スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ノルウェーのテロ事件の裁判についてのメモ

2012-04-16 23:01:16 | コラム
ノルウェーのオスロ官庁街とウトヤ島で昨年7月に起きたテロ事件の裁判が始まった。ノルウェーの史上、最大となる裁判だ。世界中からメディアが駆けつけ、日本でも伝えられていると思うので詳しい話は書かない。

主にラジオで中継や報道を聞きながら、メモしておきたいと思ったことだけ書く。

負傷者・生存者のほとんどは10・20代の若者。中には裁判を傍聴している人もいるが、世界中から駆けつけた多数のメディアが彼らを待ち構え、彼らにコメントを求めようとすることは容易に想像できる。生存者や遺族にとって非常に辛いことだろう。だから、裁判所はインタビューに応じたくない人に「No interviews, please」と書かれたバッジを胸に付けてもらい、メディア関係者にはその意思を尊重するように呼びかけているという。



・長期にわたるこの裁判を傍聴する生存者や遺族のために、彼らの心理的・精神的サポートを目的としたカウンセラーが裁判所に多数配置されている。

・この裁判のニュースは本国ノルウェーでは当然ながらトップニュースとして扱われ、詳細な報道がなされているが、事件から今日までの9ヶ月間にメディアが何度も伝えてきた話題であるから、もう聞きたくないという人もいるだろう。特に、遺族や生存者の中には裁判のニュースを一切見聞きしたくない、という人もいると思われる。そんな人のために、ある新聞社は自社のウェブ上のニュース・サイトのはじめに「7月22日事件の関連ニュースは表示しない」というアイコンを設けている。このアイコンを押せば、それ以外のニュースだけが表示されるようになる。実際に試してみると、トップニュースが「アメリカとメキシコ国境の密輸」に関するルポタージュに変わったという。新聞社は「読者に自由選択の権利があるから」と説明する。

・裁判は各国のメディアが詰めかけ、世界中に大々的に報道されている。まるでサーカスか劇場のようだ。こうして、世界中の注目の的になることは、むしろテロを通じて自身の政治的イデオロギーを世間に発信したかった容疑者の思う壺ではないか、という批判もある。ある遺族もそれは望ましくない、と口にしていた。これは私もそう思う。密室で行うのではなく、メディアを交えた公開の場で行うことの意味はあると思うが、撮影の制限などはもっとあっても良いのではないかと感じる。難しいところだ。

・一方、印象的だったのはスウェーデンの公共テレビが「法廷ではこれから数日にわたって容疑者が自ら発言する機会を与えられ、注目も浴びるだろうが、どう思うか?」と尋ねたときの答えだ。質問を受けたのはある父親で、二人の子どものうち一人を失い、もう一人が負傷したが「それは嫌なことだけど、民主主義の基本だから仕方がない」と答えていたことだ。容疑者であっても発言の機会が与えられるのは当然のことなのだけど、民主主義、という言葉が改めて身に染みた。

動画:傍聴する生存者のインタビュー(英語):画像をクリックして再生

「(ノルウェー史上稀で多数の犠牲者を生んだ事件だが)この裁判はできる限り通常の手続きに則って行われるべきだ。私たちの社会の基礎をなす法治国家の原則をこの裁判でも貫くべきだと思う。」