黒い冷凍庫(冷凍品=文芸社、栗田工業、幻冬舎R等、クンちゃんブログ自費出版関連記事!クリタ創業者野崎貞雄氏発禁本全文)

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本屋に並ぶ「私家版」、その光と影  (其の参)

2011年04月15日 13時02分04秒 | 文芸社出版の光と影
                          
 


私が以前いた版元「文芸社」での仕事というのは、本をつくる編集部門、著者との出版契約を結ぶ契約部門その他に寄せられるさまざまなクレームで、担当セクションでは処理不能となったものを処理すること。これがひとつの大きな柱であった。
また、会社内部の労務問題から各種ハラスメント、不祥事、男女問題、果ては個人の抱える私的な問題の相談まで、ありとあらゆる難問が最終的に吹き寄せられてくるまったくお気の毒な部署だった。
例えるなら、ペットボトル、空き缶・空き瓶、海藻、古材、訳のわからぬ漂流物、古着から犬猫の死骸まで、ありとあらゆる塵芥が最後に打ち寄せられて、打ち上げられる寒村の浜辺といった趣であった。

おまけに、主として素人の著作を相手にする会社だから、契約前の応募原稿、契約後の仕掛かり原稿、さらには既にゲラ(校正刷り)になったものも含め、その内容について必要に応じて「名誉毀損」「プライバシー」「著作権をはじめとする知的所有権等の権利関係」といった見地から吟味検討を加える仕事もあった。

そのうえ、ひとつの案件が相当に込み入った内容であって、編集途次において担当編集者との綿密な打合せが必要と見込まれる場合、またその案件を刊行することによって損害賠償請求訴訟等が提起されかねないというような厄介な事情がある場合は、「もう面倒なんで、こっちでつくるわ」という格好で編集・制作までしょいこんでしまう有様。このような、言っちゃあ悪いが、取扱いに困惑するようなものばかりを相手に、年柄年中追い回されているような塩梅だった。したがって、太る暇などなかったわけだ。
このような経緯であるだけに、いま、出版費用著者持ちエディションの「光と影」について語ることができるのは私以外にいない、かどうかわからない(笑)が、まあ、そんな意気込みで書いておりますデス。

ところで、刊行済みの著者から寄せられるクレームのうち、最も多いのは「私の本が売れないのはおかしい、販売促進策をなんにもやってないんじゃないか」という具合の不満である。
しかし、売れないのはおかしくもなんともない。まったく当然の帰結である。
もうだいぶ前から、名のある書き手の本が売れなくて、印税生活が不安定になっている時世なのである。小説など創作ものでは、シロウトの著者がいくら最高の自信作、ヒット間違いなしと思い込んでいるとしても、売れないほうが当たり前で、売れたら不思議なのである。シロウトの書いた「小説のようなもの」をお金を出してまで買いたい、読みたい、と思う人がいったいどこにいるだろうか。私なら、定価分のお金をくっつけて贈呈されたとしても、お断りしたいほどである(が、そんな言葉は呑み込んでおかなければならない)。

だが、著者は決してそうは考えない。あくまでも「売れないはずがない」「売れるように対策を取らないから売れないだけだ」と強硬に言いつのる。こちらは、契約上、お約束した販売促進のための手立てはすべて履行しておりますでごぜえますだ、と繰り返すが、相手はもはや聞く耳を持たない。

こうなると、次の段階に移行する。

「こんなに売れないのに、おたくの契約担当者は間違いなく売れると言った」
「売れると言ったから契約したんだ」
「初めから売れないと言ってくれれば、契約をしなかった」
「やがて優雅な印税生活を送れるんだから、当初の出版費用なんか安いもんだ、と言われた。いったい、どうしてくれるんだ、このローン支払いを」
「自分でお金を出して出版するつもりなどさらさらなかったのに、騙された」

要するに大変な思いをして工面した支払い済み出版費用(の全部または一部)を返してくれ、ローン支払いを免除してくれ、という結論になる。
というより、その結論をいきなり言うのもちょっとなあ、ということで、こんなやりとりが際限なく続くのである。
弁護士を立ててくる人もいるが、この場合は話が早い。錯誤等を理由として、契約の無効・取り消しまたは解除を主張してくるのである。 (この項つづく)