へんないきもの日記

今日も等身大で…生きてます😁

派遣の女5

2018-01-29 07:44:41 | 日々雑感
 この日の女の派遣先は、チョコレート工場だ。平日は女性のパートも多いが、休日のこの日は、いつもより人が少ない。

 午後8時の終業時になっても、まだ箱詰めする箱が多量に残っていた。それでも、時間契約上、終業時間になったらきっちり上がる。それが派遣というものだ。

 休憩時、女は自分より一回り以上も歳の違う女性たちに派遣で働き始めたきっかけを聴くのが好きだった。

 この日、話を聴いた女性は、平日は本業があり、会社勤めをしているという。でも、賃金が安くて、車検代を払ったら生活費に事欠くようになり、派遣に登録したのだ。

 こと、交通網の発達した首都圏ならいざ知らず、地方都市では移動の度に車は欠かせない。移動距離も半端ではない。よって、月々の交通費、ガソリン代はかなりのものだ。そう考えると、東京の方が暮らしやすいのかもしれない。時給だって1000円越えは当たり前なのに、女が暮らす福岡県の時給は、未だに最低賃金が800円を割っている。

 一週間前、広島から来た、という男性が口にした言葉を思い出した。

 福岡は広島より時給が安い、と。

 場合によっては、我々が所属している会社が大きくハネているのかもしれない。事実、一緒に勤務した連中からは、ここより時給のいいところは、いくらでもある。そういう声が聞かれた。

 それでも、皆、この会社に群がるのは、即日支給のシステムがあるからだ。

 この日、3回目となるチョコレート工場の勤務も、かなり慣れてきた。いや、慣れてはいけない。

 「成長」と「貢献」

 この相反するマインドは、確かにここで働く女の心の中を「貢献」という気持ちで満たしてくれるが、それは必ずしも女にとって「成長」へと導いてくれるものではなかった。

 いつか、近いうちに必ず、ここを出る。

 女は、そう決意した。

 でも、休憩時に話した彼女同様、女は経済的自立の為にも、まだ当面、派遣に頼らざるを得なかった。

 女自身、自分にどういう仕事が向いているのか、何が出来るのか、十分に掴みきれていなかった。

 でも、彼女達のように、いや、現在の自分のように生活費を稼ぐために長時間働く人達の助けになりたい、そう思った。

 休憩が終わる頃、女の携帯に着信があった。派遣会社からだった。翌日の夜勤に入れないかの問い合わせである。夜勤は時給が高いが生活のリズムを崩しやすいので、もう懲り懲りだ、そう思ったはずなのに、女は引き受けた。

 誰かの役に立つ

 今はただ、それだけが嬉しかった。

 でも、近い将来、必ずここを出る。女の口元に不敵な笑みが浮かんだ。

#welovegoo
#派遣の女
コメント
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