礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

長賊外交の路を絶ち、その罪状を万国へ嗚らす

2021-04-30 03:52:39 | コラムと名言

◎長賊外交の路を絶ち、その罪状を万国へ嗚らす

 昨日と同じ要領で、「長州再征に関する建白書」を読解してゆきたいと思う。本日、読解するのは、第一条「長賊外交の路を絶其罪状を万国へ嗚候事」の最初の部分である。
 全集では、この第一条は、三ページにまたがっているが、「句点」を見る限り、そこにわずか、四つのセンテンスしかない。やや従いがたいものがあるが、一応、その四つのセンテンスに、❼❽❾❿という番号を振る。

      第一条 長賊外交の路を絶其罪状を万国へ嗚候事
❼長賊の本意は前段にも申上候通り最初より尊王攘夷抔申唱候得共全く口実迄の義にて一昨年下の関一敗以後も頻りに外国人に近き遊説の書生をも海外へ派遣し下の関其外に於ても外国のこれに姦商呼集密に貿易いたし武器等も多分買込候由尤密買御制禁の義は御条約面の明文も有之在留ミニストルにおゐても急度可指留筈既に昨年中英国ミニストルよりも自国船舶へ布告文相触候義も御座候得共利を貪候姦商の義一と通り布告文抔にて其弊を防候義出来申間敷尚又此節長州も必死を極候儀に付益々悪策を運らし候は必然の義或は武器を買入れ或は金を借用いたし甚しきは外国浮浪の徒を頼み外国船をも雇入れ支那長毛賊の轍に效【なら】ひ如何様の事件を生じ候哉も難計此義最も可恐義に奉存候【御座候】

 まず、第一条のタイトル「長賊外交の路を絶其罪狀を万国へ嗚候事」だが、これは、「長賊外交の路〈ミチ〉を絶ち、その罪状を万国へ嗚らし候事〈ソウロウコト〉」と読むのであろう。
 次に❼だが、一文としては長すぎるので、これを四つのセンテンスに分けて説明したい。

❼ⓐ長賊の本意は前段にも申上候通り最初より尊王攘夷抔申唱候得共全く口実迄の義にて一昨年下の関一敗以後も頻りに外国人に近き遊説の書生をも海外へ派遣し下の関其外に於ても外国の姦商呼集密に貿易いたし武器等も多分買込候由

 長賊の本意は、前段にも申し上げ候通り、最初より尊王攘夷など申し唱へ候得ども、全く口実までの義にて、一昨年、下の関一敗以後も、頻りに外国人に近づき、遊説の書生をも海外へ派遣し、下の関そのほかに於ても、外国の姦商〔を〕呼び集め、密〈ヒソカ〉に貿易いたし、武器なども多分買込み候由〈ヨシ〉。

《補足》「一昨年下の関一敗」とあるのは、文久三年(一八六三)に、米・仏の軍艦が長州の軍艦を砲撃した「下関事件」を指すのであろう。ちなみに、その翌年の元治元年(一八六四)には、米・英・仏・蘭の艦隊が下関砲台を占領した「四国艦隊下関砲撃事件」が起きている。

❼ⓑ尤密買御制禁の義は御条約面の明文も有之在留ミニストルにおゐても急度可指留筈

 尤も密買御制禁の義は、御条約面の明文も有之〈コレアリ〉、在留ミニストル〔公使〕におゐても、急度〈キット〉可指留〈サシトムベキ〉はず。

❼ⓒ既に昨年中英国ミニストルよりも自国船舶へ布告文相触候義も御座候得共利を貪候姦商の義一と通り布告文抔にて其弊を防候義出来申間敷尚又此節長州も必死を極候儀に付益々悪策を運らし候は必然の義

