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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

コックニーの押韻俗語

2012-06-20 05:45:08 | 日記

◎コックニーの押韻俗語

 昨日、「濠洲囚人隠語集」の項目をいくつか例示したが、これに少し書き足してみた。

Barney Fair(騒々しい集まり?)        Hair 毛髪。
Bees and honey(蜂と蜂蜜)            Money 金銭。
Cain and Abel(カインとアベル)        Tabel 卓子。
North and South(北と南)             Mouth 口。
Mother and daughter(母と娘)        Water 水。
Oh my dear(おやおや)                  Beer ビール。
Rat and mouse(ドブネズミとネズミ)    House 家。

 これで、お気づきだろう。すなわち、熟語の形をとっている隠語の最後と、それが指し示す言葉とが、韻を踏んでいるのである。
 いろいろ調べてみると(インターネットで検索しただけだが)、これはロンドンの労働者階級が使用する「コックニー押韻俗語」(Cockney Rhyming Slang)と呼ばれるものらしい。
 ほかにも、次のようなものがある。

Bacon and Eggs (ベーコンエッグ)           Legs 脚。
Bangers and Mash(ソーセージとポテト)    Cash 現金。
Biscuits and Cheese(ビスケットとチーズ)  Knees ひざ。
Dog and Bone(犬と骨)                        Phone 電話。
Loaf of Bread(パン一個)              Head 頭。 
Tea Leaf(茶葉)                                  Thief 泥棒。
Trouble and Strife(苦悩と争い)             Wife 妻。

 こうした押韻俗語は、そのままの形でも使用されるが、実際には、後半部分が省略され、前半だけで使用されることが多いという。

She's got lovely bacons.(あの女、いい脚してるぜ)
Get the dog for me.(その電話、出てくれ)

 すなわち、ベーコン(Bacon)が脚(Legs)を指し、犬(Dog)が電話(Phone)を指すことになる。まさにこれらは、仲間だけに通ずる「隠語」以外の何者でもない。
 さて、ここで疑問なのは、黒沼健が集めたオーストラリアの囚人隠語が、なぜロンドンの労働者の押韻俗語と共通性を持っているのかということである。これについては、オーストラリアに渡ったイギリス人の大多数が労働階級であって、彼ら労働階級の中に、特に犯罪に手を染めるようなグループの中に、ロンドンの押韻俗語に通じたものがいて、そのグループの押韻俗語=隠語が、そのままオーストラリアの囚人隠語に移行した、などの仮説が思いつく。これは、なかなか興味深いテーマなので、どなたかオーストラリアの歴史に強い研究者に、追究していただきたいものである。

今日の名言 2012・6・20

◎うちのめされた時がほんとうに人生をしっかり生きるとき

 駅で見た「平澤熊一展」のポスターに、大書されていた言葉。画家の平澤熊一(1908~1989)の言葉であろう。平澤熊一展は、6月8日から7月8日まで練馬区立美術館で開催されている。インターネットで、練馬区立美術館の広報を見たところ、「今日まで忘れ去られていた油彩画家です。没後20余年を経て、アトリエに残されていた作品群が再評価され、近年、各地の美術館に収集されはじめています。当館でも今年3月に熊一の油彩作品5点が新たにコレクションに加わりました。これを記念して、知られざる熊一の画業にスポットを当てた展覧会を開催いたします」などとあった。

