礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

イギリス映画『侵入者を追って』(1953)を観る

2018-12-19 01:31:22 | コラムと名言

◎イギリス映画『侵入者を追って』(1953)を観る

 先日、神田神保町の新刊書店で、『栄光の軍旗』(コスミック出版、二〇一八)というDVDボックスを買った。一〇枚入りで一八〇〇円(外税)は安い。
 そのボックスの中に、『侵入者を追って』という映画があった。監督は、ガイ・ハミルトン(Guy Hamilton)、原題は“The Intruder”(侵入者)。原作は、 Robin Maughamの“The Line on Ginger”という小説(一九四九)だという(ウィキペディア英語版“The Intruder”の項による)。まったく聞いたことない映画だったが、これが、なかなか良かった。
 元軍人で、今は株の仲買人をしているウォルフ・マートン(ジャック・ホーキンス)が、ある日の夕、家に戻ると、家の中が荒らされており、ピストルで武装した侵入者が潜んでいた。マートンは、その侵入者に見覚えがあった。ジンジャー・エドワーズ(マイケル・メドウィン)である。彼は、第二次世界大戦中、戦車連隊で、マートン大佐の下で戦った勇敢な兵士だった。マートンはジンジャーに、なぜ、こうした犯罪に手を染めたのか問いかけたが、ジンジャーは、ガラス戸を破って逃走してしまった。マートンは、この事件を警察には届けず、独自にジンジャーの行方を追いはじめた。すでに民間人になっている部下たちを訪ね、ジンジャーに関する情報を集める。コヴェントガーデンの市場に勤めるジョン・サマーズ(ジョージ・コール)に会うと、最近、ジンジャーには会っていないと言う。しかし、これは嘘で、マートンがやってきた直前に、ジンジャーは、サマーズを訪ねていたのだった。次にマートンは、会社を経営しているピリー(デニス・プライス)を訪ねる。ピリーは、ジンジャーについて心当たりはないが、その盗難事件は、警察に届けるべきだと強く忠告する。最後にマートンは、農場を経営しているコープ(ダンカン・ラモン)を訪ねた。そして、ここで初めてマートンは、復員後のジンジャーに襲いかかった不幸な事件について知らされたのだった。
 この映画では、マートンが復員した部下たちを訪ねるたびごとに、フラッシュバックの形で、その部下に関わる激戦のシーン、あるいは兵舎におけるエピソードなどが挿入される。非常に凝った脚本だが、テンポがよいので、観ていて違和感はない。また、この映画は、戦中のシーンも、「現在」のシーンも、妙にリアルで、いかにも手間ヒマをかけて作られている印象がある。カメラ(Edward Scaife)も良い。
 何よりも、人物の描きわけが巧みである。それらしい役者が、いかにもそれらしく演じているのに感心させられた。クレジットによれば、この映画の主演は、ジャック・ホーキンス(Jack Hawkins)、ジョージ・コール(George Cole)、デニス・プライス(Dennis Price)、マイケル・メドウィン(Michael Medwin)の四人ということになっている。しかし、実質的には、主演がジャック・ホーキンス、助演がマイケル・メドウィンといったところであろう。
 上では省いたが、マートンのかつての部下で、今は中学校の校長をしているベルトラム・スライク(リチャード・ワッティス)という人物が登場する場面がある。このスライクの兵舎生活におけるエピソードが、何とも楽しい。また、スライクを演じているリチャード・ワッティス(Richard Wattis)の演技が秀逸である。
 最初に述べたように、この映画の監督はガイ・ハミルトンである。ハミルトン監督の映画は、「007シリーズ」、『空軍大戦略』(一九六九)など、若いときから何本も観てきた。どれもこれも、そこそこ楽しめる映画ではあったが、「名作」、「傑作」というレベルには至っていない印象があった。ところが、この『侵入者を追って』は、まちがいなく「傑作」である。個人的には、ガイ・ハミルトン監督のナンバーワンに位置づけるべき「名作」だと思う。

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