スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

いまだにバンダジェフスキーとは・・・(トホホ)

2014-10-23 14:54:56 | コラム
昨日、ストックホルムにて、東京大学の教授とヨーテボリ大学・シャルマシュ大学の教授の講演があった。

東京大学の中西友子教授は、様々な核種の放射性同位体を用いて植物の水分や栄養の吸収を画像化する技術の説明や、福島における水田除染や農業復興の取り組みを紹介しておられ、非常に興味深かった。また、ヨーテボリの教授は、これまでの様々な検査・測定結果から判断するに、福島での原発事故の結果として健康被害が出るとは考えにくいこと、そして、むしろ社会的な側面での問題が大きいことを説明しておられ、全くその通りだと感じた。

その後の質疑応答では、聴衆の中にいた日本人の一人が「健康被害は出ている。バンダジェフスキーも心臓の専門家で警鐘を鳴らしている」などと発言しており、この期に及んでバンダジェフスキーの名前を耳にし、正直なところ呆れてしまった。他の研究やチェルノブイリ事故後のスウェーデンの経験と照らしあわせても全く整合性がない彼の主張を持ちだしたこの方は、当然ながらあっさりと否定されていた。

もし彼の説が正しければ、スウェーデンでどのような状況になっていたか考えて見れば良いだろう。また、甲状腺検査の結果も、そこで見つかった「ガン」とされるものが何なのか、日本の他の地域との比較はどうか、事故直後の放射性ヨウ素による被曝量(推計)がどれだけでそれがチェルノブイリ事故の際に甲状腺がんを発症した人たちの被曝量と比較した場合にどうなのかを考えてみれば、福島において異常が多発しているとはいえないし、その可能性が考えにくいことは明らかであろう。

震災から3年半。しかし、震災直後に得た情報の呪縛にしばられたまま、そこから全く前に進めない人もいる。当事者なら仕方がないかもしれないが、遠く離れたスウェーデンにいながら全く学ぼうとしないのは大変に残念である。

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2 コメント

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Unknown (sumire)
2014-11-03 10:24:29
震災後の心疾患の増加に関しては循環器学会での報告があります。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/jcs2012/201203/524102.html

放射性セシウムは甲状腺のみならず筋肉組織に沈着することが知られています。

小児甲状腺がんは非常に稀な疾患で、100万人に1人と言われていますが、2014年5月の段階で28万人調査し、疑い例含めて90名が診断されています。対象例として他地域小児1000名を調査したところ、1人が甲状腺癌と診断されたということで、比較して、増加はないとされているとのことですが、対象例の調査数が少ないと考えられます。
Unknown (Yoshi)
2014-11-03 21:07:54
>放射性セシウムは甲状腺のみならず筋肉組織に沈着することが知られています。

セシウムはカリウムと化学的特性が似ているため、そのことは以前から知られていることです。心臓にとりわけ溜まりやすいという話が本当ならば、他の動物においても心臓にセシウムが溜まりやすいはずでしょうが、家畜などの動物の分析からは、そのような結果はありません。

おっしゃる「震災後の心疾患の増加」に関しては、震災後の避難生活による影響やストレスの影響など、様々な要因があるため、それがセシウムのせいだ、というわけではありません。心疾患と判断された人が実際にセシウムをどれ摂取していたのか、そして、その摂取量と心疾患の発生確率との間に相関があるのか、この点について教えて頂けますか? そもそも、日本において放射性セシウムの摂取量がどれくらいなのか、ご存じですか? スウェーデンやノルウェーは、日本よりも遥かに食品の流通基準値を高く(つまり緩く)設定したわけですが、食品を通じたセシウムの摂取によって心疾患が増えたなどという報告はありません。

甲状腺については、よく言われる「100万人に1人」というのは、実際に発症してから明らかになったケースのことです。嚢胞があっても必ずしも発症するわけではないため、検査しなければ嚢胞に気づかない方もいます。この値と、検査してみて嚢胞が発見されたケースの数とを比較するのは非常にナンセンスですね。津田氏の統計については、その数字を吟味していくと、かなり杜撰であることが明らかになっています。

そもそも、チェルノブイリ事故においては、どのような被ばく線量から甲状腺がんが発症し始めたか、そして、今回の震災において放射線ヨウ素による被曝量が最大でもどのくらいであったかを比べてみれば、日本において放射性ヨウ素を原因とした甲状腺がんが増える可能性は殆どないと判断できるでしょう。以前、私も今回の震災におけるヨウ素被曝量(推計)の90パーセンタイル値を調べてみましたが、甲状腺がんの発症が予測される被曝量を下回っていました。

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