礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「真の日本人は実に偉らい者であつた」(内村鑑三)

2013-11-02 09:27:06 | 日記

◎「真の日本人は実に偉らい者であつた」(内村鑑三)

 一昨日、昨日と、内村鑑三著・鈴木俊郎訳の岩波文庫旧版『代表的日本人』に付されている鈴木俊郎氏の「解説」を紹介した。
 この「解説」は、内村鑑三の『代表的日本人』の解説としてすぐれているばかりでなく、内村鑑三の思想の解説としてもすぐれている。またこの「解説」は、日米戦勃発の直前に書かれたものだが、そのことが結果的に、この特異な思想家の紹介に、リアリティを与えることになった。さらにこの「解説」には、当時の時局に対する批判がこめられている。――このように私は述べた。
 鈴木俊郎氏の「解説」おいて、真骨頂とも言える部分は、すでに引用紹介したつもりだが、念のために本日は、それに続く部分も紹介しておこう。ページでいうと、一八三~一八五ページにあたる部分である。

 著者の日記に我我は次の言葉を発見する、――
 英文『代表的日本人』改版の校正を為しつゝある、今日上杉鷹山〈ヨウザン〉の分を終り、二宮尊徳の分を始めた、今より二十八年前に此の著〔『日本及び日本人』一八九四〕を為して置いた事を神に感謝する、真の日本人は実に偉らい〈エライ〉者であつた、今の基督〈キリスト〉教の教師、神学士と雖も〈イエドモ〉遠く彼等に及ばない、米国宣教師等に偶像信者と称ばるゝ〈ヨバルル〉とも、鷹山や尊徳のやうな人物に成るを得ば〈エバ〉沢山である、余は或時は基督信者たることを止めて〈ヤメテ〉純日本人たらんと欲することがある
と(一九二一年八月十一日)。
 これはよく本書の第一の面を物語つてゐる。日本人は基督教を「蒸気機関とともに」受取るべきでない。欧米基督教会の宗教を日本人が受けて、その霊魂を欧米の宗教的伝統の権威の下に奴隷たらしめるのである。イエスが王陽明にまさる尊厳にして恩恵豊かなる「天理」を啓示したとすれば、嘗て〈カツテ〉藤樹〈トウジュ〉が王陽明に学びし如く、我等は我等自身の仕方にてイエスより直接それを学ぶべきである。欧米基督教会の信者たるよりは鷹山〈ヨウザン〉や尊徳のやうな純日本人たることは、日本人たる我我には、遥かに尊貴なることである。「真の日本人は実に偉らい者であつた。」欧米教会の宗教家は「遠く彼等に及ばない」のである。こゝに著者の西洋に対する自己防衛、西洋からの独立の主張は、遺憾なく発揮せられてゐるといふべきである。
 併し乍ら〈シカシナガラ〉、著者の此の民族的自覚は、著者をして無反省な国粋主義者たらしめなかつた。芸術の鑑賞者、武勇人情の嘆称者に止まら〈トドマラ〉しめなかつた。著者は日本人の非偉大性、その短所弱所を指摘するに憚ら〈ハバカラ〉なかつた。神である、天である、道である、正義である、著者の貴びし〈タットビシ〉ものは道徳的、宗教的であつた。西郷、鷹山、尊徳、藤樹、日蓮(鷹山と尊徳を入れ替れば年代順に近きより遠きに及ぶであらう)が、軍人、政治家、農民、教育者、宗教家(内容から言つて此の順序は最も適切である)として「代表的日本人」である所以は、此の点に於て彼等が「代表的」に偉大であつたからである。勿論彼等は何れも「甚だ御し易い人問」ではなかつた。彼等は「自身の意志を有つてゐた」からである。「しかし斯くの如き人のみが独り国民の脊椎骨〈セキツイコツ〉であつた」のである。洵に〈マコトニ〉著者はこれらの人人を「代表的日本人」として選んで、「日本人」そのものに対する道徳的審判と宗数的警告を与へたといふことができる。こゝに本書の性格の第二の面を見るのである。
  *
 上述のごとく、我我は本書において右の二つの面を見る。その第一の面のみについて言へば、日本は決して傑れた〈スグレタ〉思想家の乏しきを憾まない〈ウラマナイ〉。併し第一の面とともに尚ほ〈ナオ〉第二の面を有つ〈モツ〉ものに至つては、独り著者のみにその例を見出し、独り著者のみその重荷を負つたと言つて言ひ過ぎないと思ふ。本書は決して普通の意味に於げる日本の案内書〈ガイド・ブック〉ではなかった。これは日本にかゝはる預言の書であつたのである。

今日の名言 2013・11・2

◎真の日本人は実に偉らい者であつた

 内村鑑三が、その日記に記した言葉だという。「真の」という限定に、内村鑑三の日本人観がこめられている。上記コラム参照。

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