礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

大熊信行の「人間再生産」の経済学

2019-12-25 03:18:00 | コラムと名言

◎大熊信行の「人間再生産」の経済学
 
 昨年の七月三〇日の当ブログで、〝杉田水脈議員の「生産性」発言と大熊信行の「生産」の経済学〟と題するコラムを書いた。
 その最初の部分を、以下に引用する。

 杉田水脈〈ミオ〉衆議院議員の「生産性」発言が話題になっている。後学のために、私も、『新潮45』に掲載された〝「LGBT」支援の度が過ぎる〟と題する記事を読んでみた(ただし、ネット上にアップされたもので)。
 問題とされているのは、たぶん次の箇所であろう。
《例えば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。にもかかわらず、行政がLGBTに関する条例や要項を発表するたびにもてはやすマスコミがいるから、政治家が人気とり政策になると勘違いしてしまうのです。》
 ここで、「生産性」という言葉が使われているのを見て、私は、大熊信行〈オオクマ・ノブユキ〉が、戦争中に提起した「生産」の経済学を思い出した。
 今、大熊信行が、それを提起していたと記憶する『国家科学への道』(東京堂、一九四一)が、すぐには探し出せないので、そのかわりに、思想史家の河原宏が、大熊信行の経済学について解説している文章を紹介することにしたい。【以下の引用は略】

 このコラムを書いたとき私は、大熊信行の『国家科学への道』を参照できなかった。しかし、最近になって、偶然、段ボール箱から拾い出すことができた。東京堂刊、一九四一年(昭和一六)一二月二七日発行、定価四円八〇銭、本文五三二ページの大著である。
 たしかに大熊は、この本の第十五章「世界観の体系化いまだし」の「第四 経済学における『家』の発見」の節(三四二~三五〇ページ)において、「人間の生命の生産」、「人間再生産」などの言葉を用いている。
 そこで、本日以降、何回かに分けて、この節を紹介してみたいと思う。

  第四 経済学における『家』の発見
 おもふに経済学にいはゆる経済の循環および発展とふ現象の基礎にあるものは、国民生活そのものの循環と発展であり、人間の生命の生産と、交替と、発展から離れて、物財の再生産も、流通も、あり得るものではない。家【いへ】の経済が、生産の機能を企業にゆだねて、みづからは単なる消費単位に化したといふのは、近代経済学の公式的解説である。いふまでもないが、それは飽くまで物財中心の自由主義的・市場理論的思惟の拘束に囚はれた見解にすぎない。――家の経済があらゆる生産の課題を家の組織の外へ排除し、一切の財を購入するところの純然たる消費経済の単位と化したといふときにも、なほ台所経済の本質は生産経営的であり、本質的に生産技術的ならざるはない。主婦は国民的生産の頂点に立つ。
 しかしそれのみではない。かりに台所経済すら都市生活では縮少しつゝあるとしても、家の経済が依然として最高の生産課題を把持してゐることに、根本の変化はないのである。人間再生産の組織としての家の根本機能を無視して、しかも『国民経済学』の家の概念が成り立つてゐたといふことは、かへりみれば唖然として口のふさがらぬ事態であつた、といはなければならない。
 科学概念および科学用語と日常用語との関係はすこぶる微妙である。経済学のやうな、国民の日常業務および日常生活を対象とする特殊化学が、その特定目的によつて自己を形成するといふことは、同時にその時代における国民の生活意識を組織するといふ作用を意味しなければやまぬ。われわれはすでにこの問題をたびたび論じて、倦むことを知らぬのである。
 新らしき再生産理論は、物的再生産および人的再生産の綜合理論でなければならないといふわれわれの構想は、決して藪から棒の単なる想念ではない。それはまづ『消費経済』の概念にたいする根本的な検討に端を発し、自由主義的な極大満足説にたいしては、抑制説をまづ対置することが、われわれの仕事の手始めであつた。【以下、次回】

*このブログの人気記事 2019・12・25(9位のズビスコは久しぶり)

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