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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

憲法改正の手続を規定した第73条は改正できるか

2022-08-22 01:04:03 | コラムと名言

◎憲法改正の手続を規定した第73条は改正できるか

『国家学会雑誌』第四八巻第五号(一九三四年五月)から、清水澄の論文「帝国憲法改正の限界」を紹介している。本日は、その七回目。

 一〇 帝国憲法第七十三条は、本篇の冒頭に記載したる所の如く、憲法改正の手続を規定したるものである。此の条規の下に在りては、こゝに規定せられたる手続に依るに非ざれば憲法を改正するを得ざること勿論である。故に、勅命に係る議案の提出なきに拘らず一議院に於て憲法改正の発案を為し、両議院に於て各々其の総員三分の二以上出席し出席議員三分の二以上の多数を以て之を可決するも、其の議決は全然無効である。新独逸国に於て斯かる手続に依る憲法の改正を有効とするより推及して、我国に於ても亦然るが如く解する者あらば、そは断じて許すべからざる謬見である。
 然らば、本条所定の手続に依り本条の規定を改正することを得るか。現行成規の要件に叶ひさへすれば、憲法改正の手続を変更してよいか。憲法改正の手続として右の現行規定の要求する所は、発案の制限と両議院に於ける定足数の制限と其の表決数の制限とである。此の三要件の中、両議院に於ける定足数及評決数の制限は、或る程度まで之を変更するを妨げないであらう。ひとり発案を勅命に繋くる〈カクル〉の制限は、絶対的に変更すべからざるものである。蓋し、我国に於ては、憲法を以て君主を立てたのではなく、天皇が憲法を定めたまうたのである。其の憲法は純真なる欽定憲法である。その必然の帰結として、憲法改正の発議は一に天皇の大権に専属せねばならね。此の事は、帝国憲法第七十三条第一項の規定に明記せられたるのみならず、帝国憲法の上諭中に、「将来若此ノ憲法ノ或ル条章ヲ改定スルノ必要ナル時宜ヲ見ルニ至ラハ朕及朕カ継統ノ子孫ハ発議ノ権ヲ執リ之ヲ議会ニ付シ議会ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ之ヲ議決スルノ外朕カ子孫及及臣民ハ敢テ之カ紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ」と極めて明白に記載せられて居る。まことに是れ我が憲法の根本義であつて、いかなることあるも変改すべからざるものである。乃ち、此の限度に於ては、帝国憲法第七十三条の規定は絶対的に変更すべからざるものである。
 一一 帝国憲法第七十四条第一項に「皇室典範ノ改正ハ帝国議会ノ議ヲ経ルヲ要セス」とあつて、国家の大法たり皇室の大則たる皇室典範の改正は帝国議会の議に付すべき限に在らざることを明にしてある。伊藤博文公著「皇室典範義解」には疏注〈ソチュウ〉して、「将来已ムヲ得サルノ必要ニ由リ其ノ条章ヲ更定スルコトアルモ亦帝国議会ノ協賛ヲ経ルヲ要セサルナリ蓋皇室ノ家法ハ祖宗ニ承ケ子孫ニ伝フ既ニ君主ノ任意ニ制作スル所ニ非ス又臣民ノ敢テ干渉スル所ニ非サルナリ」と明言してある。まことに我が国家組織の基調に考へ、皇室典範の動かすべからざる本質として、必然斯くあらねばならぬ。乃ち、帝国憲法第七十四条第一項の規定は、これまた絶対的に変更すべからざるものである。【以下、次回】

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