スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

エジプトの民主化運動

2011-01-30 23:34:50 | スウェーデン・その他の政治
北アフリカのチュニジアで始まった反政府・民主化デモが政府を転覆させ、その波が他のアラブ諸国に波及しようとしている。アルジェリア、ヨルダン、イエメンなどにも広がるなか、エジプトでも独裁体制をとってきたムバラク大統領に対するデモが激化している。

通常、多くの人が参加する金曜日のイスラム礼拝だが、先週の金曜日にもエジプト各地において、礼拝の参加者がそのまま街に繰り出し、大規模なデモ活動を展開した。不満を抱える人同士が、簡単にやりとりし、誰かの呼びかけに賛同して大きなデモを展開することが可能になったなったという点で、FacebookやTwitterなどをソーシャル・メディアの役割は大きい。ムバラク大統領はインターネットや携帯回線を切断したり、閣僚を交代させて、不満を解消させようとしたが、そのような小手先では民主化を求める人々の不満は収まらない。ムバラクは、公安部長を副大統領に任命し、自身の後継者とすることを目論んでいるようだが、この様子だとムバラクの独裁体制も長くはなさそうだ。

チュニジアで政府を覆した民主化運動は、68年にチェコで起こった民主化運動にちなんで「チュニジアの春」といった言葉や「ジャスミン革命」といった呼称が使われている。そして、それが他のアラブ諸国にも波及している今、80年代末から90年代初めにかけて東欧の旧共産国が次々と瓦解していった動きになぞる見方もある。

スウェーデンのテレビや新聞も、チュニジアでの政変以来、この動きを大きく取り上げているが、ネット上でもアルジャジーラのサイトで現地のライブ報道を見ることができる。この週末は、街頭に繰り出している大勢の人々を映すと同時に、国営テレビがどのような報道を行っているかをリアルタイムで見せてくれた。簡単に想像がつくように、国営テレビの側は閣僚の動きを追い、政府が事態をいかにうまく収拾させているかを強調している。また、アルジャジーラは外国のプロパガンダを流しているから見ないようにと、国民に訴えてもいた。

また、アルジャジーラの中継を見ていると、バックグラウンドに戦闘機の爆音が立て続けに聞こえた。空軍が低空飛行を行い、デモを威圧しようとしているのだろう。一方、街頭で警備にあたっている陸軍のほうは、立場がよく分らない。よく見かける光景では、デモ隊と一緒に仲良く大騒ぎしているなので、必ずしも敵対しているわけではないようだ。他方で、警棒と催涙ガスでこれまで対抗していた警察は、姿を見せなくなり、街の一部では無法状態になりつつある。夜間外出禁止令も効力を持たなくなっている。

イスラム諸国で巻き起こっている民主化の動きは、一方では、中流階級が政治の実権を握るエリート階級の汚職や横暴、そして経済運営の失敗に我慢ができなくなり、他方では、貧しい階級が日々食べるものに事欠くなかで、自分たちの生活を何とかしてほしいと要求するようになり、その両者の目的が一致し、力を合わせたことが背景にあるようだ。振り返れば、エジプトは1960年代には韓国と同じ生活水準だったというが、今では韓国が4倍も差をつけてしまった。そして、人口の4割が一日200円以下で貧しい生活をおくっている。グローバリゼーションの中で、他国との経済格差が拡大するばかりであることに人々が気づいたのだろう。今までは反対の声すら上げられなかった人々が、一時的な自由を手に入れた開放感は見てみて面白い。「今まで考えられなかったことだが、何もかもが可能だと感じられる」とインタビューに答えた人がいた。ちなみに、デモの映像に通常映っているのは男がほとんどだが、スウェーデンの公共テレビはデモに参加している若い女性(学生)に焦点を当てて取材をしていた。

イスラム諸国の民主化が一気に進展するようになれば、素晴らしいことだと思う。「プラハの春」のように力で抑えつけられてしまう可能性もあるが、ムバラク大統領もここまで発展した反政府デモを今から力で抑えつけることは難しいだろう。幸いにも、54年のハンガリーや68年のチェコのように外から軍隊がやってくることはなさそうだ。問題は、これまで独裁政権と手を結んで彼らを「自国にとっての重要な同盟国」と呼んできた、アメリカの出方だろう。

もう一つの不安要因は、政治の混乱に乗じてイスラム過激派が政権を取る恐れがあるかもしれない、ということだ。ムバラク政権に活動を禁止されてきた過激派グループは、反政府という立場から今のところは民主化を求める中流階級や労働者階級と手を取り合っているが、独裁政権が倒れたときに彼らがどのような動きを見せるのか気になるところだ。しかし、スウェーデンの大手日刊紙の論説委員がこう書いていた。「宗教原理主義者が政権を奪うという恐れは確かにある。短期的にみれば、現体制を維持することのほうが、彼らに政権を明け渡すことよるもマシだというケースもある。しかし、長い目で見た場合には、それが現体制の維持を擁護し正当化する理由にはならない。」(安定の維持を言い訳にした民衆の抑圧は、まさに中国の共産党政権が常に取ってきた手だ、と付け加えている。)

ちなみに、下の画像は中東情勢を伝えるアメリカのFox Newsのもの(出所)


エジプトがあそこということは、イラクの場所も分からないようだ。ブッシュ政権とともに、アメリカ世論を煽り立ててイラク戦争を始めた「狐ニュース」が、実はそのイラクがどこにあるのか知らないというのは、笑える話だ。驚きはしないけど。

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3 コメント

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人々のふんばりを祈るのみです (kumoki)
2011-02-02 06:57:29
間違え方に絶句です。よく見つけましたね…。
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Unknown (H.Usui)
2011-02-03 03:57:00
遂に尻尾を出したということですね。お狐様TVには夢信じる無かれですね。
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Unknown (Yoshi)
2011-02-06 10:12:25
あの画像は、どうやら2009年ごろのものらしいですが、それにしても、大手メディアがこんなことをするとは・・・。

彼らにとっては、those countries "over there"ということなのでしょう。
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