二郎さんは、調理以外は、手を守るために手袋をはめて過ごします。ひとたび調理場に立てば、彼の一挙手一投足に弟子たちが視線が集中し、長男の禎一さんのサポートのもとで支度が進んでいきます。
それは、オーケストラを率いる指揮者とコンサートマスターのようです。オーケストラと異なるのは、演奏者の姿が見えないこと、鮨の世界で奏れられる音は、その寿司を食す人々の前にのみ存在し、紡ぎだせれる以前に準備を終えています。
料理人の世界で、唯一、お客様の前で優美な姿を現すのは世の東西を問わず寿司職人ではないかと思います。その頂点に立つ小野次郎さんは、現役であり続けるための努力と摂生を今も欠かせません。今回の映画に登場する料理評論家の山本益博氏が語った一流の料理人が持つ「真面目、向上心、清潔、我儘、情熱」五つの要素を、氏の姿をから体現しました。その姿は、長男の禎一氏にも垣間見ることができます。
この作品は、単なる寿司職人の生き様を描いただけでなく、飽食の時代がもたらす食への警鐘と寿司を通じて描かれた日本の文化を内包した作品に感じます。