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黒沼健と「濠洲囚人隠語集」

2012-06-19 05:26:35 | 日記

◎黒沼健と「濠洲囚人隠語集」

 数年前、古書目録に『世界犯罪隠語大辞典』が載っているのに気づき、すぐに注文した。この本は、大空社の「隠語辞典集成」に収録されており、閲覧は難しくない。しかし、かなりの珍本であり、今後、現物が市場に出る可能性は少ないと判断した。
 ただし、「大辞典」とあるのは多分ジョークで、実際はB6判一一二ページの小冊子である。それもそのはず、この「大辞典」は、雑誌『犯罪実話』一九三三年新年号の「付録」にすぎなかった。「付録」だからこそ、粗末に扱われ、今日、「珍品」になっているのである。
 数週間後、現物が送られてきた。覚悟はしていたものの、予想以上に見栄えのしない小冊子であった。
 しかし、中味は決して悪くない。西山光編の「犯罪隠語辞典」と黒沼健編の「めりけん犯罪隠語集成」の二部から構成されており、どちらも三段組みに、ビッシリと隠語を詰めこんでいる。この黒沼健というのは、戦後、推理作家として知られることになる、あの黒沼健のことだと思う(西山光については未詳)。
 黒沼編の「めりけん犯罪隠語集成」の末尾に、「濠洲囚人隠語集」というものが載っていた。「濠洲」というのは、オーストラリアのことである。
 このオーストラリアの「囚人隠語」がなかなか興味深い。いくつか例を挙げてみよう。

Barney Fair 毛髪。
Bees and honey 金銭。
Cain and Abel 卓子。
North and South 口。
Mother and daughter 水。
Oh my dear ビール。
Rat and mouse 家。

 卓子〈タクシ〉という言葉が古風だが、要するにテーブルの意味である。
 ここで紹介されている隠語は、「熟語」の形をとっているものがほとんどであった。それにしても、なぜ、左にある英熟語(隠語)が、右にあるような意味を持つのか。最初のうちは、全く理解できなかった。しかし、そのうち「これは、ことによると」と思えてきた。コラムの読者の中には、すでに、お気づきになった方もおられるだろう。【続きは次回】

今日の名言 2012・6・19

◎クールな頭、温かい心

 よく聞く言葉だが、これは、経済学者のアルフレッド・マーシャルの言葉だという。今日の日本経済新聞「やさしい経済学」による。執筆は、京都大学の矢野誠教授。なお、矢野教授によれば、マーシャルの思想は、「人間は誰でも利他的な心を持つ」という見方に支えられているという。日経新聞、勉強になりますね。

 

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ゴビンダ・マイナリさんが書いた日本語の手紙

2012-06-18 05:17:06 | 日記

◎ゴビンダ・マイナリさんが書いた日本語の手紙
 
 今月一六日のTBS「報道特集」は、ゴビンタ・マイナリさんの冤罪事件を特集していた。
 番組の中では、獄中のマイナリさんが、TBS記者の丸山拓さんに宛てた「日本語の手紙」三通が紹介されていた。画面には、時間にして一〇数秒しか映らなかったので、詳しく確認できたわけではないが、その三通は次のようなものだったと思う。

一 七年前に書かれた手紙で、日本語の文章であるが、すべてローマ字で表記されている手紙。
二 六年前に書かれた手紙で、すべて日本語のひらがなで書かれている手紙。
三 昨年書かれた手紙で、ひらがなが中心だが、ところどころで漢字が使われている手紙。

 マイナリさんは、一九九四年に来日している。事件が起きたのが一九九七年であり、当時はインド料理店で働いていたわけだから、ある程度、日本語の会話は上達していたと思われる。
 日本語の会話が可能であれば、日本語をローマ字で表記することもできたと思う。マイナリさんは、七年前には、あるいはそれ以前には、丸山記者に対し、「ローマ字表記日本語」の手紙を送っていた。
 ところが、六年前の手紙になると、これが「ひらがな表記日本語」となった。この間にマイナリさんは、ひらがなを習得したものと思われる。日本語の会話能力があり、またローマ字で日本語を表記することができたマイナリさんであるからして、ローマ字とひらがなとの対応関係さえ覚えてしまえば、ひらがな表記日本語の手紙を書くことは難しいことではなかったであろう。
 問題は、その後である。全文ひらがな表記ではなく、それに漢字表記を加えるとなると、これには、「日本文」を書くための学習が必要となる。その際、ネックになるのは、おそらく「漢字」だったのではないか。
 言語学者の田中克彦さんが書いた『漢字が日本語をほろぼす』(角川SSC新書、二〇一一)という本がある。文字通り、「漢字が日本語をほろぼす」ということを主張しようとした本である。特に田中さんは、外国人が日本語を学ぼうとするとき、漢字が大きな障壁となっていることを強調する。もちろん日本に生まれた日本人にしても、漢字の習得は大きな負担になっている。田中さん自身、いまだに推薦書の「薦」の字が書けないということを告白している。江戸時代の思想家・本田利明は、数万に及ぶ漢字を記憶しようとすれば、その生涯をかけなければならないと述べたという(同書による)。
 マイナリさんが、いつから漢字の混ざった日本語文を書けるようになったのかは知らない。しかし、六年前の「全文ひらがなの手紙」から、昨年の「漢字入り日本語文」へ移行するまでには、かなりの苦労と努力があったのではないかと推測した。
 ちなみに、マイナリさんが最初に覚えた漢字は、「無実」だったという。

