スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



選挙権・被選挙権ともに18歳以上であるスウェーデンでは、18歳の国会議員や市議会・県議会議員が誕生することも珍しくないことを、このブログでも書いてきた。

この18歳以上、という制限をさらに下げて16歳以上にしようという声は、環境党などを中心に以前から上がってきた。しかし、さらに斬新なアイデアがある。いっそのこと、0歳児も含めて国民全員に選挙権を付与してはどうか?というものだ。

そんな奇抜なアイデアを打ち出しているのは、ヨーテボリ大学政治学部ロースタイン(Rothstein)教授だ。正確に言えば、子供が自ら判断して票を投じるというよりも、保護者が子供の立場から彼らの一票を代理で投票するという考えだ。彼は新聞のオピニオン欄に自身の主張を展開し、ラジオの時事問題番組でもインタビューを受けていた。


彼の主張はこうだ。幼い子供や児童・生徒育児・保育・教育といった公共サービスを利用している。これに対し、大人であれば様々な社会保険制度や年金制度、医療制度、高齢者福祉サービスのほか、大学教育や職業教育といったサービス、障碍者であれば様々な支援サービスを利用している。それならば、幼い子供や児童・生徒にも公共社会サービスの他の利用者と同じように、自分たちの声を投票行為を通じて政治に反映させる権利を与えるべきではないか、というわけだ。彼らは政策の動向によって大きな影響を受けているにもかかわらず、現状では彼らの声を政治の場で代弁する者がいない

でも、育児・保育・教育サービスの利用者としての一票は、子供の母親・父親が既に行使している、という反論も聞かれよう。

しかし、ロースタイン教授の主張のより本質的な狙いはさらに一歩先にあるようだ。日本ほど速度が早いわけではないにしろスウェーデン社会でも人口の高齢化が徐々に進行しつつある。有権者の人口構成もそれに伴って変化していくから、政治権力の重心が徐々に高齢者へと移動していると見ることもできる。政党の側にとっても中高年以上の有権者の票がますます重要になってくるから、打ち出す政策案も高齢者向けのものに重点が置かれてくるようになるだろう。

すると、これからの時代を担う若い世代を考えた政策が相対的に少なくなり、彼らの声が反映されにくい、窮屈な社会になってしまうかもしれない。

そういえば、昨年の選挙キャンペーンの際に、そんな兆候の一端が少し見られた。高齢者・年金受給者の有権者がこれまで以上に注目を受け、どの政党もこぞって彼らの有利になる減税案を打ち出し、票の獲得に走ったのだった。

(高齢化社会において様々な公共サービスの財源をきちんと確保するためには、より多くの人が働き社会に貢献し、税金を納めていくことが必要だ。高齢の人でも健康で意欲のある人にはなるべく長い間働いてほしい。もちろん無理に強いるわけには行かない。しかし、例えば税率や社会保険料率に差をつけることでより長く働くことが得になるというインセンティブを与えることはできる。だから、その一環として勤労所得に課せられる所得税は、年金所得にかかる所得税よりも若干低く設定されている。しかし、その差をほとんどなくしてしまおうと、多くの党が主張したのだった。)

だから、次世代にとっても明るく、活力のある社会を作り出していくためには、0歳児から17歳までの国民にも参政権を付与し、政治権力のバランスを若い世代に戻す必要があるという主張は、非常に面白い(正確に言えば、新たな参政権を与えられるのはその親である20代後半から40代の世代だが、次世代である自分の子供のことを考えた票を投じやすいだろう)。確かに、政治の場における意思決定には、例えば財政の借金や、気候変動対策・少子化対策(の怠慢)などのように次世代の社会に大きな帰結をもたらすものも多い。だとすれば、ロースタイン教授の主張する方法がベストかどうかは別として、何らかの形で次世代の声を現在の政治決定に反映できるようなシステムが必要だろう。

ロースタイン教授のこのアイデアは、あくまで「空想の上での実験」であり、現時点での実現性は全くない。また、彼の主張は「高齢者は自分たちの世代の利益最大化のみを考えて票を投じる」という仮定のもとに成り立っているから、実際はそうではない、という反論もあるだろう。しかし、少子高齢化社会が抱える政治上の潜在的なリスクを端的に表現したものだと感じる。

折りしも2日前に、京都大学時代のある先生からメールを頂いた。その方がメールの中で指摘しておられたのは「日本社会の高齢化が進むなか、若い世代は自らの活力や独自性を社会の中で発揮することが難しくなっている」ということだった。この世代間における代表性のアンバランスの問題は、スウェーデン以上に日本で深刻な問題となっていくだろう。政治の場における若い人々の声を保障するために、例えば、今の参議院を再編し、年齢別に分けて、各世代が自分たちの代表者を選んで国会に送り込む(つまり、各州ごとに議席が確保されたアメリカ上院や身分制の時代の議会のように)なんていう奇抜なアイデアがあってもいいのではないかと思う。

そうなれば、歳出のほぼ半分を借金で賄い、その返済を次世代に押し付けているような政治がいつまで続けられるだろうか?


コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (3ds)
2011-01-29 17:26:16
有権者に占める老人の割合と彼らが政治に使える時間の量については、日本でも話題になっています。

日本では老人vs若者という構図で煽る記事が多く、リプライは老人の参政権を剥奪しろという意見がよく見られます。20-70歳に投票権を与える案。

一方のこの方のアイデアは、全員に与えろというもので、平等ですしコストもそれほどかからず実施しやすいかもしれません。

ベビーブーマーが引退しつつあるアメリカでもこの問題はすでにおきていて、市議会の公聴会は婆さんばかりで、議員に陳情するのも婆さんばかりとのことです。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2011-02-06 10:14:47
参政権の剥奪はさすがに無理ですが、拡大は可能という点で、このアイデアは面白いものかもしれませんね。
 
 
 
Unknown (Unknown)
2012-08-10 18:33:54
日本で選挙権を得るようになるのが20歳、現在の平均余命が82.9歳であることを考えると、
20/82.9=24.9%
つまり、人生の前半約25%の期間の選挙権が制限されているわけですから、
人生の後半約25%の期間(62-3才以降)の選挙権を制限した方が公平でしょう。

まあ制限は難しいでしょうから、そうでなければ、
生まれた直後から選挙権を与えて、20歳までの間は、親権者が代理行使できるようにすると公平になるでしょうね。


 
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