スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

企業・市場の要望に柔軟に対応する職業訓練プログラム

2011-02-18 00:07:21 | スウェーデン・その他の経済
失業した人がそれまでとは別の分野でも再就職できるように支援する職業訓練の制度については、『スウェーデン・パラドックス』の中でも詳しく説明した。職業訓練というと、公共職業安定所が提供する数週間から数か月といった短期間の講座などを思い浮かべるかもしれないが、トラックの運転手が足りないから大型の免許を取るための講座、とか、建設機械の運転免許を取るための講座といった分りやすいケースを除けば、短期間の講座ではなかなか再就職につながらない。むしろ、スウェーデンでは1年から3年かけて身につけるような比較的長い期間を要する職業訓練が大きな意味を持っている。

ここでは、高校の職業科相当の訓練や教育を社会人に提供するyrkesvux(職業成人高校)(たとえば準看など)のほか、高校以降の教育内容に相当した職業訓練を提供するyrkeshogskolan(職業大学)などの制度があるが、学べる技能や教育カリキュラムは多彩で、中には私も失業したら受けてみたい非常に面白そうなものもあるし、一般的に課程終了後の就職率は比較的高い

その鍵は、職業大学の運営主体(各地域にたくさんあり、自治体運営のものが多い)とその地域の産業界や企業との綿密な連携プレーだ。その地域でどのような技能を持つ労働者が求められているのか? 地元経済がどのような潜在性を持っているのか?などの情報を、行政担当者産学連携のサイエンス・パークやインキュベーター経営者団体・業界団体などからなる地元のフォーマル、およびインフォーマルなネットワークの中から拾い上げて、それに適した教育プログラムを策定し、提供する。そして、そのプログラム(課程)には、企業からも講師を招いたり、実際の現場でのインターンシップを重視する。そのような努力のおかげで、教育プログラムによっては、修了する前から就職が決まる人も少なくないようだ。

『スウェーデン・パラドックス』の中で紹介したのは、鉄道技術者の不足に悩む鉄道庁が公共職業安定所の協力の下で開講した「鉄道技術者養成プログラム」や、ますます需要が高まるバイオエネルギーの専門家を育てる目的で設立された「バイオエネルギー技術者養成プログラム」だ。ただし、いくら一時的な人気は高くてもその技能への需要がなくなれば廃止される。修了者の大部分がそのまま失業してしまう恐れがないように、市場の動向を捉えながらの柔軟性が重要となる。

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今また、職業大学が提供している教育プログラムのなかで大きな注目を受けているものがある。「アプリ・プログラマー養成講座」だ。

つまり、携帯電話・I-phoneやI-pad、タブレットなどのパソコン上で動かすアプリケーションを作る技術者を養成する講座だ。1年間の教育課程のなかで、プログラミングはもちろんのこと、アイデア・発想の具体化や、作成したアプリケーションのマーケティングについても学べる。


このユニークな職業訓練も、やはり地元の企業からの要望に基づいてスタートしたようだ。携帯電話やI-pad上で、ゲームをしたり、情報にアクセスしたり、銀行取引をしたり、映画を見たりするためのアプリケーションの市場は、いま爆発的に拡大している。また、アプリを通じて自社の宣伝をしたり、顧客とのコミュニケーションのチャンネルにしたいという企業が、業種を問わず増えてきている。しかし、実際に細かなプログラミングができる技術者が不足しているとの声が上がってきた。

昨年9月から始まったこの講座の受講生は、もうじき様々なIT企業でインターンシップを始めたり、クライアントから注文を実際に受けてアプリケーションを作成するといった実践段階に移っていく。しかし、受講生を受け入れたいという企業や、受講生にアプリケーションを作ってほしいという企業は非常に多く、今はすべて断っている状況だという。国内の企業からだけではなく、イギリスやアメリカ、さらにはシンガポールなどからも問い合わせが相次ぎ、この講座の責任者曰く「1時間に平均1件の問い合わせが電話かメールである。企業の中には、うちの企業を受講生に是非とも薦めてほしい、と頼み込んでくる企業もあるが残念ながらインターンシップ先はほぼ決まってしまった」とのことだ。

これまでの段階でも受講生たちはすでに合計200以上のアプリを作成しており、人気のあるものは早くも10万回もダウンロードされたという。受講生の中には、オスロで開かれるスキーの世界選手権のためのアプリを作成し販売した人もいる。

このようにスウェーデン初の「アプリ・プログラマー養成講座」は大人気を博しているため、スウェーデンの別の地域で同様の講座を開講しようとする職業大学もある。また、来学期からは「携帯電話サービスを使ったe-commerce講座」という新しい職業訓練講座を始める動きもある。

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2 コメント

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Unknown (鈴木悠史)
2011-02-18 19:45:06
以前、メールをして丁寧な返信をいただいたにも関わらず、お礼が遅くなってしまってすみません。

スウェーデンの勉強会は「スウェーデン・パラドックス」やメールのおかげで充実したものになりました。

本当にありがとうございました。

お礼が遅くなってしまったことを深くお詫びします。

これからもよろしくお願いします。
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Unknown (Yumico)
2011-02-22 12:20:49
初めまして。
「アプリ・プログラマー養成講座」や
「携帯電話サービスを使ったe-commerce講座」、
非常に興味深いです!私も受講してみたいですね。

日本の職業訓練は、その時点での市場のニーズと
合致していないケースが多いように感じます。
同じ学ぶのであれば、より効果的で、学ぶ人(将来働く人)にも
企業・市場にもメリットがある形が理想ですよね。

興味深い記事をありがとうございました。
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