今日の名言 2012・6・18

◎私の人生の赤字、もう戻らないです

 ゴビンタ・マイナリさんの言葉。6月16日のTBS「報道特集」で紹介されたゴビンタさんの「昨年の手紙」の中に、この言葉があった。マイナリさんの心境は察するに余りあるものがあった。同時に、日本語口語文が漢字入りで書かれていたことが、妙に悲しかった。

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ベアリング業界の「隠語」に思う

2012-06-17 06:30:17 | 日記

◎ベアリング業界の「隠語」に思う
 
 今月一四日の日本経済新聞の朝刊に「価格調整 隠語での議事録 ベアリング大手、不正隠す? 」という記事が載った。
 リードの部分のみ、紹介しておく。
―ベアリング(軸受け)の販売を巡る大手メーカー四社の価格カルテル事件で、四社の当時の担当役員らが価格調整のやり取りを記載した議事録やメモを作成していたことが一三日、関係者の話で分かった。出席者を外国人名で記すなど隠語を多用しており、不正な価格調整を隠す狙いだったとみられる。公正取引委員会などはカルテルの犯意を裏付ける経緯として重視しているもようだ。―
 ありきたりの事件であり、記事であるが、見出しに大きく「隠語」という文字があったことに注目した。
 隠語とは何か。隠語研究の第一人者である渡辺友左氏は、その著書『隠語の世界』(南雲堂、一九八一)において、「隠語」を、「社会集団が集団内部の秘密を保持するために、その集団の内部だけにしか通じないことを意図して、人為的につくったことば」と定義した。
 同書から、少し引用してみよう。
―隠語とは、社会集団が集団内部の秘密を保持するために、その集団の内部だけにしか通じないことを意図して、人為的につくったことばのことである。隠語は、集団内部の秘密保持のためにつくったことばであるということで、同じ集団語である非隠語から区別される。閉鎖性の強い集団、たとえば反社会的集団のことばにその典型的なものがある。/他方、社会が分化・発展していけば、職場・職業や専門を同じくする社会社会集団や社会の専門分野の中で、それぞれの職場・職業や専門に適合したことばが、集団や専門分野の秘密保持ということとは関係なくつくられることになる。非隠語の中の、職場語・職業語・専門語・術語などと呼ばれるものがこれである。―
 渡辺氏によれば、隠語は集団語の下位概念で、集団語には隠語と非隠語とがある。「隠語」の典型的なものは「反社会集団」によって使用されている。一般の社会集団で使われる「職場語・職業語・専門語・術語」などは、「非隠語」に分類されるという。なお、渡辺氏は、「反社会集団」の対語として、「非反社会集団」という概念を提示している。
 有力な隠語研究家である米川明彦氏は、その著書『集団語の研究』上巻(東京堂出版、二〇〇九)において、隠語の「社会的機能」を四つ指摘している。ここでは、その第一のみを紹介する。
―第一に所属集団の秘密を保持する機能である。反社会的集団、犯罪者集団に圧倒的に多いことからも察することができるように、知られてはまずいことをする連中が集団の安全、防衛のために隠語化して秘密が〔を?〕保持するのである。言い換えれば、外部の集団にはわからぬようにする働きである。―
 渡辺氏も米川氏も、「隠語」を、基本的に、反社会的集団や犯罪者集団に特有のものとして捉えようとしている。
 しかし、隠語の研究の深化のためには、こうした「偏見」は好ましいものではあるまい。
 現に、ベアリング業界も、「不正な価格調整」を隠すために「隠語」を使っていた。これはまさに、「知られてはまずいことをする連中が集団の安全、防衛のために」作ったものではないのか。
 また米川氏は、前掲の著書で、二〇〇四年の朝日新聞記事を引用しながら、兵庫県警自動車警ら隊に「つくり」という隠語があることを紹介している。「つくり」とは、「架空の被害者や容疑者をでっち上げ、事件が解決したとする書類を作り上げること」だという。これは、公文書偽造という犯罪にほかならない。この隠語もまた、「知られてはまずいことをする連中が集団の安全、防衛のために」作ったものでなないのか。
 私が言おうとしているのは、ベアリング業界や兵庫県警を「反社会的集団」として位置づけよ、ということではない。「隠語」という問題を研究する際、それを使用する集団が、「反社会的集団」であるのか「非反社会集団」であるのかを区分することは、まったく意味がないということが言いたいのである。
 隠語研究の深化・発展のためには、研究対象集団を「反社会的集団」、「非反社会的集団」に区分する発想そのものを、まず払拭すべきであろう。なお、拙著『隠語の民俗学』を参照いただければさいわいである。

