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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

かたく神州不滅を信じ……(東久邇首相宮)

2019-09-02 01:50:59 | コラムと名言

◎かたく神州不滅を信じ……(東久邇首相宮)

 朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その九回目(最後)。

 今や歴史の転機に当り、国歩艱難、各方面に亘る戦後の再建は極めて多難なるものがある。戦〈タタカイ〉は終つた、しかしながら我々の前途は益々多難である、詔書にも拝します如く今後帝国の受くべき苦難は蓋し尋常一様のものではないのである。もとより政府としては衣食住の各方面に亘り戦後における国民生活の安定に特に力を注ぎ凡ゆる部面において急速に万全の施策を講じてゆく所存であるが、戦争の終結によつて直ちに過去の安易なる生活への復帰を夢見るが如き者ありとすれば想はざるも甚だしきもので、将来の建設の如きは到底期し得ないであらう。殊に外地、満州等よりの輸移入に差当り多くを期待し得ざる今日の食糧対策は極めて多難重大である、従つて今後政府、国民一致して全力を尽してこれが解決を図らねばならぬことは勿論であるが、政府としては特に復員による多数の軍人や産業要員の食糧生産部面への転進によつて、既耕地の集約強化はもとより、戦災地未墾地の積極的開発を行ひまた水産の画期的振興に努めたい所存である。国民諸君も凡ゆる地力を利用して食糧の自家生産に努め、農民諸君は食糧の供出に従来以上の熱意と努力を示し、また一般消費者においても食生活につき、一段の工夫を凝らさんことを期待する次第である。かくして今後たとひ外地海外より食糧の輸移入が困難なるが如き事態となつても、国内においてなし得る限り自給し得べき方途を講じて参りたいと存ずる。
 次に住宅の問題について相次ぐ戦災によつて家屋の焼失致しましたものは極めて莫大な数に上つてをるのであり、これが復旧は一刻も忽せ〈ユルガセ〉にし得ざる重大なる問題である。畏くも 天皇陛下におかせられては戦災復興のことを痛く御軫念あらせられ過日特別の思召を以て木材百万石を下賜あらせられます旨の有難き御沙汰を拝したのである。政府としては聖慮の存する所を奉体し、大量の簡易住宅を急速に建設する等万般の対策を講じて速かに住宅問題の安定解決を期したい所存である。衣料の問題についても、特に今後冬に向つて戦災者の衣料、寝具等の対策は極めて深刻なるものがある、しかも繊維製品の在庫の払底、原料の取得困難なるに加へて、その生産設備は戦争中概ね軍需生産方面へ転換せしめられたため、国民に対する繊維製品の供給は当面相当困難なる実情にある、勿論政府としては、今後速かに生産設備の復旧を図る等、諸般の方策を講じ、なし得る限り衣料品の供給を図ると共に、戦災を受けなかつた人々の衣料を同胞愛に基づき戦災者に分配することによつて、多少とも当面の困難を緩和したいと思ふ。
 戦災その他の影響により、わが国の経済が蒙つた打撃は極めて甚大であり、経済各般の状況を詳に〈ツマビラカニ〉検討するならば、インフレーシヨンの潜在的原因が、内面的には逐次醸成せられつゝあることは否み難き所である、しかも、戦後処理等今後の事態に想到致すならば、わが国経済の負担は終戦により却て益々加重せられるのであり、若し戦後における国民の覚悟に弛み〈ユルミ〉を生じ政府の施策にして適切を欠くものありと致するならばインフレーシヨンの怖るべき惨害は、遂に収拾すべからざる破壊と混乱に導かれなければならぬ。政府としては全力を挙げてインフレーシヨンの防遏〈ボウアツ〉に努め、これが施策に万全を期する所存である。
 軍隊の復員、軍需生産の停止・転換等に伴ふ軍人及び産業要員の就職、授産等のことが戦後の処理において極めて重要な問題であることは只今も申述べた通りであり、今後においては相当の失業者を出すことも予期せねばならぬと思ふ、従つて政府としては戦後対策としての失業問題の処理については、国民生活の安定と共に特に施政の重点として、これが施策の万全を期してをる次第であり、差当り農業増産の部面にこれ等の人々の労力を極力活用するの方途を講じて参りたい所存である。
 新しき教育、文化の建設、産業の転換復旧、もとより大事業である。その他終戦に伴ふ当面の難問は今や山積してをる、これ等を誤りなく、速かに処理し得てこそ新建設への基〈モトイ〉は開かれるのであり、我々の今後における努力はまた容易ならざるものがある。政府としてはもとより全力を挙げて、これが迅速なる処理解決に邁進する覚悟であるが、これ等戦後対策が円滑的確を期し得ると否とは全国民が乏しきに耐へる生活の裡に克く〈ヨク〉建設の覚悟を示し得るか否かに懸ること、甚大なるものがある。
 われわれの前途は遠く且つ苦難に満ちてをる。しかしながら、御詔書にも御諭〈オサトシ〉を拝する如く、われわれ国民は確く〈カタク〉神州不滅を信じ、何時〈イツ〉如何なる事態においても飽く迄も帝国の前途に希望を失ふことなく、何処までも努力を尽さねばならぬのである。洵に〈マコトニ〉恐れ多き極みであるが「朕ハ常ニ爾臣民ト共ニ在リ」と曰はせられた。この有難き大御心に感奮し、われわれはいよいよ決意を新にし、将来の平和的文化的日本の建設に向つて邁進せねばならぬと信じるのであり、全国民が尽く一つ心に融和し、挙国一家、力を戮せて〈アワセテ〉、不断の精進努力に徹するならば、私は帝国の前途はやがて洋々として開けることを、固く信じて疑はぬ次第である。

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