ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「だから、」の理由を知りたくて読んだ ~「だから、生きる」(つんく♂著;新潮社)~

2024-01-31 17:58:58 | 読む

「だから、生きる。」

強く断定調に響くタイトル。

「だから」と書いてあるが、その前には理由が書いてなければならない。

「生きる」その理由は、何なのだろう?


本書が出版されたのは、2015年の9月と、9年も前になる。

その頃は気にならなかったが、先日図書館でこの書名を見つけたとき、ふとそう思い、手に取った。

 

シャ乱Qのボーカルであり、モーニング娘。らの音楽プロデューサーとして知られた著者。

2015年4月、近畿大学の入学式にサプライズ登場したつんく♂が明かしたのは、喉頭癌の手術で声帯を全摘したことだった。

これは、大きなニュースとなり、新聞、テレビなどで大きく報じられた。

喉頭癌による声帯摘出。

歌手としても音楽プロデューサーとしても、一番大事にしてきた声が奪い去られてしまった。

なんと残酷な運命だろう。

本書では、喉頭癌を宣告されてからの声帯摘出に至るまでの日々と、その時その時のつんく♂の思いが描かれている。

 

本書の構成は、次の章からなる。

序 章 新たな一歩2015.4

第1章 最後のステージ2013.8~2014.2

第2章 終わりのない悪夢2014.2~2014.10

第3章 仕事漬けの日々1992~2006

第4章 守るべきもの2006~2011

第5章 永遠の別れ2014.10~2015.4

終 章 未来へ続く扉2015.4~

見て分かるように、単純に時系列ではなく、中間の第3章や第4章で、若い頃のことや結婚してからのことがはさまって語られている。

 

第2章までは、ほかの人には知りえない、つんく♂の知られざる闘病の開始とその連続が綴られる。

シャ乱Qの25周年ツアーがありながら、声のかすれと喉の違和感に対する不安が高まる。

そして、喉頭癌と診断され衝撃を受ける。

そこから治療が始まり、苦労しながらいったん完全寛解にこぎつけたのは2014年9月。

だが、声の調子は戻らないまま、不調が続く。

モーニング娘。の10月のニューヨーク公演に帯同するときには、日本の医師から癌の再発を告げられた。

そこまでが第2章まで。

 

そして、第3・第4章では、平坦ではなかった歌手人生や、プロデューサーとして大切にしてきたことなどを語ることによって、彼が生きる上で仕事をいかに大切にしてきたかが明らかにされる。

そんな彼が、結婚したことによって、そして子どもたちが生まれて家族ができたことによって、何をおいても大切にするものが変わっていく。

奥さんとの出合いや子どもたちの誕生などのシーンが描かれ、家族との絆の深まりを感じさせる。

 

第5章以降では、第2章からの続きとなり、癌が再発見されてから、どんなふうに闘病してきたのか、その闘病を家族がどんなふうに支えてくれたのかなどが書かれている。

家族のことや、声を失って歩き始めたばかりの新しい人生についても、偽りのない思いで綴っている。

最も大切な声を失うという目にあいながらも、前を向いて進む姿勢を示すつんく♂。

序章で、近大の入学式で新入生たちに示した言葉にもそれが表れている。

私も声を失って歩き始めたばかりの一回生。皆さんと一緒です。

こんな私だから出来る事。こんな私にしか出来ない事。

そんな事を考えながら生きていこうと思います。

 

さて、冒頭に書いた「だから、生きる。」その理由は………?

著者は、本書の最後に、1行で表している。

 

「僕は妻を愛している。子供たちを愛している。だから、生きる。」

 

ただ、それだけだ。

この端的な2行にしびれた。

癌患者の実態は、私は実母の闘病の様子から、その大変さをくまなく見てきた。

だから、文章に出てくる彼の経験したことや思いには、その時のことを思い出すと同時に、自分もそうなることがあっても不思議はないと思う。

 

大変な闘病の連続を、偽りのない、誠実で赤裸々な文章で綴った著者。

迷いながらも逆境に負けない生きざまを見せるつんく♂に、今までにない好感を抱いた。

そして、彼の言う「私だから出来る事」「こんな私にしか出来ない事」をどう見せてくれるか、今後の人生と活躍に大きな期待を寄せたいと思う。

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