今日の名言 2012・6・17

◎日本はこんなに豊かな国なのに、貧しい国からやってきた人間を苦しめています
 
 ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんの妻・ラダさんの言葉。ラダさんは、2001年に来日した際、取材したTBSの丸山拓記者にこのように語った。昨16日のTBS「報道特集」による。ゴビンダさんは、1997年に起きた東電女性社員殺害事件の犯人とされ、無期懲役の刑が確定していたが、今月7日の再審決定を受けて釈放され、昨日、18年ぶりにネパールに帰国した。

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京都も空襲の被害を受けた

2012-06-16 04:12:16 | 日記

◎京都も空襲の被害を受けた

 昨日六月一五日の日本経済新聞「文化」欄に、次のような「訂正」が載っていた。
―五月二六日付「占領下の京都」の記事中、「空襲がなかった京都」とあるのは誤りでした。東京のような大空襲はなかたものの、一九四五年に西陣空襲などがありました。―
 以前、河上肇の『晩年の生活記録』上下(第一書林、一九五八)を読んだことがあったので、京都にも空襲があったことは知っていた。
 同書は、一九三七年から一九四六年までの河上の「日誌」を公刊したもので、その一九四五年一月一六日の項には、次のようにある。
―夜半爆弾と飛行機の音にて眼ざむ。ややありて警戒警報出づ。東山方面に相当の被害ありたるものの如し。新聞紙には出でざるも、死者十七名、負傷者百二十名、家屋倒壊二百と伝ふ。―
 やや飛んで、同年六月一五日の項を見ると、次のようにある。
 
 六月十五日 曇。
 八年前〔一九三七年〕出獄、帰家の記念日なり。朝来〈チョウライ〉敵機来週、京都市付近にも焼夷弾を投下せし様子。飛行機の音、暫くの間頭上に聞こえて落着かず。
 
 また、同月二六日、二七日の項には、次のようにある。

 六月二十六日 曇。
 午前中、空襲。主として市の南部に爆弾を落せしものの如し。戸障子〈トショウジ〉の振動を初めて経験す。
 六月二十七日 曇。
 昨日の空襲にて、千本中立売〈センボンナカダチウリ〉方面に爆弾落下、死者百余名に上りし由〈ヨシ〉。

 日経新聞のいう「西陣空襲」とは、この千本中立売(京都市上京区)方面への空襲を指すものと思われる。ちなみに、この当時の河上肇の住所は、京都市左京区吉田上大路九番地で、千本中立売とはそれほど離れていない。
 今、京都への空襲について、正確なデータは持ち合わせていないが、京都も空襲の被害を受けていることだけは確かである。

今日の名言 2012・6・16

◎静かなるふるき都の夜の闇にサイレン鳴りて爆音響く

 河上肇の短歌。「日誌」一九四五年一月二十日の項に書きとめられている五首のうちの第一首。「夜」は、〈ヨ〉と読むべきところであろう。これに続く第二首は、「よき歌を作り得たりと喜びてめざて見れば早や忘れけり」である。『晩年の生活記録』上、191ページより。

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