 既に昨年中、英国ミニストルよりも、自国船舶へ布告文〔を〕相触れ候義も御座候得共〈ゴザソウラエドモ〉、利を貪り候姦商の義、ひと通り布告文などにて、その弊を防ぎ候義、出来申す間敷〈マジク〉、尚又この節、長州も必死を極〈キワメ〉候儀につき、益々悪策を運〈メグ〉らし候は必然の義。

ⓓ或は武器を買入れ或は金を借用いたし甚しきは外国浮浪の徒を頼み外国船をも雇入れ支那長毛賊の轍に效【なら】ひ如何様の事件を生じ候哉も難計此義最も可恐義に奉存候【御座候】

 あるいは武器を買入れ、あるいは金を借用いたし、甚しきは外国浮浪の徒を頼み、外国船をも雇入れ、支那長毛賊の轍〔先例〕に效【なら】ひ、如何様〈イカヨウ〉の事件を生じ候やも難計〈ハカリガタク〉、この義、最も可恐〈オソルベキ〉義に奉存候【御座候】

《補足1》「支那長毛賊」は、いわゆる「太平天国の乱」(一八五一)を指す。
《補足2》全集では、「效」に「なら」という振り仮名がある。校訂者によるものか。
《補足3》原文では、「奉存候」の右横に、「御座候」という文字があるという。ここでは、「奉存候【御座候】」とあらわした。

❽就ては此度長防近海へ御軍艦数艘被指遣二州海岸へ近寄候外国船は御指留若又賊より小舟抔にて外国船へ近寄候義も有之候はゞ直に御召捕に相成候位に厳重に御取締相立候様仕度既に両三年前合衆国内乱の節も英国より南部の賊え竊に「アラバマ」と申軍艦を指送り其外武器等も遣し之が為め北部にて大に困却いたし候先例も有之旁以此度長州にて外交いたし候様相成ては不容易御後患を醸し可申格別に御用心被遊候様仕度義に奉存候【御座候】。

 これが❽だが、やはり、一文としては長すぎる。こちらは、ふたつのセンテンスに分けて説明したい。

❽ⓐ就ては此度長防近海へ御軍艦数艘被指遣二州海岸へ近寄候外国船は御指留若又賊より小舟抔にて外国船へ近寄候義も有之候はゞ直に御召捕に相成候位に厳重に御取締相立候様仕度

 ついては、この度、長防近海へ御軍艦数艘〔を〕被指遣〈サシツカワサレ〉、二州海岸へ近寄り候外国船は御指し留め、若〈モシ〉また賊より、小舟などにて外国船へ近寄り候義も有之〈コレアリ〉候はゞ〈ソウラワバ〉、直〈タダチ〉に御召捕りに相成り候位に、厳重に御取締り相立て候やう仕度〈ツカマツリタシ〉。

《補足》私見では、ここで句点を打つべきだと思う。その場合、「仕度」の読みは、〈ツカマツリタシ〉。なお、読点で続ける場合は、〈ツカマツリタク〉と読むことになる。

❽ⓑ既に両三年前合衆国内乱の節も英国より南部の賊え竊に「アラバマ」と申軍艦を指送り其外武器等も遣し之が為め北部にて大に困却いたし候先例も有之旁以此度長州にて外交いたし候様相成ては不容易御後患を醸し可申格別に御用心被遊候様仕度義に奉存候【御座候】。

 既に両三年前、合衆国内乱の節も、英国より南部の賊え、竊〈ヒソカ〉に「アラバマ」と申す軍艦を指し送り、そのほか武器等も遣〈ツカワ〉し、之がため北部にて大いに困却いたし候先例も有之〈コレアリ〉、旁〈カタガタ〉以て、この度長州にて外交いたし候やう相成りては、不容易〈ヨウイナラヌ〉御後患〈ゴコウカン〉を醸〈カモ〉し可申〈モウスベク〉、格別に御用心被遊〈アソバサレ〉候やう仕度〈ツカマリタキ〉義に奉存候【御座候】。

 この❼および❽において福沢は、長州の武器・外交に注目し、「格別に御用心」と警告したのである。

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